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『100よか』悠依が囚われる“生存者の罪悪感”と、ハヨンの「許せない」苦しみ

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ドラマ公式サイトより

 TBS系金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』が、今夜第8話を迎える。主人公の相馬悠依(井上真央)が、運命の相手だと思っていた恋人・鳥野直木(佐藤健)を突然失い、そこに幽霊となった直木を見ることができる刑事・魚住譲(松山ケンイチ)が現れ、3人で直木の失踪の理由を追っていく本作。公式サイトのあらすじによると、第8話ではついに直木を殺した証拠が見つかって事件は解決するかと思われるが、一筋縄ではいかず、さらなる展開が待ち受けるようだ。

 生前の直木が巻き込まれたとみられる高原涼香(近藤千尋)殺害事件。第6話では15年前に傷害罪で実刑判決を受けている田中希也(永島敬三)という男が犯人である可能性が浮上した一方、涼香の学生時代の友人で、悠依と直木とは同じ里親のもとで一時期を共に過ごした仲である尾崎莉桜(香里奈)が悠依にSOSを出し、過去に何があったのかを伝えようとする。だが、悠依と莉桜が再会を果たそうとした瞬間、希也の運転するワンボックスカーが莉桜の前に停まり、「ちーちゃん」こと武藤千代(神野三鈴)の言われるがままに莉桜は車に乗り込み去ってしまった。

 魚住は車両ナンバーを確認して後を追おうとするが、突然の頭痛に襲われてその場にうずくまってしまった。第7話では、病院に運ばれた魚住が、医師から偽性脳腫瘍の可能性を説明される。しかし、これは魚住の“共感力”の高さが原因だった。魚住家は代々霊が見える家系で、姉の叶恵(平岩紙)は先祖が遺した文書に「霊と交流する者の中には、霊に乗り移られる者もいる。その場合、すみやかに霊から離れなければ命を削られ、やがて命を落とす」とあるのを発見し、慌てて連絡するが、魚住は相手にしない。自分の不調には気づいているはずだが、今の魚住にとっては悠依や事件のほうが大切だった。

 一方、幽霊である直木は、莉桜の乗った車に乗り込むことに成功し、横須賀にある千代の家にたどり着く。千代の発言からすると、莉桜や涼香も過去にここに来ていたようだ。千代は莉桜の内縁の夫である石岡清治郎(長谷川初範)の息子の写真を出し、「いいお客様なの」と言う。「わざと近づいたの?」とピリつく莉桜だが、千代は偶然だと主張し、「大人の趣味の世界は……狭いから」と説明する。「趣味? そんなんじゃない、あれは!」と莉桜が怒ると、千代は「そうね。衝動。絶対に抑えなきゃいけないのに、抑えきれない衝動。それも愛情かしら?」とほほ笑む。そこに10代の少女たちが「ただいま」とやってくる。千代の「お帰り」という言葉を受け入れる彼女たちは、千代に懐いているように見えるが、莉桜の表情は堅い。そして千代は隠し撮りした悠依の写真をチラつかせ、莉桜を脅してくる。「もうやめて」と訴える涙目の莉桜に、千代は「それはあなた次第よ」と冷酷に言い放った。

 すべてを見ていた直木は魚住のもとへ駆け込み、莉桜が連れていかれた千代の自宅の住所を伝えるが、「幽霊からの情報」では警察は捜査に乗り出せない。千代が悠依の写真を脅しに使っていたことを考えると、悠依が動くのも危険だ。やむなく魚住は、見回り巡回という体裁で千代宅を訪問するが、そこには希也も莉桜も、少女たちの姿もなかった。千代は地元の名士ということもあり、地元署にクレームを入れ、魚住が始末書を書かされるだけの結果に終わった。

 叶恵は、魚住が直木と“相性ドンピシャ”で乗り移られる危険性が高いことに気づく。直木はこれまで二度、魚住の体に乗り移っているが、“乗り移り”は三度目で「アウト」だという。直木から距離を置くよう叶恵は忠告するが、悠依が心配な魚住は気に留めない。業を煮やした叶恵は、悠依と直木に直接事情を話し、魚住に近づかないよう直木に頼む。直木たちは驚き、今後は魚住と関わらないことを約束する。悠依も魚住に直接、「直木とは会わないでください。うちにも、もう来ないでください」と告げ、これまで助けてくれたことへの感謝を述べる。

 千代の自宅を警察が調べる理由は見つからず、直木と会話できる魚住ももう頼れない。行き詰まりを見せるなか、悠依の美容室に山﨑莉果(佐藤ひなた)という少女が現れ、「尾崎莉桜さんに言われてきました」と言って、助けを求めてきた。莉果は千代のもとにいる少女のひとりで、莉桜が逃がしたようだ。事情を察した悠依はまず莉果をかくまうため、莉果の祖母のもとに送り届け、警察に向かおうとするが、そこに鉄パイプを持った男が襲ってくる。幽霊の直木では悠依を守ることはできない。絶体絶命と思われたところに現れたのは、もう会うなと言われていた魚住だった。

