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山口組の分裂劇が生んだヒットマン……絆會若頭にまたも射殺事件関与の嫌疑

神戸市長田区のラーメン店での事件後、防犯カメラに写る金澤容疑者らしき人物

 組員の移籍をめぐるトラブルが発端で放たれた銃弾が、銃口を向けた側、向けられた側の人生を狂わせてしまったのか。

 裏社会では、「1人殺(や)れば、2人殺るのも3人殺やるのも同じ」といった言葉を口にする人間は少なくない。法的に考察すれば、罪の重さは大きく違う。過去の判例を紐解くまでもなく、ヤクザの抗争に限らず一件の殺人ならば、余程の残忍性が背景にない限り、有期刑に処されるのが妥当だろう。だが、それが2件の殺人ともなれば、無期懲役もしくは極刑。つまり死刑判決が妥当となってくる。

 ならばなぜ、裏社会の人間たちは、1人殺るのも2人殺るのも同じだと吐き捨てるのか。

 それは、有期刑といっても、その刑期の長さに起因するのではないか。有期刑の上限が20年から30年に引き上げられた現在、拳銃を使った殺人ならば、一件でも20年以上の判決を言い渡されたとしてもおかしくはない。

 それなりの歳がいった実行犯が何十年も刑務所暮らしを余儀されることと、社会復帰することができないことが同義に近く、自暴自棄の心理からも「1人殺るのも2人殺るのも~」などという言葉が生まれると解釈されるのではないだろうか。

 六代目山口組から袂を分かった絆會。同組織の金澤成樹若頭が、組員の移籍トラブルをもとに、2020年に長野県で起こした殺人未遂事件により全国に重要指名手配された際も、そのような心理に到達してしまったのか。そこから3年近くの逃亡生活で、金澤容疑者が起こしたと見られる射殺事件は2件もあったのだ。

 今回、兵庫県警は、2023年04月22日に兵庫県神戸市長田区のラーメン店で六代目山口組三代目傘下である弘道会系組長が射殺された事件に関わったとして、金澤容疑者を逮捕する方針を固めていることが明らかになった。

 事件発生当初から、出回った防犯カメラの映像に対して、犯人は金澤容疑者で間違いないと、金澤容疑者を知る関係者の多くが口を揃え、捜査線上にも金澤容疑者の名前が浮上していたという。

「それでも捜査当局が慎重になっていたのは、抗争の過激化を懸念してのこと。悪戯に金澤容疑者の関与を明かせば、六代目山口組サイドが絆會に向けた報復に出る可能性があります。現に逃走中だった金澤容疑者が関わったとされる水戸市の射殺事件では、三重県で六代目山口組系組員による、絆會に対する報復が起きています。秘密裏に捜査していたのは当然と言えるでしょう」(事件記者)

 水戸市で起きた射殺事件とは、2022年1月17日に六代目山口組系一心会三瓶組若頭が何者かに殺された事件。逃亡中の金澤容疑者は、今年2月に仙台市内のアパートに潜伏しているところを逮捕されたが、その後すぐに、茨城県警はこの射殺事件にも関与したとして金澤容疑者を逮捕。この射殺事件の報復として、2022年5月に三重県伊賀市にある病院の駐車場で、絆會組員が六代目山口組系組員に発砲されるという事態が起きている。

 こうした動きを踏まえ、国家公安委員会は、ヤクザ組織の活動を制限するための伝家の宝刀を抜く動きを見せている。金澤容疑者が起こした射殺事件やその報復といった連鎖から、六代目山口組と絆會が抗争状態にあると見て、両組織を特定抗争指定暴力団に指定する手続きに入るというのである。これに指定されると、公安委員会が定める警戒区域内での組員の活動が極端に制限されるのだ。

「金澤容疑者は、現在も絆會の若頭の地位にあります。そのことから考えても、彼が六代目山口組系組員に対して起こした事件は、組織的なものという解釈ができます。六代目山口組サイドはすでに神戸山口組との間で特定抗争指定暴力団に指定されていますので、あらたに指定されることの影響は警戒区域が増えることくらいでしょうが、絆會は今後、新たに規制を課せられた上、当局からより厳しい取り締まり対象になるでしょう」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)

 金澤容疑者は何を思って逃走中に拳銃を2度握り、その引き金を絞ったのだろうか。一連の事件を起こすよりも以前に、金澤容疑者はある関係先を訪れた際、彼を気遣った人物に対して「沈む時は織田会長(絆會の織田絆誠会長)と一緒に沈みます」と口にしたという。

 当局の取り調べに対して、現在もまだ金澤容疑者は口を閉ざしたままだという。

(文=山口組問題特別取材班)

ヤクザ業界をフィールドとする作家、ライターおよび編集者による取材チーム。2015年の山口組分裂騒動以降、同問題の長期的に取材してきた。共著に『相剋 山口組分裂・激動の365日』(サイゾー)がある。

やまぐちぐみもんだいとくべつしゅざいはん

最終更新:2024/05/23 15:12
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