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全芸人が追いかける「ダウンタウン」の攻略法は意外と身近なところにあった?

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ダウンタウン(写真/Getty Imagesより)

 僕は主に書き物を仕事としている。映画や舞台の脚本や台本を書いたり、このようにコラムを書かせてもらったりと。モノを書く仕事は自分の性に合っていて、比較的苦労せずに文章を書けるのだが、書くのとは逆に文章を読むのがとても苦手なのだ。文字を追うことに集中しすぎて内容が頭に入ってこなかったり、途中でどこを読んでいるのかわからなくなり何度も同じところを読み返してみたり、軽くディスレクシア(読み書きが困難な学習障害のひとつ)が入っているように思う。

 そんな僕だが、今回どうしてもレビューしたい本があった。それは『SWITCH』という雑誌の2月号だ。歌手や俳優、芸術家や写真家など、さまざまなカルチャー領域で第一線を走り続ける表現者を取り上げてきた雑誌『SWITCH』。その2月号はなんと「お笑い」がテーマなのだ。

 吉本興業の創業110周年を記念し、12月20日に発売された1月号を前編、1月20日に発売された2月号を後編とし、2号連続でお笑い特集が組まれ、劇場から始まり、テレビやラジオ、そしてYouTubeなど、さまざまに広がる“お笑いの現場”を徹底的に取材してくれた。

 今回は、その中でも2月号で特集されている「ダウンタウン」のお二人に対して行われたインタビュー記事をレビューしてみたいと思う。まずこのインタビューのすごいところは、インタビュアーが普通の雑誌記者ではなく、あの高須光聖なのだ。

 高須さんといえば、浜田さんとは同じ幼稚園、そしてお二人と同じ小学校、中学校に通っていたという、幼少期から親交があり、コンビ結成後も作家としてダウンタウンのお二人と並走してきた、第三の脳みそと言っても過言ではない方である。

 そんな高須さんだからこそ聞ける質問……いや、そんな高須さんだからこそ聞き出せる答えに期待して、早速インタビューを読み始めよう。

 インタビューは、40周年を迎えるダウンタウンさんに対して、この40年を振り返り「楽しかったか? 楽しくなかったか?」という質問から始まった。松本さんははっきりと「楽しくない」と言い、浜田さんは「よくわからない」という答えだった。

 我々のような一般人から見たら、それなりに苦労はあったであろうが、人一倍多くの収入があり、先輩より後輩が多くなっていき、自分たちがお笑い界のトップにいるなら、少なからず今現在は「楽しい」と思っても良さそうなものだが、お二人とも楽しいとは言わないあたりがダウンタウンさんらしさであり、我々にはわからないトップならではの苦労を楽しさが上回ることはないのかもしれない。

 ちなみに松本さんが「楽しくない」と言った理由は「旅行に例えるとまだ途中だし、終わってみるまで何があるか分からないという不安から楽しくない」というものだった。この40年を振り返ってという質問にも関わらず、40年という時間に区切りをつけることもなく、まだ途中と言ってのけるのはさすが松本さんといったところで、質問に対して固定概念を持っていない様子がうかがえる。

 一方、浜田さんの「よくわからない」という答えに対しては、これといって掘り下げることもなく、次の質問へ移行している。

 次の質問は「デビュー当時に今のような未来が想像出来ていたかどうか?」というもの。松本さんは「ある程度思っていた」。浜田さんは「全然イメージ出来ていなかった」と対照的な答えを述べている。

 この答えからわかるように、もともとテレビ等でもおっしゃっていたが、ダウンタウンの進むべき道への舵を切っているのは松本さんで、浜田さんの方は、このインタビュー記事にも書いてあったのだが、一歩引いたところから操舵士である松本さんの動きを見つつ、出しゃばり過ぎずコンビのバランスを考えながら補助をしているといった感じ。

 今回のインタビューを通して感じたのは、間違いなく浜田さんはボケ上位主義ということ。その一面が垣間見られたのは「ダウンタウンは他のコンビとどこが違う?」という質問だった。浜田さんは他のコンビ、特に今活躍しているコンビはボケだけではなくツッコミも前に出るコンビが多いと感じているようで、他の芸人を見ているときに、ツッコミに対して「いや、お前引いとけ」や「今ボケの自由に任せといた方がええで」と心の中で思っているらしい。

 この考えはとても共感できるもので、僕が芸人をしていた十数年前にはすでに「ツッコミが目立つ」というコンビがチラホラ出てきており、漫才のネタがツッコミでしか笑いを起こせないコンビがいたり、フリートークでボケよりもおもしろいことを言いたいという意思が見え隠れするツッコミがいた。

 ダウンタウンを見て育った僕としては「ツッコミがボケをするとボケの仕事が減ってしまうのに何をしてるんだ。ツッコミはボケがボケやすい環境を作ることに集中すればいいのに」と常に思っていた。なので、後輩でバランスの悪いコンビがいると、老婆心だが、ツッコミに集中した方が良いとアドバイスしたこともあった。

