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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.726

“嘱託殺人”を題材にした犯罪映画『タスカー』絶望の先にあるものは何か?

自殺してしまった人の人生を否定したくない

“嘱託殺人”を題材にした犯罪映画『タスカー』絶望の先にあるものは何か?の画像5
章二が保険金を残そうとした娘の里香(新井田心咲)

 およそ20日間の撮影期間を経て、ようやく『タスカー』は完成し、2022年に北海道で先行上映が行なわれた。嘱託殺人という重いテーマに挑んだ本作だが、死ぬことばかり考えていた主人公が死に際で決意が揺れ動くなど、非常に人間くさいおかしみも感じさせるドラマとなっている。劇場で笑いが起きるシーンもある。一般的なハッピーエンドとは異なるが、絶望の淵に立った主人公たちが眺めた光景の中には、少なからず希望も残されていたように思う。

鎌田「嘱託殺人や自殺幇助を全肯定するつもりはありませんが、自殺してしまった人の人生や死にたいと考えている人のことを、僕は否定したくない。死について考えることを一方的にタブー視するのではなく、いろんな考えを持つ人たちと話し合えるといいなと思うんです。この映画がそのきっかけになれればいい。

 もし、自分の周囲に『死にたい』と考える人がいて、そのことを打ち明けてくれたら、『じゃあ、死ぬ前に富士山を見にいこうか』などと誘うことができます。富士山を見にいく過程で考えが変わるかもしれないし、変わらなくても一緒に富士山を見にいったという思い出は残ります。

 菜葉菜さんが演じたヒロインがラストシーンで叫ぶ台詞は、僕の想いを込めたものです。この映画を完成させたことで、僕自身が映画監督として成長できたとは思っていません。でも、これでようやく前に進むことができるんじゃないかと思っています」

 現代社会の経済至上主義が、高齢者や障害を持つ人たちを「生きている価値がない」と追い詰めている一面もあるだろう。また、日本では嘱託殺人も自殺幇助も犯罪となる。だが、その一方では、ゴダールのように「死」に安らぎを求める人たちもいる。

 本作のタイトルとなっているtocka(タスカー)はロシア語で、「憂鬱」「絶望」などの意味があるが、「憂鬱の先に何かあるかもしれないという願望」や「魂の探索」という反対の意味もあるという。死や絶望の先にあるものは何なのか? 主人公たちが見つけたものを、ぜひ劇場まで確かめに訪れてほしい。

『TOCKA[タスカー]』
監督/鎌田義孝  企画/鎌田義孝、井土紀州 脚本/加瀬仁美、鎌田義孝
音楽/斎藤ネコ 撮影/西村博光 照明/大和久健
出演/金子清文、菜葉菜、佐野弘樹、イトウハルヒ、内藤正記、山野久治、田中飄、松浦祐也、川瀬陽太、足立正生
配給/鎌田フィルム 2月18日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中
©2022 KAMADA FILM
tocka-movie.com

【パンドラ映画館】過去の記事はこちら

最終更新:2023/03/30 19:30
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