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ニコニコ動画【かにみそP】ロングインタビュー

GACKTが認めたニコニコ動画ユーザー かにみそPが語るボーカロイドの未来

kanimizo01.jpgトレードマークは「かに」

 7月13日に発売され、シングルデイリー初日2位、週間3位となったGACKTの39thシングル「Episode.0」(HPQ)。この曲は自作曲にこだわってきたGACKTの作詞作曲ではない。ニコニコ動画に楽曲を発表してきた「mathru/かにみそP」(以下、かにみそP)という、いわば一般ユーザーの作詞作曲なのである。

 この楽曲誕生の背景は、3年の時をさかのぼる。初音ミクで知られる音声合成技術・ボーカロイドを用いて、GACKTの声で楽曲を作ることができるボーカル音源ソフト「がくっぽいど」が08年7月31日に発売。このソフトを用いてユーザーが数多くの楽曲をニコニコ動画に投稿し、09年にGACKT本人の審査によって「がくっぽいどコンテスト」が開催。そこで、グランプリ作品となったのが、かにみそP制作の「Episode.0」で、GACKTは「今回の曲の中で一番泣ける。これは本当に良い曲だと思った」と絶賛した。

 司会のラジオDJ・やまだひさしの「歌ってみてもらえないですか?」という提案をGACKTは快諾。自ら歌い、ついにシングル化が実現したのだ。アーティストが一般ユーザーをクリエイターとして評価し、シングルとして3万枚以上を売り上げたという実績は、ボーカロイド文化の一つの到達点と呼んでも過言ではない。そこで、かにみそPに楽曲に込めた思い、ボカロP(ボーカロイドプロデューサー)としての未来をうかがった。

――まずは、音楽の原体験からお聞かせください。

かにみそP 小学1年生から9年エレクトーンを始め、高校のころからバンドをやっていて、ボーカル、キーボード、ギターをやっていました。最初はL’Arc~en~Ciel、MALICE MIZER、Mr.Childrenなど、メンバーが好きなバンドのカバーをやって、それから僕が作詞作曲してオリジナル曲をやっていました。

――MALICE MIZERはまさにGACKTさんが所属していたバンドですね。そのバンドでオーディションを受けたり、プロを目指したりは……。

かにみそP それは全くなくて、完全に趣味の範囲でした。その後、自作の曲を自分で歌ったりしてMP3投稿サイトなどに上げてたんですが、友達から教えてもらって初めて、初音ミクの存在を知りました。実はそれまでニコニコ動画もあまり見てなかったもので(笑)。当時は高専の研究で音声合成技術を勉強していて、機械にしゃべらせるアプリケーションを作っていたんですが、”歌わせる”ことは考えてなかったんです。なので、初音ミクを知って、「これなら一人で楽曲制作を全部できるんじゃね?」と思って即買いました。これまでやってきた音楽の経験と、高専での研究がガチっとクロスした瞬間でしたね。

――なるほど。初音ミクを触ってみていかがでしたか?

かにみそP ソフトを立ち上げて、イジってみたら意外とすんなりできて、「コレはいける!」と思って、ニコニコ動画に投稿したんですよ。そしたら(視聴者からの)コメントがイマイチで(笑)。今から考えたら、初音ミクの調教(調節)ができてなくて、音痴だし、オケ(オーケストラ=バックの音)と合ってなくて、修正してはアップするのを10回ぐらい繰り返しました。すると、「前より良くなった」と書いてもらえたり、また、悪いコメントを書かれながら、徐々に進化していった感じですね。

――そんな試行錯誤を経て、「がくっぽいど」での曲作りを始められたんですね。

かにみそP 曲作りは、曲のテーマ、メロディ、歌詞の順番で作っています。風呂やベッドでゆっくり考えてアイデアが浮かんだときに録音するという方法です。その当時、そうして曲を作っていたものの、最高5,000回再生程度で、もっと再生されたかったんですよ。なので、ボーカロイドの新作が発売された日に投稿すると注目されるので、発売日にその新作で曲を作って投稿しようと思ったんです。そのとき、ちょうど出たのが、「がくっぽいど」だったんですよ。当時福岡に住んでいたんですけど、発売前日にフライングゲットするためだけに青春18きっぷを使って東京に出てきたんです。でも結局、前日には買えなくて、発売日に秋葉原のヨドバシカメラに開店と同時に行って買って、ネットカフェで自分のノートパソコンにインストールして、曲をアップしました。当時、実は大学の論文も書かなきゃいけなくて再生数を見たい衝動を我慢しながら、論文を書いていたら、5,000回再生を1時間で突破してビックリしました。その曲が「ダンシング☆サムライ」です。

――「ダンシング☆サムライ」は現在175万回再生されて、がくっぽいどの最高再生数となっています。この曲に登場する侍の前世を描くために作られたのが、「Episode.0」だそうですね。

kanimizo02.jpg

かにみそP 「Episode.0」は特にコンテスト用に作ったわけではなくて、ちょうど、「がくっぽいど」発売1周年で、「ダンシング☆サムライ」が生まれるまでの物語を書こうというコンセプトでアルバム『ダンシング☆サムライ』(ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント)用に12曲を書いていて、その中の1曲なんです。コンテストは、「がくっぽいどコンテスト」というタグを付けるだけだったので、気軽に参加してみたら、選ばれてビックリしました。まさかこんなことになるとは……という気分でしたね。でも、評価してもらったことで、もっと楽曲制作を上手くなろうと思いました。音源のミックスもまだまだですし、さらに自分に足りないものが見えました。