 男を現行犯逮捕した魚住は、無事でよかったと声をかけつつ、悠依の危険な単独行動をたしなめる。悠依は謝りつつも、「あの子を助けたかった」「守ってあげたかった」と訴える。そんな悠依を見て、魚住は「ひとつ確認させてください」と断って、「あなたは20年前、彼女たちのような被害に遭われたことはありますか?」と尋ねた。苦しそうな表情で魚住を見つめたあと、首を振って否定する悠依。しかし、それこそが悠依の抱える苦しみだった。同じ里親に預けられていたのに、莉桜と涼香と一緒に遊園地に行ったこともあったのに、莉桜が抱えていたものを何も知らなかった。自分も莉桜や涼香の側にいた可能性もあったが、「あんたはこっち来んな」という莉桜に守られていただけだったことを、ずっと知らなかった。その莉桜に関わろうとして直木が殺されただろうことを考えると、余計に自分だけが生きていることに罪悪感を覚えるのだ。

 悠依は、直木が幽霊として見てきた情報を自分が証言したことにすればいいと言い出し、危険だと制止された際も、「でも、前に魚住さんが言っていたとおりなら、その女の子たちは犯罪に巻き込まれてる可能性が高いってことですよね? だとしたら、このままにしちゃいけない。分かってるのに何もしないとか、それは……絶対ダメ」と焦っていた。一歩間違えれば自分も莉桜たちと同じ境遇にいたはずで、自分だけが「こっち」という安全圏にいるような気がしてしまうのだろう。直木は「無事でいることに何の罪があるんだよ?」「堂々と幸せでいろよ!」と叫ぶが、魚住の“通訳”がなくとも、そんな直木の気持ちは悠依も痛いほど分かっているのだった。

 第3話で里親に預けられた事情が明かされた直木と違い、悠依の詳しい過去は伏せられたままだ。実の親から離れて里子となっていた悠依にも、何かしら重い事情があるのだろう。悠依が莉桜やほかの少女とたいして変わらない境遇にありながら、「自分だけが恵まれている」「生きてしまっている」と悩む心理は、2018年に同じ金曜ドラマ枠で放送されていた『アンナチュラル』の第7話で描かれた“生存者の罪悪感”(サバイバーズギルド)に近いものがある。

 『100よか』第7話では、これとはまた少し違った形の「罪悪感」も描かれた。第6話から登場している幽霊の原田弥生(菊地凛子)だ。生前、韓国にいた弥生は、運転中に脳出血を起こし、1年前に交通事故で死んでしまったが、それに巻き込まれて亡くなったのが、ソン・ハヨン(シム・ウンギョン)の夫であるウジンだった。弥生はずっとそのことを悔やみ、ハヨンに直接謝罪したいという気持ちが「思い残し」となり、幽霊となって漂っているようだった。弥生は魚住を通じてハヨンに謝るが、ハヨンは「許してあげないといけないの?」と泣き出す。原因が脳出血であることから、医師であるハヨンは、弥生に非がないことは理解しているが、しかしその不条理さに気持ちが追い付かない。

 誰も悪くない夫の事故死に「どうして?」の思いがぬぐえないハヨンは、「ごめんなさい。あなたのことは許せない」と弥生に告げて去ってしまう。そしてハヨンは、夫に瓜二つな魚住に「死んじゃうって悲しいです。思い残しがあるのは幽霊だけじゃない」「幽霊でもいいから、会いに来てくれたらいいのに。……ウジンに会いたい」とこぼす。ウジンが成仏していることを知る弥生は、うつむいてしまうのだった。悠依が、自分だけが安全に暮らしていることに抱いた罪悪感は、直木が即座に否定し、魚住もまた直木に強く同意した。一方で、弥生が抱える罪悪感に直面したハヨンは肯定も否定もできず、やりきれない思いをぶつけてしまう。サスペンスやラブストーリーに差し込まれるこうした繊細な心理描写も、『100よか』に惹き込まれる理由のひとつだろう。

■番組情報
金曜ドラマ『100万回 言えばよかった
TBS系毎週金曜22時~
出演:井上真央、佐藤 健、シム・ウンギョン、板倉俊之、少路勇介、穂志もえか、近藤千尋、桜 一花、平岩 紙、春風亭昇太、荒川良々、松山ケンイチ ほか
脚本:安達奈緒子
音楽:河野伸
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」
警察監修:志保澤利一郎
里親監修:岩朝しのぶ
医療監修:冨田泰彦、藤田浩
プロデュース:磯山晶、杉田彩佳
演出:金子文紀、山室大輔、古林淳太郎
編成:中西真央、吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:tbs.co.jp/100ie_tbs

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/03/03 12:00
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