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『君が心をくれたから』第7話 雨ちゃん、それは「束縛モンスター」という名の呪いの子

第7話 明日を生きる理由 | TVer

 さて、19日放送のフジテレビ月9『君が心をくれたから』第7話のお話です。永野芽郁さん、好きです。

 今回は雨ちゃん(永野)が触覚を奪われる回でした。触覚を奪われるって、どんな感じなんだろうと考えていて、以前にもちょっと触れたのですが、実際には先天性無痛無汗症という病気があります。運動能力は麻痺しないけど痛みを感じなくなるという症状だそうです。そういう感じかなぁと想像していたんですが、結論から言って、全然違いましたね。

 触覚を失うことになったとき、雨ちゃんと死神との間で「歩けなくなるの?」「知らんし」みたいなやり取りがありましたが、いざ触覚を失ってみると、雨ちゃん、ちゃんと歩けなくなってました。油断したら階段から落ちちゃう、杖を使ってなんとか短距離なら移動できる。それくらいの感じの身体障害。

 これは病気じゃなくて奇跡の結果ですから、症状はドラマの好き勝手に決められるわけです。絶妙なんだろうね。絶妙に泣けるラインを「杖を使ってなんとか歩ける」に設定したわけだ。触覚を奪われた雨ちゃんが痛々しく、ミジメに見える絶妙なラインとして、ドラマはこの障害を選んで設定したということです。よくそんな作業できるよなぁと薄ら寒くなる。

 感覚が、ちょっと変なんだと思う。

 あんまり重要なシーンではないけど、今回、太陽くん(山田裕貴)が家族飲み会に雨ちゃんを呼んで、みんなで楽しく食事をするという場面がありました。太陽パパ(遠藤憲一)なんて緊張しちゃってね、わいわいやってるわけですけど、急に太陽くんがアンニュイな顔して出て行っちゃうんです。雨ちゃんは家族や花火工場のみんなとは初対面で、しかも味覚も嗅覚もないという障害を抱えていて、普通に考えて家族飲みに呼ぶならずっと隣に座っとけよと思うんだけど、出てっちゃう。

 前回も、朝ごはん食べてる途中に仕事の時間が来て、片付けもしないで出てっちゃった場面があった。

 こういうのを、たぶんこのドラマではナーバスでチャーミングな所作として描いてるんです。そういうところからして気持ち悪いんだよ。振り返りましょう。

■いよいよホラーになってきました

 今回もっとも重要なシーンは、雨ちゃんが太陽くんに「おまえの命を助けるために五感を差し出した」と白状するシーンです。もとより雨ちゃんは一生黙っていようと思っていましたが、死神の口車に乗って、あっさり翻意。触覚を失って階段から転げ落ち、運び込まれた病院でそれを打ち明けます。

 当然、太陽くんは号泣。俺が奪ったんだ。俺が奪ったんだ。

 きついと思いますよ。好きな女の子が自分のために五感を失っていく。そんなの地獄だよね。

 なんでこの人、こんな地獄を味わうことになったんだっけ、と思い出してみます。

 高校のとき、雨の日に昇降口で傘を差し出したのがきっかけでしたね。確か、どっかで雨ちゃんを見かけて「あの子を笑顔にしたい」と思ってたとか、そんな話でした。要するに顔だけね、顔だけ。

「お天気雨の日に赤い傘に2人で入ったら、運命の赤い糸で結ばれるんだよ」とか言ったり、服を着たまま川に飛び込んだり、放送室から全校放送で愛を叫んだりしてるうちに仲良くなっていくわけですが、太陽くんはこのときまだ、雨ちゃんが虐待サバイバーだとは知りません。単なる顔がかわいい陰キャの子くらいにしか思ってない。

 ほんとにね、初めて話した日に運命とか言わないほうがいいなと思うんです。軽々しくそういうことを言うから、こんな呪いにかけられてしまう。

 そう、呪いにかけられたのは太陽くんのほうなんです。

 太陽くんは雨ちゃんにとって、生まれて初めて光をくれた人でした。だから雨ちゃんは、ものすごく執着したんです。しかも、高校時代の、花火職人を夢見る太陽くんに執着した。

 執着したものだから、色覚に障害があって赤色を判別できない太陽くんが花火の仕事を辞めることを、絶対に許さない。文字通り、死んでも許さない。死なせてももらえない。

 太陽くんを支配することができないと悟った雨ちゃんは、自分が弱っていく様を見せることで彼の良心に訴えかけ、彼の心を束縛していきます。味覚を失ったのよ、嗅覚を失ったのよと不憫な雨ちゃんを自己演出しつつ、「あきらめないで」「自分に負けるな」という徹底した精神論トークで圧力をかけていく。

 何の話をしているかというと、太陽くんは事故には遭ったけど軽傷だった、そして雨ちゃんが実際には五感を失ってないと考えると、辻褄がすべて合うんです。味覚がないと言いながら平然と食事をしていることだったり、触覚を失ってちゃんと歩けなくなったのに「触覚って幸せを確かめるためにあるんですね」なんて的外れなことを言ってたりすることに、すべて納得がいく。

 すべては「太陽くんの花火」に執着する雨ちゃんという束縛モンスターの仕業だった。病院の屋上で泣きじゃくる太陽くんの背中に貼りついて、高校時代に彼が校内放送で叫んだ言葉をそのまま繰り返す様子なんて過去への執着そのものだし、太陽くんに死神を見せたのも、きっと雨ちゃんによる催眠術の一種でしょう。大人になっていろいろあったのに、いまだに針の飛んだレコードみたいに「あなたの花火を私に見せて」って言い続けてる雨ちゃん、かわいいから気づいてなかったけど、めちゃくちゃ怖いわ。呪いの子だわ。ホント、軽々しく「運命」だなんて言葉を使うもんじゃないね。ここまで憑りつかれるとはね。

 なんて、そんな話じゃないことはわかって書いてるわけですが、そうでも考えないとちょっと受け入れ難い価値観の連続で、見てるのがしんどいんです。なんか、これを作ってる人に話が通じる気がしない。この人の考える人間関係って、互いに価値観を押し付け合い、目的を達成するために唆(そそのか)し合い、相手を束縛するために誑(たぶら)かし合うことなんだろうなと感じて、本当に怖くなる。こういう「美しさ」とか「正しさ」の認識の相違が戦争の原因になったりするんだろうな、とそんなことを考えました。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

最終更新:2024/02/20 16:00
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