日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 絶望しつつもブレイク寸前
TPの芸人礼賛

真空ジェシカを「おまけ」にした元エリート芸人、絶望しつつもブレイク寸前

――お笑い大好きプロデューサー・高橋雄作(TP)が見た、芸人たちの“実像”をつづる。今回はニュータイプな「絶望芸人」永田敬介について。

真空ジェシカを「おまけ」にした元エリート芸人、絶望しつつもブレイク寸前の画像1
TBSラジオ『マイナビラフターナイト』YouTubeチャンネルより

 ここ最近、お笑いファンの間で「永田敬介」というピン芸人が注目を集めつつある。

 年始に行われた豪華ライブ『吉本興業 ダイヤモンド軍 vs 人力舎 真空ジェシカ軍』では、ダイヤモンド、真空ジェシカ、吉住、ミキら有名芸人を差し置いて合計16分間も漫談を披露し、終演後はSNS上でイベントの感想が「#永田単独」で拡散されるなど話題となった。

 さらには人気ライブ『グレイモヤ』に出演した際には「めちゃくちゃウケた」という理由だけでツイッタートレンド入りを果たすなど、しょっちゅう関東のお笑いライブシーンをザワつかせている。

 もちろんテレビ露出などはまだ少ないので、一般的な知名度はまだまだかもしれないが、お笑いファンの間では「永田敬介=面白い芸人」として着実に認知が広がりつつある状況だ。

 永田くんは人力舎に所属する33歳のピン芸人。今は主に「実体験をベースにした漫談」を各ライブで披露している。

 彼は2009年、早稲田大学在学中にお笑いサークル「早稲田大学寄席演芸研究会(ヨセケン)」で「スパナペンチ」というコンビを結成し、2011年『第1回漫才を愛する学生芸人No.1決定戦』で優勝を果たす。スパナペンチはそれがきっかけでスカウトされ、永田くんの友人だった真空ジェシカとともに人力舎に所属することとなる。

 ちなみに人力舎は基本的に養成所を経ないと所属することができず、過去にスカウトで入ったのはおぎやはぎ矢作さんとスパナペンチと真空ジェシカだけである。もっと言うと、のちに真空ジェシカ川北さんが「俺たちはスパナペンチのおまけで人力舎に入れた」と話しているように、当時は完全に「スパナペンチ>真空ジェシカ」だった。

「吉本芸人vs学生芸人」というくくりの対決ライブではあのニューヨークに圧勝したり、学生芸人にフォーカスした番組『学生才能発掘バラエティ 学生HEROES!』(テレビ朝日)で主役級の扱いを受けるなど、本当に乗りに乗っていた。

 その勢いのまま2013年には『THE MANZAI』(フジテレビ)の認定漫才師となる快進撃を見せた。これは『M-1グランプリ』でいう「準決勝進出」レベルの話で、時代が時代ならもっとブレイクしていたのは間違いない。

 誰が見てもエリート街道を進んでいたスパナペンチだったが、翌2014年に突如解散してしまう。あまりにも早すぎる見切りに、当時お笑い界はかなりザワついた。

 永田くんはその後も活動を続け、何度かコンビを組むこともあったが、思うような結果を残せず、ここ数年はピンとして活動していた。

 そして今年、芸歴10年目のラストイヤーとして迎えた『R-1グランプリ2023』は2回戦で敗退となってしまい、『R-1』出場資格を失ってしまう。スパナペンチの栄光から約10年、同期の真空ジェシカが順調にスターへの階段を登っているのを横目に、コンビ解散後の永田くんは控えめに言ってもかなり絶望的な状況に置かれていたのだ。

絶望しているのに卑屈一辺倒ではない

真空ジェシカを「おまけ」にした元エリート芸人、絶望しつつもブレイク寸前の画像2
stand.fmより

 しかし冒頭で話した通り、今、永田くんが再び脚光を浴びつつある。この10年、いや、これまでの人生全てにおいて溜めてきた負のパワーを直接ネタに反映させた人間味丸出しの漫談が、唯一無二の異彩を放ちながら輝き始めたのだ。

