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社会がみえる映画レビュー#21

『1秒先の彼』岡田将生の“残念なイケメン”がキュートな謎解き恋愛映画の魅力

『1秒先の彼』岡田将生の残念なイケメンがキュートな謎解き恋愛映画の魅力の画像1
C) 2023『1秒先の彼』製作委員会

 『1秒先の彼』が7月7日より公開中だ。同作は2020年製作の台湾映画『1秒先の彼女』の日本リメイクで、かわいらしくてクスクス笑えて楽しい(良い意味でちょっぴり怖い?)万人向けの「謎解き恋愛映画」になっていた。その魅力を紹介しよう。

岡田将生と清原果耶、それぞれの正反対のベクトルのかわいらしさ

『1秒先の彼』岡田将生の残念なイケメンがキュートな謎解き恋愛映画の魅力の画像2
C) 2023『1秒先の彼』製作委員会

 郵便局の窓口で働くハジメ(岡田将生)は、何をするにも「ワンテンポ早い」ところがあった。ある日、彼は路上ミュージシャンの桜子(福室莉音)に出会って恋に落ち、花火大会デートの約束を取りつけたはずが、目覚めるとなぜかそのデートの日の翌日になっていた。“消えた1日”の謎を解き明かす鍵は、郵便局に毎日やって来る「ワンテンポ遅い」レイカが握っているようだったが……。

 簡単に言えば、「待ち望んでいたデートの1日が、なぜか消えてしまったため、その謎を解き明かす」という、ラブストーリーとミステリーが融合した映画というわけだ。序盤から「あれ?」と思う違和感のある描写が伏線となり、後に「なるほど、そういうことか!」と判明していく、“気づき”にも面白さがある。

 何よりの見所は、“残念なイケメン”を超キュートに演じている岡田将生なのではないか。「ワンテンポ早い」以外でも、ちょっと世間からズレている天然ボケなところがあり、意中の女性からお弁当を受け取って「やばいやばい~!ありがとう~!」と心から喜ぶ様子などが「こいつぅ……悔しいけどかわいいな!」となってしまう。史上もっとも“ウザかわいい”岡田将生を期待しても裏切られないだろう。

 もうひとりの主人公である清原果耶は、岡田将生演じる青年とはまったく正反対のベクトルを持つ、「ワンテンポ遅い」以外でも、引っ込み思案がすぎて完全に“陰キャ”な女子大学生にもピッタリとハマっていた。だからこそ、“ここぞ”という場面での(ちょっぴり怖くもある?)積極的な言動と、清原果耶というその人の魅力があってこそのかわいらしさにもキュンキュンできた。

損をしてきたと“思い込んでいる”人への、やさしいメッセージ

『1秒先の彼』岡田将生の残念なイケメンがキュートな謎解き恋愛映画の魅力の画像3
C) 2023『1秒先の彼』製作委員会

 この物語で重要なのは「ワンテンポ早い」「ワンテンポ遅い」それぞれの主人公の視点が描かれることだろう。劇中で描かれるのはもちろん極端な例ではあるが、実は現実の世界にいる“せっかち”または“のんびり屋”の自覚があったり、そのために恋人ができなかったり、もしくは無駄にも思える時間を過ごして損をしてきたと“思い込んでいる”人へ、福音となるメッセージをはっきりと示してくれる作品でもあるのだ。

 そのメッセージは、驚きの凝りに凝ったギミックから始まり、「そこ?」と笑ってしまうほどの事象をもって提示される。そして、せっかちまたはのんびり屋にも限っていない、生きていれば人生のどこかで必ず遭遇する「タイミングが合わない」悩みを持つ人へ、「大丈夫だよ」と言ってくれる、作り手のやさしさを大いに感じることができるだろう。

 また、本作はやはり世の中にありふれている、恋愛の「すれ違い」を描いている作品とも言える。劇中で「ワンテンポ早い」と「ワンテンポ遅い」、つまりはツーテンポぶんのズレがある2人の主人公は、表立ってラブラブのやり取りをすることはほとんどない。それぞれが一方的なコミュニケーションを取っている、言ってしまえば“一人相撲”を取っているようなところさえある。その様はコミカルであると同時に切ないからこそ、その“想い”の強さが際立って見えるという構図がある。

 とはいえ、劇中のようなファンタジーな出来事は現実では起こるはずがない、というのも事実だろう。ともすれば、しょせんは絵空事だよな、と冷めてしまう人もいそうなところだが、そこにも本作は誠実に向き合っている。とあるショッキングな画を挟んでからの、現実的な視点があればこその、奇跡のようなクライマックスとラストが待ち受けているからだ。そのような奇跡は、きっと現実でも探したくなるだろう。

日本独自の魅力もふんだん

『1秒先の彼』岡田将生の残念なイケメンがキュートな謎解き恋愛映画の魅力の画像4
C) 2023『1秒先の彼』製作委員会

 オリジナルの台湾版と大きく異なることのひとつは、京都を舞台にしており、その情景も大いに楽しめること。とある有名な場所にも、実際に行ってみたくなるだろう。岡田将生をはじめとした実力派俳優それぞれの、京都弁のハマりっぷりにも聴き入ってみてほしい。

 もうひとつオリジナルの台湾版と違うのは、「男女の役割を交代させた」こと。そちらでは女性が「ワンテンポ早い」、男性が「ワンテンポ遅い」だったのが、それが今回の日本リメイクではまるっきり正反対になっているのだ。確かに男女の立場を固定しなくても成り立つ物語であるし、おかげで「若干ウザいけど根は純粋で予想外の事態に慌てる様までも含めてキュートな岡田将生」「陰キャだけど(だから)実は積極的でかわいい清原果耶」が見られるのが嬉しかった。

 さらには、2024年正月に『カラオケ行こ!』の公開が控える山下敦弘監督と、連続テレビ小説『あまちゃん』などでおなじみの宮藤官九郎の脚本も相性が良かったと思う。前者に良い意味とゆるくてとぼけた笑いのセンスがあることは前田敦子主演の『もらとりあむタマ子』などで証明済みであるし、それが後者らしいクセの強いサブキャラクターとの掛け合いと違和感なく融合していた。

 また、本作は“日焼け”が謎解きのヒントになっていたり、花火大会が行われるなど、夏の季節が重要な内容だ(台湾版は旧暦7月7日の“七夕バレンタイン”が重要なイベントとなっていた)。前述した通り本編では「タイミングが合わない」ことを憂いている人にやさしいメッセージを掲げている一方、この映画が“願いを届ける”七夕の7月7日より公開されていること、夏が本格的に始まる今に観るのは「絶好のタイミング」だ。ぜひ、劇場で楽しんでほしい。

『1秒先の彼』
7月7日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
キャスト:岡田将生 清原果耶 荒川良々 福室莉音 片山友希 加藤雅也 羽野晶紀 しみけん 笑福亭笑瓶 松本妃代 伊勢志摩 柊木陽太 加藤柚凪 朝井大智 山内圭哉
監督:山下敦弘 脚本:宮藤官九郎
原作:『1秒先の彼女』(チェン・ユーシュン)
製作:『1秒先の彼』製作委員会
制作プロダクション:マッチポイント
製作幹事・配給:ビターズ・エンド
2023年/日本/カラー/DCP/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/119分
C) 2023『1秒先の彼』製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/07/09 13:00
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