■GACKTとついに初対面 2人の音楽への真摯な姿勢がクロスオーバーする

――実際にGACKTさんに初めて対面されたのが7月15日のニコニコ生放送の『木曜ニコラジ』。GACKTさんは「Episode.0」について、「歌詞の一節の『歌声で人を救えるような存在になりたい』は、まさに自分が思い続けてきたこと。最後に、命を吹き込んで曲にしなければならない」という言葉が印象的でした。

かにみそP 番組内でお会いして、自己紹介した直後に握手していただいて、緊張しました。曲についてはそこまで、歌詞の意味を読み取ってくださったんだという感動がありましたね。「Episode.0」の歌詞には、野望に満ち溢れた侍が、人を支配するために刃を振るんじゃなくて、人は誰かを救うために頂点を目指すべきだということに気づく……という思いを込めたんですよ。そこで、侍は戦に敗れてしまうけど彼の耳に、人の心を洗うような少女の歌声が聞こえてくる。そこで侍が、人を幸せにできるような音楽に生まれ変わりたいと思って、「ダンシング☆サムライ」に転生する、という……。

――単に戦国の世のエピソードのみならず、現代にも演繹して考えられる深遠なテーマだと思います。さて、コンテスト以降、GACKTさんはあえて、かにみそPさんとカップリングの「Paranoid Doll」を制作されたnatsuPさんにはお会いされなかったそうですね。それは、作詞作曲者本人も含めて感動を届けたいという意図で「その代わり、絶対に期待には応える。モノを作り続ける上で、決めているのは『予想は裏切る、でも気持ちには応える』。クリエイターの二人には、もっと衝撃を受けて、もっといいモノを作ってほしい」という話もありました。

かにみそP クリエイターとして評価していただいたのは本当にありがたいですし、GACKTさんバージョンの「Episode.0」をいただいて、聞いたときは飛び上がって喜びました。「売れるな」と思いましたよ(笑)。GACKTさんご本人の声ならシングルバージョンのロックなアレンジの方がいいと思いました。

――今回のムーブメントはほかのボカロPの背中を押すことにもなったと思います。ほかのボカロPへのメッセージなどはありますか?

かにみそP 大事なのは楽しく、思うがままに曲を作ってほしい。曲の方向性などでユーザーから求められているものがわかってくると思うんですよ。でも、批判があったり、賞賛してもらうこともあるけど、それに振り回されずに最後までやりきってほしい。曲作りって行き詰まることが多いので、途中でやめたくなることもあるんですけど、そこで諦めずに初志貫徹でやりきって、経験を積むことが大事だと思います。

――今後はどのように活動されていくおつもりですか?

かにみそP 今、自分は微妙な立ち位置にいるんですよ。例えば、supercellのryoさん【編註・740万回再生の初音ミク「メルト」を手掛け、中川翔子にも楽曲提供をしているニコニコ動画出身のアーティスト】ぐらいの再生数を連発しているわけではないので……。だから、今のスタンスで、曲を作り続けながら、ユーザーさんの反応を見ている状態ですね。『ドリームクリエイター』(テレビ東京系)という番組に出演して、そこからゴムさん【編註・560万回再生の「ロックマン2 おっくせんまん!(Version ゴム)」で知られる歌い手】とコラボで曲を書くというオファーがあって、そういう楽曲提供もやらせてもらおうと思っています。ボーカロイドやニコニコ動画で曲を発表するのは、やりたいことが制限なく、なんでもできる世界。もっと世の中に知ってほしいですね。

 * * *

 ボーカロイド文化についてGACKTは「新しいメディアの誕生で、このサブカルチャーは絶対広がるとわかった。でも大切なのは広げ方で、遊びなら、終わる。飽きるから。でも、なんで文化が続くかというと、その遊びを本気でやってると芸術になるんだよ。芸術は文化になり、感動を呼ぶ。人の心が動く。そうすると、揺るがないものになる。そこまで持っていかないとダメだと感じた」と語る。

 本気で楽曲制作に取り組んだ、かにみそPをGACKTが賞賛し、歌詞・メロディーはそのままに自らのアレンジを加えて発表した「Episode.0」。その歌詞は「誰かの重荷を外せたなら」という印象的なフレーズで幕を閉じる。音楽とは古来、まさに、聞いているその刹那だけでも日常の重圧や苦痛から解放してくれるものであったはずだ。「Episode.0」は、そんな音楽の根源的な意義を示唆した楽曲となった気がしてならない。ニコニコ動画という自由な表現のフロンティアから飛び出した新たなクリエイターがこれからどのような音を紡ぎだしていくのか期待したい。
(取材・文=本城零次<http://ameblo.jp/iiwake-lazy/>)

●かにみそP(かにみそぴー)
1984年8月生まれ。小学生からエレクトーンを始め、高校時代にバンドを結成。ボーカロイドと出会い、楽曲制作を開始し、トランスやバラードなど幅広い楽曲を投稿。「ダンシング☆サムライ」は170万回再生、「Episode.0」は30万回再生を記録。好きなアーティストは、DAISHI DANCE、アルファゾーン、Mr.Children。公式サイト<http://mathru.net/

●関連リンク
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Episode.0(DVD付)

ジャケットイラストは三浦建太郎

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最終更新:2013/09/11 20:29
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