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『M-1グランプリ』という巨大な“閉塞的ゲーム”と私たちの「語り」

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2001年にスタートした『M-1グランプリ』。2021年は第17回大会だった(Getty Images)

 もはや年末の恒例行事として定着した『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)。2021年大会は今年50歳のボケ・長谷川雅紀と43歳のツッコミ・渡辺隆によるコンビ・錦鯉の優勝で幕を閉じた。遅咲きの苦労人である彼らの優勝は、感動的な「物語」として視聴者に強い印象を与えることになった。決勝戦のテレビ放送は世帯視聴率18.5%・個人視聴率12.6%と好記録を叩き出し、番組として例年通り成功を収めたと言えるだろう。

 ただ、私には、いまの『M-1』は、芸人にとっても観客にとっても、ひとつの閉塞的なゲームとして機能してしまっているのではないかという疑問がある。

若手漫才師は『M-1』というゲームとの距離をいかに図るか

 元フォークダンスDE成子坂のボケ・桶田敬太郎は、自身のポッドキャストにて、『M-1』について「エンターテイメントってさ、客が楽しむとかさ、そっちがホントやん。でも、ともすればなんか『M-1』は審査員的に観た方が楽しめたりとか、で、がんばってる彼ら(出場芸人たち)も我がためにがんばってる。俺ら今年で(優勝を)獲って、っていう」という言葉を残している。

 実際、『M-1』というコンテンツの肝は、「『M-1』というゲームを芸人たちがいかに攻略するか、そしてそのゲーム攻略の過程を如何に鑑賞するか」という部分にこそあるようだ。

 現在活動する若手漫才師の多くが『M-1』に挑戦していると思われるが、彼らのうち少なからぬ芸人たちは『M-1』で勝つための対策を、何がしか自分たちのネタのなかに織り込んでいるはずだ。

 ナイツ・塙宣之『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(聞き手・中村計。集英社新書、2019年)のように、『M-1』という大会の「傾向と対策」について極めて具体的に言及した書籍もある。また、2008年の優勝者であるNON STYLEのボケ・石田明は、2020年のインタビューにおいて、「今の若手は10分の出番だったら5分のネタを2本やるのが当たり前になっています。『もうええわ』って1本目を締めて、『そんなことよりな』って2本目のネタに入る。5分ネタなら無駄を削って4分にするのは簡単ですからね。これは完全にM-1の影響だと思います」と語っている。このように、ネタの構成そのものに『M-1』のルールが影響しているところもあるだろう。

 漫才というジャンルにおいて、若手プレイヤーの意識やネタの作り方に非常に強く作用している興行が『M-1』なのだ。『M-1』というゲームとの距離をいかに図るかを、多くの漫才師たちが意識せざるを得なくなっている。そして、そんなゲームに取り組む芸人たちの情熱は、むき出しの形で観客に提供され、『M-1』を舞台装置にした芸人たちの「物語」として消費されていく。

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