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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.212

若松孝二監督が銀幕に遺した“高貴で穢れた楽園”芸能ものの血が騒ぐ男たちの饗宴『千年の愉楽』

sennen_yuraku3.jpg半蔵、三好と同じ血が流れる達男(染谷将太)。
汗ばんだ達男の裸体を眺めていたオバは、ついムラムラッとしてしまう。

 若松組に初参加となる3人の男優たちは、劇中すっぽんぽんになる。公開中の『横道世之介』で爽やかなイメージを振りまいている高良健吾だが、本作では路地きっての好色男・半蔵として3Pなどの過激なFUCKシーンに挑戦。Twitter発言で所属事務所を辞めたばかりだった高岡蒼佑は、薬物や窃盗にしか生き甲斐を見いだせず、商売女との快楽に溺れる三好に成り切ってみせる。染谷将太は寺島しのぶとの青姦プレイに励む。男たちは生まれたままの姿で、欲望に身を任せて、あるがままに生きる。若松監督が描く路地は、どこか哀しいユートピアだ。路地内にいる限りは差別を意識することなく過ごすことができるが、路地内でいつまでも惰眠を貪り続けると淀んだ閉鎖環境の中で窒息死しかねない。路地から旅立って、外の世界で生きることができたなら、半蔵や三好はもっと違った人生が開けたかもしれない。達男は路地を飛び出して新天地を求めるが、やがて彼もまた自分の体に流れる血や背負った業と向き合わざるを得ない時がやってくる。

 若松監督を家長とする映画の撮影現場では、俳優たちは役を通して自由になり、スタッフは仕事を介して一心同体になることができた。期間限定ゆえの理想郷だった。若松監督は自分のアイデンティティーを見つめ、社会の常識と闘うための“夢の砦”の数々を残して去っていった。お別れの夜、青山の葬儀所には涙雨が降り続けた。明るい黄色いバラやカーネーションで埋め尽くされた祭壇は、豊満な女体をイメージしたものだった。女体の股間部分に置かれた遺影の中でサングラス姿の若松監督は笑っていた。若松監督は亡くなったのではなく、お母さんの子宮の中へ、本当のユートピアへと帰っていったんだなぁと思った。
(文=長野辰次)

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『千年の愉楽』
原作/中上健次 脚本・監督/若松孝二 出演/寺島しのぶ、佐野史郎、高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太、山本太郎、原田麻由、井浦新、増田恵美、並木愛枝、地曵豪、安部智凛、瀧口亮二、岡部尚、山岡一、水上竜士、岩間天嗣、大谷友右衛門、片山瞳、月船さらら、渋川清彦、大西信満、石田淡朗、小林ユウキチ、大和田健介、真樹めぐみ、大西礼芳、石橋杏奈
配給/スコーレ 3月9日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー (c)若松プロダクション <http://www.wakamatsukoji.org/sennennoyuraku>

最終更新:2013/05/02 15:10
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