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存亡の危機にありながらも女子大が存在すべき理由

募集停止は『たまたま女子大だった』と考えるべき…数多の “危険”な大学たち

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恵泉女学園大学 公式サイトより

 女子大学が苦境に立たされている。2023年3月22日、東京都多摩市の恵泉女学園大学が24年度以降の入学者の募集停止を発表。4月17日には神戸海星女子学院大学も学生募集を停止すると発表した。その背景には、加速度的に進む少子化、さらに共学志向から女子大を志望する学生の母数自体が減少していることがあるとされる。

 恵泉女学園大学が募集停止にあたって出した声明が象徴的だ。

「18歳人口の減少、とくに近年は共学志向など社会情勢の変化の中で、入学者数の定員割れが続き、大学部門の金融資産を確保・維持することが厳しくなりました」(恵泉女学園大学ホームページより)

 目を引くのは「共学志向」という言葉だ。

 女子大はそもそも、大学が男性だけのものだった20世紀前半に、女性が高等教育を受ける機会を確保するために作られた。共学制大学が増え、ジェンダー平等が重視される現代にあって、女性しか学べない女子大の存在意義を問う議論もかねてから存在する。それらが消えゆくのは、時代の流れだという意見もある。

 そうした中、「少子高齢化が進み、DX化によって社会構造が転換しつつある現在だからこそ、女子大は存在する意義がある」と指摘するのは教育ジャーナリスト・後藤健夫氏だ。今回実施した同氏へのインタビューから浮かび上がるのは、女子大に限らず多くの大学が向き合わなければならない課題、そして社会が大きく変わろうとしているなかで大学が新たに見据えるべきビジョンだった。

「危険な大学」3つの条件

「恵泉女学園大学、神戸海星女子学院大学と立て続けに募集停止が報じられたため、女子大というワードに注目が集まっていますが、『たまたま女子大だった』と考えるべき。共学制も含め、”危険”な大学は数多くあります」

 後藤氏が「危険」と指摘する大学の条件は3つある。ひとつは郊外に位置していること。もうひとつは、短期大学から4年制になった大学。さらに、カリキュラムの構成が保育士、幼稚園教諭、看護師、栄養士などの育成や国文学・英文学などの人文系科目の修得を目的とした、共学化してもいわゆる”良妻賢母型”の学びが中心であることだという。

「東京の場合、国道16号線の外側にキャンパスを構える大学の多くが、志望者の確保に苦しんでいます。理由はシンプルで、都心にある利便性の高い大学に通いたい学生が多いため。人口の東京への一極集中が問題視されていますが、大学の場合、事態はさらに進展して『都心一極集中』と呼べるものになっています」

 確かに、都心の大学は堅調であり、女子学生の数も増えている。AERA dot.の報道によると、渋谷区の青山学院大学法学部の女子学生の比率は48.9%、新宿区の早稲田大学政治経済学部は34.5%、豊島区の立教大学経営学部は50.5%となっており、それぞれ5年前よりも女子学生は増加した。東京大学文科一類においても、2023年、初めて女子学生比率が30%を超えた。

 後藤氏が挙げた残る2つの条件、「短期大学から4年制になった大学」と「”良妻賢母型”の学びを中心とした大学」は重複するケースが多い。そして、その多くが女子大だ。

「大学の最終学年は就職活動にほとんどの時間が費やされるため、短大の場合、実質的に教育を受けられる期間は1年です。これでは学べるものが少なすぎるということで、女子短大が4年制大学へ転身するという流れがありました。問題は短大時代の教員の雇用問題はあるとは言え、”良妻賢母型”カリキュラムを4年制になっても大きく変えられなかったことです」

 短大でも4年制大学でも、取得できる保育士や幼稚園教諭の免許は同じものだ。ならば短大や専門学校で事足りてしまう。また、「”良妻賢母型”の学び」の代表例である人文系の科目にも逆風が吹いているという。AIの存在だ。とくに英語の場合、Chat GPTのような自然言語系AIの隆盛により、通訳・翻訳・英語教育関連の雇用が減少することが予想される。

 募集停止した恵泉女学園大学と神戸海星女子学院大学も前身は短大だった。短大から4年制になった他の女子大を見てみると、学習院女子大学は17年の431人から22年の358人、東洋英和女学院大学は19年の504人から22年の327人と、やはり入学者が減っている。

地方の女子大が日本を救う?

