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『インフォーマ』はなぜ、人々の心を動かしたのか? 

横浜流星
©カンテレ

ドラマ『インフォーマ』の第6話が地上波でも放送された。河村愛之介役として、そこに現れた横浜流星の美しい躍動感と儚い最期は、視聴者の胸を熱くさせた。SNSには多くの声が寄せられることとなり、先の読めない物語は後半戦に突入し、さらに過熱していきそうだ。「次はどんな展開が待っているのか」。そんな視聴者たちの想いを想像すると、原作者である沖田臥竜氏は「至福のとき」を迎えるという――沖田氏による「インフォーマ創世記」ともいえる恒例エッセイも、終盤に向け、さらに熱を帯びていく。

暴走族をしながらも、毎週楽しみにしていたもの

 今、多分、私は幸せというヤツの中にいるのかもしれない。なにも朝起きた瞬間から、嬉しくて嬉しくてハッピーみたいな目覚めは間違ってもないが、ふとした拍子に、その喜びに気づかされることがあるのだ。

 それは「インフォーマおもしろいやん!」「毎週、木曜日が楽しみやねん!」と言われる声を聞いたときにだ。

 ここまで頑張ってきたことは、誰よりも自分自身が知っている。人生において、頑張ったからと言って必ずしも報われることはない……そんな使い尽くされた言葉があるが、果たしてそうだろうか。

 諦めずに努力し続けていれば、報われる日が来ることを、私は自分の経験として知っている。仮にもし、まだ私が書き手としてデビューしていなかったとしても、私は悪態をつきながらも諦めずに書き続けているはずだ。すごい悪態はついているだろうが、ずっと書いているだろうし、誰に否定されても、書き手になることを諦めてはいなかったと思う。

 その理由は難しいものでも何でもない。自分で決めたからだ。筆を武器に世に出ると自分で誓ったからだ。誰に導かれたわけでも、誰かに教えを請うたわけでもない。自分で開拓してきた道なのだ。ハナから諦めるつもりなどはなかった。

 私が育った兵庫県尼崎市という街は、お笑い界の頂点に君臨しているダウンタウンを輩出した街として世間に認知されている。その尼崎市の隣りには甲子園球場がある西宮市があって、私が暴走族をやっていた30年前には、西宮市に西宮(しゃぐう)会という暴走族があった。

 今、40代後半を迎えている私たちが暴走族の最後の世代で、尼崎市にも無数の暴走族のチームがあった。私の地元・塚口には白龍会という暴走族があって、毎週、土曜日の夜になると、族車と呼ばれる改造車に跨り、爆音を轟かせていた。

 今では1ミリも理解してやれないが、当時は多分、それがカッコよいと錯覚していたのだと思う。だって、大人になったら、今着ている特攻服を飾っちゃったりしてるんだろうな、と本気で思っていたもん。若さとは恐ろしいものである。

 ただ変わっていないものも確かにあって、その頃もずっと映画館やビデオ屋が好きだった。不良少年のクセには、テレビドラマも好きなほうで、暴走族をやりながら毎週、楽しみにしている作品だってあった。

 週刊マンガ誌なんかでもそうだ。毎週月曜日には「少年ジャンプ」と「ヤングマガジン」を買い、木曜日には「少年マガジン」、毎月5日には「月刊チャンピオン」で「クローズ」を読み、旬刊誌では「ヤングキング」の「BADBOYS」に胸を興奮させていた。小学生まで遡ると、月刊誌の「コロコロコミック」を毎月楽しみに読んでいた。今と違ってYouTubeも何もない時代だ。それでも、楽しみにしているものがあったのだ。

 いつの間にか、そんな毎週毎週楽しみに思えることなんてなくなり、隙あれば疲れていると感じる年齢になった。

 今はただ、とにかく仕事に忙殺させられているが、毎日どこかで顔が綻んでいる感覚がある。それは今、ドラマが放送されているからだ。

初めて体験する「特別な時間の中」

ロケでお世話になった尼崎の名物焼肉店「光」に飾られた桐谷さんのサイン

 昔、自分が毎週、楽しみにしていたものがあったように、今は誰かがどこかで、同じように『インフォーマ』を楽しみにしてくれていることを想像すると、優しい気持ちにだってなれるのである。「ウソつけ!」と言ってくる人もいるかもしれないが、ウソではない。

 もしも、この時間に名前をつけるとしたならば、それは「幸せな時間」もしくは「至福なとき」となるのではないだろうか。仕事に対して、至福や幸せだと思える時間が、私の人生であるとは思いもしなかったが、実際、今は特別な時間の中にいるのは間違いないだろう。

 第6話では、横浜流星さん演じる河村愛之介が登場し、大きな反響をいただいた。SNSで「愛之介!」という文字を見るたびに嬉しさを噛み締めて、とにかく「いいね」を叩き続けている。

 物語を書くとき、私は頭の中で構想を組み立ていく。総監督の藤井道人監督から、第6話について「こうしたい」というざっくりとしたオーダーがあり、その要望に沿ったストーリーラインを考え、脳内で組み立てながら、文字にする作業を行なっていくのだが、その場合、現象として起きるのは脳内での映像化。つまりは、文字としてよりも、思い描いた映像が脳内で先に展開されるのだ。

 そうなってくると、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、原稿を書くことになる。その姿を仮に誰かに見られてみろ。自分で書いてる物語に感動してんねん! などと説明したとしても、理解してもらえると思うか。

 ただ、それくらい感情移入しなければ、観てくれる人の心を動かすものなんてできない。

 第6話では、編集チェックでいちいち涙を滲ませ、Netflixでカンテレで、また顔面を洪水させた。そこには多分、「頑張ったな、頑張って良かったな」という自分自身に対する想いも複雑に絡み合っているのかもしれない。

 今夜放送の第7話では、猫組長とインフルエンサーとして知られる「たっくーTV」が登場し、意外な2人の出演にもまたざわつきが起きている。

 後半戦は始まった。終わるのが寂しいという感覚はその昔、私自身が観ていたドラマ、読んでいた小説やマンガで感じていたものと同じだ。

 全10話を終え、私はどんな感想を聞け、また読むことができるだろうか。

 寂しくなる感覚を覚えながら、私はそれを楽しみにしている。

(文=沖田臥竜/作家)

小説『インフォーマ』
沖田臥竜/サイゾー文芸/税込1320円
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週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉パンデミック、暴力団抗争、永田町の権力闘争、未解決殺人事件…実在の事件や出来事を織り交ぜ生まれた「リアル・フィクション」の決定版!


ドラマ『インフォーマ』
毎週木曜深夜0時25分~0時55分放送中(関西ローカル)
見逃し配信:カンテレドーガ・TVer
Netflixでは地上波に先駆けて先行配信中


ドラマ『インフォーマ』予告映像

桐谷健太演じる主人公で、裏社会・政治・芸能など、あらゆる情報に精通するカリスマ的情報屋“インフォーマ”木原慶次郎と、佐野玲於(GENERATIONS)演じる週刊誌「タイムズ」記者・三島寛治が、警察・ヤクザ・裏社会の住人たちを巻き込み謎の連続殺人事件を追うクライムサスペンス。事件の背後に存在する謎の集団のリーダーで、木原の因縁の相手となる男を、事務所移籍後初のドラマ出演となる森田剛が演じる。

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

最終更新:2023/03/02 20:55
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