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TPの芸人礼賛

松本人志頼みの大会にしない…『THE SECOND』が見せた気概

松本人志頼みの大会にしない…『THE SECOND』が見せた気概の画像1
『THE SECOND~漫才トーナメント~』公式サイトより

――お笑い大好きプロデューサー・高橋雄作(TP)が見た、芸人たちの“実像”をつづる。今回は『THE SECOND~漫才トーナメント~』グランプリファイナルに寄せて。

 結成16年以上のコンビによるお笑い賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ)の決勝戦「グランプリファイナル」が5月20日に行われた。エントリーした133組の中で勝ち残った8組がトーナメントを戦い、ギャロップが初代王者に輝いた。

 第1回大会ということで、大会終了後にはきっとSNS上でさまざまな意見が飛び交う「炎上」は避けられないのかなと思っていたのだが、僕が見る限りだと大会に対して好意的な意見が多い。もちろん細かな課題はあるのかもしれないし、視聴率のことはわからないが、控えめに言っても「成功」だったのではないだろうか。僕はもちろん予選からだいぶ楽しませてもらったし、決勝もオープニングの煽りVTRから良すぎてエンディングまでほぼほぼ半泣き状態で視聴していた。

 『THE SECOND』の成功を何よりも物語っているのが、囲碁将棋の文田さんが「この大会が続けばいいなぁとただそう思いました。」とツイートするなど「出演芸人さんからの評判がいい」ということだ。これは『THE SECOND』スタッフが芸人さんのことを考えたルールや見せ方など「芸人さんファースト」を随所で模索した賜物だと思う。

 大会成功の要因として、全組が面白すぎたということは言うまでもないが、僕がそれに触れるのもおこがましいので、今回は『THE SECOND』を成功に導いた「芸人さんファースト」だと思った3つの施策をピックアップしたい。スタッフに直接インタビューしたわけではないので、一部推測も入ってしまうがあしからず。

美術セット

 知り合いの美術スタッフさんが教えてくれたのだが、『THE SECOND』の青と銀を基調としたあのセットは、背景が散らずに人物を浮き立たせて視点を集中させる効果がある手法を使った、かなり計算され尽くしたものだそうだ。

 知識がない僕は説明を聞いても「なるほど」というリアクションしかできなかったのだが、ネタを集中して観ることができたのは確かだ。あまりにおしゃれすぎたり派手なセットだったりして、感想がセットのことばかりになるのは本末転倒なので、ネタの邪魔をしていないというのが何よりも素晴らしいことだろう。

 余談かもしれないが、グランプリファイナルは正面後ろの扉が開いて芸人さんが漫才マイクに向かって前進してくる導線だったため、生まれて初めて超新塾の「バーッババー」のバイクの登場を正面から見ることができて嬉しかったし、それだけでも僕はこのセットでよかったなと思った。

勝敗のつけ方

 「お客さん100人による1人3点満点の合計300点審査」と「1対1の“タイマン”形式で勝者が決まる」という、絶対に賛否ありそうなやり方を制作側は予選(ノックアウトステージ)から最後までやめなかった。

 何度も何度もシミュレーションを重ねた結果、このやり方にたどり着いたとのことなのだが、このやり方のおかげでかなり審査結果に納得感が生まれたと思う。決勝メンバー発表時の「なぜあの組が落ちたんだ」という不透明性からくる不満や、「客ウケが良くても審査員にハマらないとダメ」という、既存の方式ではどうしようもなかった課題を見事に補完したように思えた。

 また、観覧に応募した複数人から聞いた話だと、応募の段階で年齢や性別はもちろん「好きな芸人さんを3組書いてください」という質問に答えたそうだ。特定の芸人のファンに偏らないようにする配慮だろう。さらに審査員という大役を務めた100人には、フジテレビから「お礼の手紙」が配られたそうだ。芸人さんだけでなく、お客さんにまで配慮が行き届いていて本当に素晴らしい。