『R-1』敗退が決まってすぐ、永田くんの冠ラジオ番組『永田敬介の絶望ラジオ』(stand.fm)がスタートした。「永田敬介が日々の絶望を吐き出し、人生に希望を感じたら最終回」というコンセプトのもと、ほかのラジオ番組とは一線を画す陰鬱な雰囲気でトークが展開されている。

 僕は番組にプロデューサーとして関わっているのだが、永田くんの一級品の絶望を煮詰めた話が、独特の語り口で聞けて本当に面白い。文字だと限界があるかもしれないが、永田くんが1人でUSJに行ったときのトークを少し紹介したい。

永田敬介の絶望ラジオ #6「USJで絶望」
永田「(係の人に)乗り物に並ぶときに『お1人の方はこちらへどうぞ』って言われて、USJには「シングルライダー」っていう特別な列があって、そこで自分が特殊だったっていうことに気づいて、普通の客じゃないんだと思って、1人でUSJに来る奴なんていないんですよね。ハリーポッターの乗り物が110分待ちだったんですけど、シングルライダーはすぐ乗れて。友達と乗るっていうのは110分の価値があるのかと…」

 他にも「幸せは不幸への前フリだ」とか「絶望の対義語は希望じゃなくて不安」とか「嫌いという感情は人への恐れをなくす」など、絶望的な境遇で培ってきた彼の人生訓がものすごいスピードで開示されている。

『絶望ラジオ』には数々の絶望的なお便りが届くのだが、永田くんはそれを絶望側からそっと感想を述べる。それは決してアドバイスでもなければ慰めでもないのだが、何よりも「誰がどう見ても絶望側にいる人間」が発言することこそが、あらゆる事情で絶望を感じているリスナーにとって何よりの支えになっているのだ。絶望側から聞こえてくる永田くんの声は微かであってもまぎれもなく希望なのだ。これは良く言いすぎているけど本当にそう思う。

 しかも永田くんがすごいのは、絶望側から発言しつつ決して卑屈一辺倒ではないところだ。彼のトークには世の中への僻みだけに留まらない「学び」がある。さらに永田くんは陰と陽でいうところの完全に「陰」の人間なのだが、めちゃくちゃ口数が多い。ボソボソしゃべるどころかベラベラしゃべっている。おまけに家族ともかなり仲がいいし、ディズニーランドをこよなく愛している。浅はかな僕たちが作り上げてきた「絶望側の人間」のイメージをことごとく破壊してくる永田くんはニュータイプ「絶望2.0」なのである。ラジオも本人自身も、これから今以上に話題になることは間違いないだろう。

 実は僕は学生時代に彼とヨセケンで出会った。僕が4年生のとき彼は1年生だったので接点は多くなかったが、当時から全身黒ずくめで挙動が不審だったのは覚えている。正直「ネタなんかまともにできるのだろうか」と心配していたが、それが「味」となりデビューライブからウケまくっていた。

 今後も自慢の後輩の活躍から希望をもらいながら僕も頑張りたい。

『永田敬介の絶望ラジオ』は音声配信アプリstand.fmで毎週日曜22:00に最新回を配信中。過去回のアーカイブも全て聴くことができるのでぜひチェックしてほしい。
https://stand.fm/channels/63f83857390e8c58c6a53b83

(編集/斎藤岬)

 

 

高橋雄作(TP、プロデューサー・作家・社長)

プロデューサー、作家、社長。2022年夏、テレビ朝日を退職し独立。音声配信アプリ「stand.fm」コンテンツアドバイザー、お笑いラジオアプリ「GERA」チーフプロデューサー。YouTubeチャンネル「金属バット無問題」などを手掛ける。

Twitter:@takahashigohan

たかはしゆうさく

最終更新:2023/05/02 19:00
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真