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『ペントレ』SNS社会の“闇”描く「現代編」…思い出される山田裕貴の「祈り」のメッセージ

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ドラマ公式サイトより

 「こんな世界、もう終わればいい」――今まで乗客たちを引っ張ってきた人物のセリフとは思えない絶望的な言葉。『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』はまもなく最終回を迎えるが、6月16日放送の第9話は、どのような結末を迎えるか先の読めない終わり方となった。

 山田裕貴主演のTBS系金曜ドラマ『ペンディングトレイン』は、2023年春、乗っていた電車が突如車両ごと荒廃した未来の世界にワープし、乗客たちが極限下を懸命に生きる姿を描くヒューマンエンターテインメントドラマ。第1話で2060年の未来に飛ばされた5号車の乗客たちは、時に争いながらも協力し合い、第8話でついにワームホールを再び出現させ、タイムワープを成功させる。だが、たどり着いたのは2023年ではなく、2026年の5月1日だった。2026年といえば、12月に隕石が落ち、大災害が起こるとされる年。猶予は半年ほどしかない。家族や友人らとの再会を果たした白浜優斗(赤楚衛二)、寺崎佳代子(松雪泰子)らはその喜びも早々に、近い将来に大災害が起こると訴える。だが、当然ながら彼らが30年以上先の未来に行っていたなど、警察には信じてもらえない。

 そればかりか、「3年前に行方不明になり、突然車両ごと現れた乗客たち」とニュースを騒がせた彼らは、好奇の目に晒されてしまう。しかも、6号車の乗客で、5号車のタイムワープに強引に入り込んだ植村憲正(ウエンツ瑛士)と加古川辰巳(西垣匠)が動画配信者のインタビューに応じ、“自分たちはこれまで未来にいて、この12月に世界が一変する”と話したせいで、乗客たちは世間から変人扱いされていく。そして乗客たちの写真や経歴などの個人情報がネットで拡散されてしまい、萱島直哉(山田裕貴)も弟・達哉(池田優斗)の過去の犯罪歴が暴かれてしまった。高校の体育教師だった畑野紗枝(上白石萌歌)は「生徒や保護者の方が不安だろう」という理由で復職させてもらえず。ネイリストの渡部玲奈(古川琴音)も、2060年でいい雰囲気になっていた明石周吾(宮崎秋人)が実は既婚者だったことを妻の直撃によって知らされ、妻に言い返す様子がネットで配信されてしまった。

 美容師の直哉にはさらに別の問題が。ワームホール発生時の磁気のようなものに触れた影響か、右手の握力が失われ、ハサミが持てなくなっていた。ネットで“特定”されたことで「イケメン美容師」ともてはやされ、店に野次馬が集まるようにもなる。萱島兄弟と縁の切れている母親(嶋村友美)は、直哉が有名になったのをいいことに動画配信者のインタビューに対し「生活は苦しかったんですけど、3人で必死にやってきました」「自慢の息子」などと嘘をつく。直哉は店を離れることを決意し、さらに自分の部屋も達哉に譲って出て行ってしまう。

 居場所を失っていく直哉は街で偶然、優斗と出会う。優斗は人類を救うため、大災害の危機を広く訴えたいとして「一緒に声を上げよう」と直哉を誘うが、「助からない」と悲観的な直哉。現実の世界が「最低でクソみてえなところ」と絶望した直哉は、2060年に戻りたいとこぼし、「命が助かっても、救われないんだよ」と嘆く。そんな直哉に、今度は紗枝が連絡する。連絡先を知って直哉に電話した紗枝は、「こっちに戻ってきて、ひとつだけわかったことがあります。萱島さん。あなたのことが気になります」という、告白とも取れる言葉をかけるとともに直哉を心配するが、直哉は「俺はもうあんたのことなんか忘れた。あの車両のことも、未来どうのこうのも、もうどうでもいい」と言って電話を切ってしまった。

