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『風よ あらしよ 劇場版』レビュー

吉高由里子が主演した大正時代の大河ドラマ 恋と革命に生きた伊藤野枝の波乱すぎる生涯

吉高由里子が主演した大正時代の大河ドラマ 恋と革命に生きた伊藤野枝の波乱すぎる生涯の画像1
雑誌「青鞜」との出会いが、野枝(吉高由里子)の人生を大きく変える。

 大正時代に起きた恋愛スキャンダル「日蔭茶屋事件」をご存知だろうか? 無政府主義者として知られていた大杉栄が、不倫相手の新聞記者・神近市子に首を刺された事件だ。大杉には年上の妻・保子がおり、また既婚者の伊藤野枝とも懇意にしていたことから、当時の新聞各社はこの「四角関係」を興味本位で大々的に報じている。

 警察に出頭し、懲役2年の実刑判決を受けた市子に世間は同情的だったが、「自由恋愛」を謳いながら、市子に多額の借金をしていた大杉は大バッシングを浴びた。病院に運び込まれた大杉を看病し、四角関係の勝利者となった野枝も、世間からの冷たい視線に晒されることになった。

 だが、逆風にも野枝はまったく動じることがなかった。逆境をバネにして、より大きく飛翔する女性だった。作家、婦人解放運動家として活躍した伊藤野枝の28年間の生涯を描いたのが映画『風よ あらしよ 劇場版』だ。NHK大河ドラマ『光る君へ』に出演中の吉高由里子が野枝役で主演。永山瑛太、松下奈緒、稲垣吾郎といった豪華キャストによって、見応えのある120分となっている。

吉高由里子が主演した大正時代の大河ドラマ 恋と革命に生きた伊藤野枝の波乱すぎる生涯の画像2
ダダイストの辻潤(稲垣吾郎)は、野枝にとってのメンターだった。

 村山由佳の原作小説では、福岡市今宿の貧しい家庭に生まれた野枝の少女時代から描かれているが、本作では向学心旺盛な野枝が上京し、女学校で英語教師の辻潤(稲垣吾郎)と出会うところから始まる。すべての女性に「良妻賢母」であることが求められた時代、知識に飢えていた野枝に、辻潤は創刊されたばかりの婦人誌「青鞜」を手渡す。平塚らいてう(松下奈緒)が編集した「青鞜」を読み、野枝は社会への目を開くことになる。

 親が決めた結婚相手のもとから逃げ出した野枝は、辻潤の家で暮らし始める。女学校を卒業したばかりの元生徒と教師が同棲しているだけで、充分にスキャンダラスだった。辻潤に勧められた野枝は平塚らいてうに手紙を送り、「青鞜」編集部で働くことになる。田舎育ちの垢抜けない女の子だった野枝だが、平塚らいてう、辻潤らとの交流によって、ぐんぐんと成長していく。

 足尾銅山開発による鉱害問題に憤慨し、社会運動に力を注ぐようになる野枝。一方の辻潤は野枝の急成長ぶりに付いていけず、デカダンスな暮らしに埋没する。辻潤役の稲垣吾郎は、二階堂ふみと共演した映画『ばるぼら』(18)と同様、こうした退廃的なキャラクターがとてもよく似合う。

 野枝は平塚らいてうの後を継ぎ、「青鞜」の二代目編集長となり、堕胎問題や売買春問題などを誌面で取り上げるも、野枝の熱量に反して「青鞜」の売り上げは低迷する。野枝の主張の正しさを頭では理解できても、世間体を気にして受け入れられずにいた人が多かったに違いない。新しい思想と古臭い常識とがせめぎ合っていたのが「大正」という時代だった。

 そんな野枝のよき理解者となるのが、大杉栄(永山瑛太)だった。辻潤と違って、行動力のある大杉に彼女が惹かれてしまうのは当然だった。

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大杉栄(永山瑛太)には、妻・保子(山田真歩)と愛人・市子(美波)がいた。

 2022年にNHK BSで放映されたテレビドラマ『風よ あらしよ』の劇場版となる本作だが、映画会社「太秦」が配給していることにも注目したい。森達也監督の劇映画デビュー作となる『福田村事件』は、関東大震災から100年目となる2023年9月1日より公開され、ロングランヒットを記録している。インディペンデント映画ながら、日本アカデミー賞の作品賞、脚本賞、監督賞にノミネートされた話題作だ。永山瑛太らが出演した『福田村事件』も、太秦の配給作品だった。

 震災直後に広まった悪質なデマによって、多くの罪のない朝鮮人が自警団によって虐殺され、また朝鮮人と間違って殺された日本人も少なくなかった。そんな日本史の闇部分に森監督が斬り込んだ『福田村事件』だったが、同時期に起きた「甘粕事件」までは描くことができなかった。だが、太秦が配給することで、本作は『福田村事件』のスピンオフ的な意味合いも生じている。

 吉高由里子が主演した本作のクライマックスとなるのが、「甘粕事件」である。大杉と同志愛で結ばれ、子どもにも恵まれた野枝。そんな平穏な幸せを噛み締めていた矢先に、関東大震災が発生。社会革命を訴える大杉たちを面白く思っていなかった憲兵の甘粕大尉(音尾琢真)は、震災の混乱に乗じて行動に移す。大杉、野枝、それに大杉の6歳の甥っ子までも不法連行してしまう。

 歴史的に見れば、伊藤野枝は28歳の若さで命を奪われた悲劇の女性だろう。スキャンダラスな生涯を送ったこともあってか、地元の福岡でも彼女の名前はあまり知られていない。だが、村山由佳の原作小説を読んでいると、野枝は過去の人物ではなく、また悲劇のみで語られる人でもなく、恋と社会運動に全力を注いた生身の女性だったことがとても身近に感じられる。学生時代の同級生に、大人になってから意外な場所で再会したような不思議な懐かしさも覚えた。

 そんな伊藤野枝という恋多き実在の女性像に、吉高由里子がぴたりとハマっている。平安時代を舞台にした大河ドラマ『光る君へ』が放映中だが、野枝の生涯も大河ドラマになりうるほど濃厚だった。大正時代を生きた女たちの群像劇として、大河ドラマ化されてもおかしくないだろう。

吉高由里子が主演した大正時代の大河ドラマ 恋と革命に生きた伊藤野枝の波乱すぎる生涯の画像4
c)風よ あらしよ 2024

映画『風よ あらしよ 劇場版』
演出/柳川強 脚本/矢島弘一 音楽/梶浦由記
出演/吉高由里子、永山瑛太、松下奈緒、美波、玉置玲央、山田真歩、朝加真由美、山下容莉枝、渡辺哲、栗田桃子、高畑こと美、金井勇太、芹澤興人、前原滉、池津祥子、音尾琢真、石橋蓮司、稲垣吾郎
配給/太秦 2月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
(c)風よ あらしよ 2024(c)村山由佳/集英社
https://www.kazearashi.jp

最終更新:2024/02/10 09:00
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