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陣内智則とバカリズムが明かした「ネタの賞味期限」…お笑い芸人ならではの苦労

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陣内智則

 お笑い界において、今やコンビ芸人よりも重宝されるピン芸人。そんなピン芸人のトップに君臨するといっても過言ではない2人の芸人が、9月11日の深夜に、ニッポン放送のオールナイトニッポンでタッグを組み一夜限りのMCを務めた。その芸人とは「陣内智則」さんと「バカリズム」さんだ。このお二人の共演は地上波ではよく見かけるし、昨年「ロンドンハーツ」(テレビ朝日系)では「密室検証・もしもこんな2人を飲ませたら…」という企画でサシ飲みをしていた。

 そんなお二人がテレビよりも若干緩めで素の部分が垣間見えるラジオという媒体において一体どのような話をするのかリスナーたちは期待に胸を躍らせたはずだ。

 実際には二人の芸名の話や、陣内さんのキャラクターは西と東では違うという話。そして僕が一番興味を持ったのは「ネタの賞味期限」についての話だ。番組内でリスナーからとある質問メールが送られてきた。それは「新ネタを作る頻度はどのくらいか?ネタの賞味期限のようなものがあるなら聞きたい」というような内容のもの。

 この質問に対し、バカリズムさんは毎年行う自身の単独ライブの為に新ネタを7本から8本作ると。元芸人の僕からすればこの本数は意外だった。もちろんバカリズムさんほどの多忙ぶりならこの本数でもかなり苦労するだろうが、7本から8本で単独ライブの約2時間を埋めるとすると、一つのネタが平均15分前後のネタということになる。これはこれでかなり大変だ。

 ネタの時間は短くても長くても作るのが困難で、短いと端的に笑いを伝え、さらにその中でボケを展開させ、盛り上げると言うのが難しくなる。逆に長いと飽きさせない為になにをするかという部分が難しく、フリが長すぎてもダメだし、展開が無理やり過ぎても1本のネタに見えないので正直がっかりしてしまう。

 なのでスムーズに流れる展開と飽きさせないボケの数、そして概要のボケ自体が15分笑いや興味を保ち続けられるものでなくてはならない。さらにライブとなるとカメラがあるわけではないので、全てのお客さんの目線を同じように誘導しなければならないので、そのための工夫も必要となってくるのだ。なぜなら見せたいところが見せられない場合笑いは分散してしまうからだ。つまり何が言いたいかというと15分間もお客さんの興味を引き付け、そして飽きさせず、笑いを起こすというのはかなり気を使う作業で、それを7本も8本も作ると言うのは至難の業なのだ。

 なので基本的に単独ライブなどは5分から10分くらいのネタをメインとし、ライブの終盤に長めのネタをやって時間を調整するのだ。ただこの2時間というのはわかりやすく表現しただけで、本来は1時間45分くらいの長さがオーソドックスであり、オープニングやエンディング、幕間などを除くとネタ時間は1時間25分くらいなので、そこまで長いネタをやる必要もないのだが、それでもネタ数が7本から8本ということは短いネタはほとんど無いはずなので、ネタ時間が3分から4分が主流の現代において、比較的長尺のネタばかりだということは間違いない。

 もしかしたらネタの広がりや展開が無限に浮かんでしまい、それを形にするとどうしても長尺ネタになってしまうという結果なのかもしれない。しかもバカリズムさんクラスになると書いたネタを全て披露するわけでは無いだろう。ある程度完成に近づけたとしても納得がいかなければその時は寝かせたりボツにするはず。そうなると7本から8本の新ネタというのは完成披露されたネタの数で、そこに至らなかったネタやネタ案の数までいれると相当な数になるだろう。ネタの台本だけではなく、ドラマや映画、本などまで書いていることを考えると、心の底からネタを書き表現するのが好きで、まさにお笑いは天職なのだろう。