 端的に述べれば、”良妻賢母型”のカリキュラムは少子化とDX化が進む社会に適応できなくなっているということだ。そればかりか、こうした構造は地方の少子化を促進させかねない。

「保育士や幼稚園教諭を例に挙げれば、確かに都会ではそうした人材の不足が叫ばれていますが、地方は子供が少ないので就職の口がありません。そのため、地方の大学が保育士や幼稚園教諭を育成しても、仕事のある都会に出て行ってしまう。その多くは女性であるため、地方の若い女性の人口が減り、少子化に拍車がかかるのです。厳しい言葉になりますが、現在の女子大や元女子短大が看板として掲げる学びのコンテンツはオワコンになってしまっている。そして、それは少子化に拍車をかけることになり、社会課題解決には向かわないから若者の興味関心から外れる」

 では、やはり女子大は消える運命なのだろうか。後藤氏の答えは、否だ。

「時代の要請に合った学びを提供できるならば、女子大であっても存在意義はまだまだ大きい」

 確かに、通訳などのスキルとしての英語はAIが代替する可能性が高い。しかし、英語教育の本懐は、英語が持つ論理的な構造を学び、そこから論理的かつ建設的な思考を行うための素地を養うことだ。自然言語系AIの普及でプログラミング教育不要論が出ているが、これにも同じことが言える。プログラミングの本質は、事象を構造的に捉え、プログラムという抽象に落とし込むことで問題解決を図ること。いずれもイノベーションを起こすために不可欠な能力だ。

「問題は表層的なスキルを身につけることが目的になっていることです。人文系科目やプログラミングが本来持っている、深いところにある意義を学べるカリキュラムを目指すべきです。さらに重要なのは、そうした学びを起業に結びつけること。現在の地方が直面している少子化の根本的な原因は、産業がないことです。地方で人材を育成し、地方で起業するというサイクルを作れれば、東京の一極集中や地方の少子化といった問題の打開策になる」

 だが、それは共学大学でもできることだ。なぜ女子大が必要なのか。

「性別による抑圧がない環境で、リーダーシップを発揮する経験ができるからです」

 後藤氏のこの言葉を、筆者(男性)は当初しっくりと受け止めることができなかった。筆者自身、共学制の芸術系大学で講義を行っている立場にあり、リーダーシップを発揮する女子学生を少なからず目にしてきたからだ。しかし、後藤氏の次の言葉で目を開かされた。「あなたが学生だとして、異性が多い教室で積極的にリーダーになろうとするでしょうか」。確かに、筆者が勤める大学の女子の割合は約66%と、一般的な大学よりもかなり高いのだ。

「男女別学の意義はそこにあります。理系の学部は特に顕著ですが、多くの大学は男性中心で、女性がのびのびと活躍できる環境ではないのです。女子大だけに頼るわけにはいきません。政府の教育未来創造会議は理系分野を専攻する大学生の割合を2032年ごろまでに現在の35%から50%程度に増やすといっていますが、並行して女性が抑圧されずに学べる土壌をつくらなければならない。このところ東京工業大学を筆頭に理工系大学が入学者選抜に女子枠を設ける動きがあります。しかし、私に言わせれば『覚悟』が足りません。女子枠を設けなくても女性が入学したくなるように大学の環境自体を変えていく必要があります。ですから、女子枠は「時限」にして女性学生比率の達成年度を明確にして廃止を目指すべきなんです」

 地方産業の空洞化や少子高齢化といった社会課題が山積している現代。そこに活路を見出すには、男性中心の価値観に縛られず、のびやかに活躍する女性の存在が鍵となる。高等教育における女性の立ち位置を、再点検することが求められる。

 

 

小神野真弘(大学講師・ジャーナリスト)

ジャーナリスト。日本大学藝術学部、ニューヨーク市立大学ジャーナリズム大学院修了。朝日新聞出版、メイル&ガーディアン紙(南ア)勤務等を経てフリー。貧困や薬物汚染等の社会問題、多文化共生の問題などを中心に取材を行う。著書に「SLUM 世界のスラム街探訪」「アジアの人々が見た太平洋戦争」「ヨハネスブルグ・リポート」(共に彩図社刊)等がある。

Twitter:@zygoku

最終更新:2023/06/24 08:00
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