 なので、この浜田さんの話を聞いて、やはり自分の価値観はダウンタウンさんからすれば間違っていなかったのかもと思い、すでに芸人ではないくせにうれしくなってしまった。

 うれしくなったと言えば、昨年行われた「伝説の一日」で披露した漫才について、その時の様子を語った浜田さん側のインタビュー内容がとても印象的だった。約20年ぶりの漫才でネタを考え進行する松本さんは多少アガっていたらしく、ネタに入る前のトークでは『ガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)で行っていたフリートークのように、センターマイクからだいぶ離れてしゃべっていた。しかし、段々ネタに入るにつれて、少しずつセンターマイクに寄り出して漫才の形になっていったと。

 漫才をしているコンビの距離は、みなさんが想像しているより近い。センターマイクに声を入れるために、どうしても距離が寄ってしまうのだ。それがいつの間にか、そのコンビの漫才の距離になり、何度も漫才をすることにより体に定着する。漫才をすると必ずその距離になり、その距離以外では気持ち悪くなってしまうのだ。漫才師ならわかるのだが、フリートークの距離で漫才をしろと言われてもたぶんできない。もちろんしゃべれないというわけではなく、ボケもツッコミもテンポも台本通りできるのだが、ネタ自体が持っている本来のおもしろさを引き出すことは不可能だろう。

 長年漫才をやって染みついたダウンタウンさんの距離感は、20年経った今でも体が覚えていたのだろう。とても素敵だ。

 今回このインタビューを通して思ったことは、ダウンタウンさんお二人の回答や印象が真逆ということだ。松本さんは、質問された内容に対して素直に答えることはほぼない気がした。「でも」などの反語でスタートすることが多く、さらに会話を否定するパターンも多かった。たとえば、

高須「今何してるときが一番楽しい? 仕事以外で」

松本「別に何もないよ」

高須「やっぱり仕事やんな。趣味ないもんね」

松本「仕事も別に楽しくないけどな」

 このように否定すると一見話が広がらないように思えてしまうが、これは芸人がよくやる手法で、相手の意見を否定することにより、意見がぶつかり合い、話が広がる場合もあるのだ。松本さんはこの手法を多用する方のようで、ひどいときには自分の言った意見すらも否定する。

 松本さんが浜田さんを褒めた後に、高須さんが「点数で言うならば、浜田はデビュー当時は何点くらいで、今何点かを訊きたいねんけど」と言うと、まず「いや、やっぱり相方に点数はつけたくないかな」と根本から否定し、褒めていたことを言われると「だからと言って点数が上がったわけじゃない」や「もしかしたらマイナスかもしれない」などと言い出す始末。松本さんのこのシャイで天邪鬼な感性が、ダウンタウンのおもしろさを作る原動力なのかもしれない。

 対して浜田さんは、とてもフラットに思うままに答えていたように感じた。松本さん同様「相方に点数をつけるとしたら?」という質問には「お笑いとしては、それはもう百点ですね。あの才能と発想力と。そういう意味では文句つけようないわ。あれに文句つけたらあかん」と、本人がいたら恥ずかしくて言わないようなことも素直に言っている。

 相方に百点をつけて才能をべた褒めする様は見ていて清々しく、松本さんへの信頼感や尊敬が包み隠さず表れている。

 浜田さんのインタビューでもう一つ印象的だったのは、長年トーク番組のMCやツッコミをしているので、思わぬ「聞き上手」を発揮しているところだ。相手の話を聞き出したり、展開するのが癖になっている浜田さんは、高須さんの質問に対してすぐに答えはせず質問で返す。そして、気が付くと高須さんがインタビューされていると錯覚してしまう状態になるのだ。

 高須さんの「40年経ってみてダウンタウンってやりやすくなってる?」という質問に「今は確かにそうかもわからへんわ」と答え、高須さんがそれに対して「それは何が変えた思う?」と質問すると、普通なら会話をスムーズに進行するためにすぐに答えそうなものだが、浜田さんは「なんやろ」と。

 それに対して、高須さんが「『ごっつ』が終わって変わった。坊主になって変わった。筋トレやって変わった。金髪になって変わった」と、質問した側が答えてしまったのだ。これが浜田さんのトークテクニックであり、一流のスキルが見られた瞬間だ。

 今回のインタビューは、松本さんは『ワイドナショー』(フジテレビ)の収録終わりの楽屋で、浜田さんはその翌日の『水曜日のダウンタウン』(TBS)の収録前に行っており、お二人がバラバラの状態で行われた。さらにインタビューの相手が気心の知れた高須さんということもあり、普通のインタビューより素が垣間見られたはずだ。

 そんなお二人が素の状態で真逆の回答をするということは、ダウンタウンというコンビでなくとも、松本さんと浜田さんはもともと凹凸がばっちり噛み合った2人ということ。そんな絶妙なパワーバランスは、他の芸人が真似するのはかなり難しい。

 しかし、コンビ間のパワーバランスはどの芸人も意識していることであり、何も特別なことではない。全芸人が追いかける「ダウンタウン」の攻略法は意外と身近なところにあるのかもしれない。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/02/22 13:00
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