 消防士の優斗は、自分のミスで半身不随の重傷を負わせた先輩隊員・高倉康太(前田公輝)と再会。高倉は、3年が過ぎてなんとか立ち上がって歩けるまで回復したことをアピールしたうえで、「やっと言える。俺はもう、大丈夫だ。だから、前に進め。乗り越えろ」と伝え、この言葉を胸に優斗はますます消防士の仕事に邁進する。だが、「イケメン消防士」と持ち上げられた優斗のもとにも、心ない動画配信者や野次馬が現れる。危険な火災現場であるにもかかわらず集まる人たちに注意するが、まるで言うことを聞かない。優斗と一緒に映ろうとする動画配信者を振り払おうとして、野次馬女性のひとりが巻き込まれて倒れてしまう。すると、動画配信者は「今、白浜優斗が罪のない一般人を突き飛ばしたー!」と声を上げ、野次馬から「謝れ!」と怒声が鳴り響く。優斗はついに他の隊員から下がってろと言われてしまう。

 配信を見た直哉が優斗のもとを訪れると、優斗の目からはいつも輝いていた希望の光は消えていた。直哉は発破をかけるつもりか、「わかったか? 俺の言ってたことが。それでも声を上げる?」と煽るが、優斗は力なく「……わかったよ。萱島さんの言うとおり。最低だな、ここは。もう……終わればいい。こんな世界、もう終わればいい」と言い放つ。直哉は「そうだよな。クソだよな……」と笑った後、震える右手で優斗の肩をつかみながら「でもお前が言うな。お前が言うなよ」と語りかけるのだった。

 第9話は、戻りたかったはずの世界から爪弾きにされてしまう乗客たちが描かれる辛い展開になった。消えた電車と乗客が3年後に突然戻ってきた不思議のほうがもっと騒がれていいはずで、興味本位でネット上に素性を晒す容赦なさや、動画投稿で炎上するシーンはやや過剰な演出にも感じられたが、主演の山田が制作記者会見で「SNS社会になって、印象だけで、イメージだけでその人を判断せずに、心でコミュニケーションを取って。そんな人が増えていく世の中になったらいい」「僕にとって(『ペンディングトレイン』は)そんな祈りのような作品」というメッセージを発信していたことを思い出す。ドラマプロデューサーの宮﨑真佐子氏も、インタビューでたびたび電車の中が「社会の縮図」であるという話とともに、車内の誰もが動画やSNSなどスマホの小さな画面ばかりを見ている状況への気づきを、このドラマが生まれるきっかけとして挙げている。このドラマにとって、SNS社会というのは重要な要素なのだろう。劇中には、「みんな、次々新しいものを求める。そして無責任に作り上げる。自分たちに都合のいい事実を。それを褒めて叩いて、一体感を味わう」という加藤祥大(井之脇海)のセリフがあったが、現代社会の問題を端的に指摘していた。

 直哉にとって「ヒーロー」であったはずの優斗の心が折れてしまうという展開で終わった第9話。絶望的な状況に思われるが、加藤が物理学教授の蓮見涼平(間宮祥太朗)に渡した隕石や植物の解析が進めば、5号車の乗客の証言への理解は進むだろう。田中弥一(杉本哲太)の娘・美帆(金澤美穂)は、田中がひとり2060年に残ったことを伝えにきた米澤大地(藤原丈一郎)の言葉を信じ、「父が託したこと、忘れないでください」とエールを送る。味方はゼロではない。

 最終話の予告映像では、第1話の冒頭と同じく、紗枝が赤ちゃんを抱いて走るシーンが。優斗が「すべての人は逃げられない。俺はここに残る」「俺の代わりに、みんなのことを頼む」と話しているということは、避難をする展開になるのだろうか。キャッチコピーどおりに「未来は変えられる」のか。2060年に残った田中や6号車の面々はどうなってしまうのか。ここまで生き延びてきた乗客たちが笑顔で終着駅に到着して欲しい。そう願いながら今夜22時放送の最終話の乗車時間を待つことにしよう。

■番組情報
金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と
TBS系毎週金曜22時~
出演:山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌、井之脇海、古川琴音、藤原丈一郎(なにわ男子)、日向亘、片岡凜、池田優斗、宮崎秋人、大西礼芳、村田秀亮(とろサーモン)、金澤美穂、志田彩良、白石隼也、濱津隆之、坪倉由幸(我が家)、山口紗弥加、前田公輝、杉本哲太、松雪泰子 ほか
脚本:金子ありさ
音楽:大間々昂
主題歌:Official髭男dism「TATTOO」(ポニーキャニオン/IRORI Records)
プロデューサー:宮﨑真佐子、丸山いづみ
演出:田中健太、岡本伸吾、加藤尚樹、井村太一、濱野大輝
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:tbs.co.jp/p_train823_tbs

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/06/24 00:29
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