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「アートには本当に力があるのか?」アートセンターから避難所へ 被災地の劇場・いわきアリオスの挑戦

「まずは、これからここに暮らし、生きようとしている人たちが、今本当に何を必要としているのかを、見て、考えるべきではないか。それなしに、自分たちの『思い』だけで走れば、断言するが、アリオスは市民にとって『要らないもの』と思われるはずだ」

 そして、震災後のアリオスの活動は、リサーチから始まった。東京23区の2倍という広大な面積を持ついわき市。同じ市内とはいえ、津波に襲われた小名浜地区をはじめとする海岸沿いと山間部では、被災の状況がまったく異なっている。その被災格差を熱心にリサーチしながら、要望のあった地域に向けて、出張コンサートやワークショップなどを行う「おでかけアリオス」を再開。劇場そのものは、安全性の確認が取れるまで長期休業となるが、それ以外の場所ならば活動が可能だ。音楽家や劇団、落語家などを招聘して行われた「おでかけアリオス」のプロジェクトは2011年度に90回を数え、震災後を生きる多くの市民にとっての希望となった。

 アリオスのマーケティングマネージャー・森隆一郎が掲げるのが、「OS」としての劇場だ。これまでの文化施設はアプリケーションとしての「作品」の提供に主眼が置かれていた。しかし、OSという考え方を導入すれば、ロビーの運営というインターフェース、市民に向けてソースコードを公開し、新たなアプリの開発を促すなど、これまでの公共劇場が見えていなかった部分が明らかになってくる。

 震度6の地震に襲われても、この軸はブレなかった。アリオスはOSとして、市民たちが震災後のモヤモヤとした感情を話し合う「いわき復興モヤモヤ会議」を開催したり、市民からは映画の巡回上映会や、原発事故によって外で遊ぶことのできない子どもたちに遊び場を提供する「こどもプロジェクト」などが提案され始動した。アリオスというOSにのっとって、市民からさまざまなアプリが開発され、それをまた別の市民が楽しむ。一時はビジー状態だったOSは、1年半を経て、復興に向けて徐々に起動を開始している。

 パソコンを例にすれば、「パソコンがあればなんでもできろんだろ?」と、PCを使えないおじさんたちが言う言葉にイラッとするように、「アートはなんでもできる」と、関係者ですら考えがちだ。しかし、パソコンにもできることとできないことがあるように、アートは万能薬ではない。そのユーザーの使い方によってもまた、効果は異なってくる。だからこそ、アリオスでは熱心に市民にリサーチを行い、マーケティングを実施しながら「必要な」アートを模索し、それが本当に効果を上げるための施策に頭を悩ませてきた。その結果、未曾有の災害が襲ってきても、アリオスは「今すべきこと」と「今すべきでないこと」を冷静に選択できた。

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