 さて続いては「ネタの賞味期限」についてだ。ラジオ内でお二人とも話していたが、テレビ等の媒体で公に披露する場合、大体3回くらいが限界で、それ以降同じネタをすると「また同じネタをやってるよ」と言われてしまう。お二人ほど注目される芸人なら尚更だ。これはテレビに限らずライブでも同じ状態になる。ある程度笑いが起こせる自信があるネタなら何度でもライブで披露したくなるが、面白い事に3回くらい同じネタを披露した後はライブだとしても笑いが少なくなっていくものなのだ。

 もちろん芸人の影響力や出ているライブで回数は前後してしまうが、基本的には3回から4回披露して終わるものだ。ネタの質によっては単独ライブ以外ではやらないネタもあるくらいで、そのようなネタの賞味期限は1回ということになる。ちなみにネタの賞味期限は仕事場によって多少異なってくる。その最たる仕事場は営業だ。営業は基本的に自分たちの代表作を披露することが多く、子供が多い場所やお年寄りが多い場所、あまり知られていない場所、ファンが集まる場所などで多少ネタを変えはするが、新ネタをやることはまずない。どの芸人も必ず1つは営業でやるネタ、つまり「営業ネタ」は持っていて、「営業ネタ」の賞味期限はかなり長く設定されている。

 ラジオ内でミュージシャンを引き合いに出し、ミュージシャンは何度やっても許されるし、どちらかと言えば知っているネタの方が喜ばれると言っていたが、営業に関しては芸人もこれと同じことが言える。まったく知らないネタをやるよりも、ある程度知名度があり、代表的なギャグやネタを入れつつ、どこでも笑いが取れる営業ネタをするのがベストなのだ。なのでネタの賞味期限はネタによって違うというのが本当の正解である。ただ基本的には3回なのも間違いない。売れていようが売れていまいが、0から1を生みだすアーティストとして、ミュージシャンの方達への妬みと憧れは芸人なら必ず持っている。こんな芸人にとっては当たり前の感情をラジオという媒体で聞けたのは、なんだか本当の素に思えて逆に新鮮に感じた。

 芸人のネタは単独ライブでもなければ、月に1本つくるのが普通。この1本という数字だけを見るとかなり少なく感じる人もいるだろう。元芸人としてこれだけは言う。決して簡単な作業ではない。テンプレートになるようなものも存在せず、自分たちに合った形を模索し続けながら、誰かに似ていないオリジナルネタを作り、さらに自分たちが過去に作ったネタとも若干テイストが違う新しいものを考えなければならない。そしてネタ尺の時間調整をしつつ、自己満足にならないように気をつけながらその時出来る最高に面白いと思えるものを作っていく。たった1本なのだが、それを毎月やるのは結構ハードな作業なのだ。

 なので出来ればお客さんにはミュージシャンのように「知ってる歌を聞きたい」つまり「知ってるネタを見たい」という感覚になっていただきたいものだが、そんなことになったら間違いなく笑いの量は減る。「見たことある~」「待ってました~」なんて恥ずかしいったらありゃしない。

 さらに一つの作品が生み出す「儲け」の差もハンパではない。歌と違ってネタに〇〇印税は発生しない。カラオケのようにネタを完璧に真似したい、自分も同じネタを披露してみたいという人が圧倒的に少ないからだ。ネタはやるものではなく見るもの。さらにやりたいとしてもただやるだけではダメで、誰かに見てもらって初めてネタになる。なので一人カラオケは成立するが一人ネタというのは成立しないのだ。すべてを踏まえて明らかに芸人の方が自身が作った作品に対しての恩恵が少ない。

 全芸人が一度は口にしただろう「ミュージシャンを選んでおけば良かった」と。ただ僕がもし生まれ変わったとしてもミュージシャンではなく、また芸人を選んでしまう気がする。それは芸人にしか味わえない喜びや楽しさがあるのは間違いないからだ。今でも機会があるなら舞台に立って漫才をしたいと思う。まあ思っているだけなんだけど。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/09/24 12:27
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