松本人志頼みの大会にしない…『THE SECOND』が見せた気概の画像2
『THE SECOND~漫才トーナメント~』公式サイトより

“アンバサダー”松本人志

 決勝戦はダウンタウンの松本人志さんが「アンバサダー」という肩書きで携わっていた。松本さんが大会アンバサダーに就任したことで、今の『M-1』世代よりもさらに「ダウンタウン直撃世代」だと思われる今大会出場メンバーの胸が踊ったのは間違いない。

 しかも「アンバサダー就任」の発表が5月に入ってからだったことも「大会を松本さん頼みにしない」という制作側の気概が感じられてとてもよかった。当日、松本さんがどこにいるのかも気になっていたが、別室でのモニタリングではなく、MC東野幸治さんの横という「がっつり」な位置だったのもゾクゾクしたし、そこから全組にコメントをしていたのも、芸人さんにとってはかなり嬉しかったのではないだろうか。

 ほかにも「ネタ時間を6分にする」「ノックアウトステージのアーカイブ配信なし」「決勝の放送時間を4時間にする」「月曜から金曜に事前番組を放送して盛り上げる」「客審査100人の採点を天井カメラで可視化する」など、挙げればキリがないほど大会を盛り上げる工夫が凝らされていた。本当にありがたい、愛。そのどれもが今までの賞レースでありそうでなかったものばかりで、おそらく「各賞レースとかぶらないように」という配慮が、斬新なシステムを誕生させたのかなと思った、これも愛だ。

 さて僕は冒頭で「芸人さんには触れない」と書いたのだが、みんな最高で感動したのでちょっとだけ触れたいと思う。ただし、金属バット友保さんから「TPがエモくなるとロクなことがない」と言われているのでほどほどにしたい。

 まずなんと言っても、金属バットは最高のトップバッターだった。松本人志さんの「『M-1』で会えると思ってた」というコメントには胸が熱くなった。生放送直前のニュース番組で、アナウンサーが2人の楽屋に突撃したときに「雨漏りがひどいんで早く出てってください」とアナウンサーを追い返していたのも「これが今テレビで流れてるの?」と思ってゾクゾクした。とにかくお疲れ様でした。今大会で金属バットのことが気になった人はぜひYouTube「金属バット無問題」をご覧ください。

 そして準優勝のマシンガンズも最高だった。賞レースで勝ち進んだ芸人さんから100回聞いた「このあとのネタがない」という発言後のネタで本当になさそうにしている芸人さんを初めて見た。どこまでがネタなのかわからないけど、お笑いライブの雰囲気をそのままテレビに持ち込んでいて、劇場に行きたいと思う人が増えたんじゃないだろうか。

 余談だけど大会翌日の『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN系)に出演した滝沢さんが「THE SECONDの優勝トロフィーは何ゴミ?」というリスナーからのメールに、普段ゴミ清掃員をしている知見を活かして「トロフィーって大きいと粗大ゴミだけどあのサイズなら不燃ゴミで大丈夫」と答えてて最高だった。

 そしてもちろん優勝したギャロップは本当に強かったし面白かった。最終決勝で、3~4分間溜めに溜めた後に放った渾身の「パーン!!」というボケは、図らずも銃声のようで、マシンガンズもびっくりの特大の一撃だった、おめでとうございます。

 このように『THE SECOND』初年度は、芸人愛にあふれるスタッフに支えられて、おじさん芸人たちがのびのびと最高のお笑いをお届けしてくれて本当に素晴らしかった。「楽しそうなおじさんたち」からこんなにも元気をもらえるとは……来年も必ず開催してもらいたい。

高橋雄作(TP、プロデューサー・作家・社長)

プロデューサー、作家、社長。2022年夏、テレビ朝日を退職し独立。音声配信アプリ「stand.fm」コンテンツアドバイザー、お笑いラジオアプリ「GERA」チーフプロデューサー。YouTubeチャンネル「金属バット無問題」などを手掛ける。

Twitter:@takahashigohan

たかはしゆうさく

最終更新:2023/05/25 20:00
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