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『真夏のシンデレラ』不思議な面白さを生む隠し味…新人脚本家の作家性が滲み出る

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番組公式サイト」より

 新しく始まった月9(フジテレビ系月曜夜9時枠)のドラマ『真夏のシンデレラ』は、夏の湘南を舞台にしたラブストーリーだ。

 主人公はサップ(スタンドアップパドルボード)のインストラクター・蒼井夏海(森七菜)と、東大卒で大手建設会社に勤める御曹司・水島健人(間宮祥太朗)。物語は、水島を中心とした3人の男性と、夏海を中心とした3人の女性のグループ交際に、ライフセーバーの早川宗佑(水上恒司)、夏海の幼なじみで地元で働く大工の牧野匠(神尾楓珠)といった複数の男女が絡む恋愛群像劇となっている。

 劇中で描かれる恋愛のほとんどは三角関係で、たとえば水島は夏海に惹かれているが、夏海は幼なじみの匠に片思いしている。しかし、匠は既婚者で元担任の長谷川佳奈(桜井ユキ)が好きといった感じで、「私の好きなあの人は別の人が好き」という片思いの連鎖が展開される。

 恋愛ドラマとしては、かなりベタである。だが、近年の月9は刑事や弁護士が主人公の1話完結ドラマが続いていたため、月9らしい恋愛ドラマが久しぶりに始まったと思われた方も多かったのではないかと思う。

 また、第1話で夏海たちが別荘で楽しい時間を過ごす展開は、恋愛リアリティショーの『テラスハウス』(フジテレビ系)を彷彿とさせる。そもそも恋愛リアリティショーは、かつて月9で放送されていたようなキラキラとした恋愛ドラマがヒットしなくなった時代に盛り上がったコンテンツなのだが、恋愛リアリティショーにお株を奪われた恋愛のキラキラ感を奪い返すことで、今の月9ならではのラブストーリーを作りたいというのが『真夏のシンデレラ』の狙いではないかと思う。

 しかし、恋愛リアリティショーのキラキラとした恋愛が受け入れられるのは、出演者の華やかな職業やぶっ飛んだ発言がすべて事実という建前があるからであり、同じことをフィクションで展開すると、途端に嘘くさくなってしまう。

 あえてベタな恋愛ドラマに全振りした本作に対し、リアリティがないという批判は多い。そんなベタな展開をネタにして楽しんでいる視聴者も少なくないが、いずれにせよドラマとしての評価はあまり高くない。

 筆者も第1話を観た時は、あえてベタな恋愛ドラマをやるというコンセプトに乗りきれず、観ていて辛かった。だが、2話、3話と続けて観ると、脚本を担当する市東さやかの作家性が少しずつ表れており、不思議な面白さが生まれている。

 市東は昨年、フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞した新人で、『真夏のシンデレラ』が連続ドラマ初執筆となる。もともと月9は、坂元裕二や野島伸司といったヤングシナリオ大賞を受賞したデビューして間もない若手を脚本に抜擢することで、若い世代に向けたドラマを作ってきた。物語は荒削りでも、台詞やキャラクターに宿る若い感性こそが、月9の最大の魅力だった。

 近年は若手脚本家が起用される機会が減っていたが、2021年にヤングシナリオ大賞を受賞した生方美久が、単独で脚本を執筆したオリジナルドラマ『silent』が木曜劇場(フジテレビ系木曜10時枠)でヒットしたことをきっかけに、もう一度、若い脚本家にオリジナルドラマを書かせようという機運がフジテレビに生まれている。

 今回、市東が月9に抜擢された背景に、生方の成功があったことは間違いないだろう。だが、月9らしい夏の恋愛ドラマという企画が、市東の資質に合っているのかというと疑問が残る。

 市東がヤングシナリオ大賞を受賞したデビュー作『瑠璃も玻璃も照らせば光る』は、ヤングケアラーの女子高生・木村ひかる(豊嶋花)が主人公の物語だ。本作は少女の内面を繊細なタッチで描いたシリアスな社会派青春ドラマといった趣で、月9の恋愛ドラマとは正反対である。このデビュー作を観た印象だと、企画と市東の相性があまり良くないように感じる。

 だが、話数が進むにつれて、バカンスを楽しむエリート御曹司の水島を中心とした男性グループと、日々の生活に追われていっぱいになっている夏海たち女性グループの間にある経済的な格差を描いた場面が増えてきており、デビュー作で見せた市東のカラーが強まってきている。

 「半径3メートル以内の幸せ」が自分の目標で、家族、仕事、友達といった「大事なものが全部半径3メートル以内にある」と語る夏海は、今の生活に満足しているように見える。しかし、家族を支えるために一日中働いている夏海の立場は、デビュー作で描かれたヤングケアラーの主人公と重なる部分が多く、実は無理をしているのではないかとも感じる。

 キラキラとした恋愛ドラマの奥底に、現代の若者が直面している社会問題が見え隠れすることが本作の隠し味で、そこに市東の作家性が強く滲み出ている。

 月9ならではの恋愛ドラマという企画と、市東さやかの作家性には大きなズレがある。しかし、このズレが化学反応を起こし、新しい時代の恋愛ドラマを生み出すのではないかと楽しみにしている。

成馬零一(ライター/ドラマ評論家)

1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。ライター、ドラマ評論家。主な著作に『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)などがある。

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Twitter:@nariyamada

なりまれいいち

最終更新:2023/07/31 10:27
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