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ノンフィクション作家 清泉亮インタビュー

「ノースキンは亡国病」女帝が見続けた吉原の変遷を読む『吉原まんだら』

yoshiwaramandara03.jpg現在の高麗きち氏。書棚には往年の吉原に関する貴重な文献がズラリ

──堅実に経営を行っていった結果、吉原の女帝にまで上り詰めることができた。

清泉 たたき上げの人生の中で、皮膚感覚で身につけた経営論を実践してきたんですね。単純に言えば、失敗した場合でも同じ轍を二度は踏まないというだけのことかもしれません。しかし、それを頭で、理屈で理解できても、確実に実行し続けられる経営者はそうはいないのではないでしょうか。また、経営者の常として、少し商売が成功すると、すぐに成功体験に酔い、浮足立ってしまう。おきちが踏み込んだ商売は、売春防止法に抵触するかどうかという、ある意味で崖っぷちを走り続ける正真正銘の“ブレードランナー”とは言えないでしょうか。そして、どこかで何かの瞬間に足を滑らせて、奈落に落ちる者も多い。そのなかで、「このおばあさんの生き様が面白い」という興味だけではなく、経営者としての感覚、才能にも興味を惹かれたんです。

──おきちさんと実際に話しながら、「女帝」として凄味を感じる部分はありますか?

清泉 彼女のもとには、地元の警察署長から、かつて総理候補の呼び声高かった超有力代議士、さらには区議会議員や地元の有力者、銀座で店を構えるクラブのママまでがよろず相談ごとに訪れるんですが、彼らの怯えっぷりが尋常ではない。いくら頭がはっきりしているとはいえ、おきちは93歳のおばあちゃん。彼らはそんなおきちに圧倒され、とにかく頭が上がらないんです。経済力だけではなく、会話での間合いの取り方、話題への切りこみ方など、老婆の所作、作法が、社会的に成功を収めている表の人間たちを圧倒していく……怖いほどの光景です。まるで、松本清張の『黒革の手帖』に登場するフィクサーを間近に見ているような錯覚さえありました。

──本の中では、吉原で働くボーイたちがおきちに頭を下げる描写もありますね。

清泉 おきちは口癖で「人殺し使えるようじゃなきゃ、やってらんねえ」と言っていました。彼女が使っていた人間の中には、実際に、神戸のソープでオーナーを殺して刑務所に入ったボーイもいる。「人殺し」というのは比喩ではないんです。そんな荒くれ者や、気性の激しい女の子たちと上手く関係を作りながら、おきちは店を経営していきました。おきちのもとには、店を辞めたボーイからも、女の子たちからも「ママにはお世話になりました」っていう手紙が届けられています。

──在籍期間も短い風俗の世界では、その場限りの人間関係になりがちですが、おきちの場合はそうではなかった?

清泉 おきちは、女の子たちにもボーイたちにも情を込めて付き合っていたんです。それが、彼女のいちばんの魅力でした。おきちには子どももいなかったので、その愛情を周りの従業員に向けることができたんですね。

 赤線やトルコの時代には、自分の店だけでなく、働く女の子たちのために、ヒモや悪い男から守ってあげていたこともあるようで、今でも、かつて働いていた女性がおきちのところに挨拶に訪れて近況を語っているのには驚かされました。やはり風俗業というのは、携わった人間にとっては、あえて振り返りたくはない過去になるのだろうと信じていましたから。でも、還暦を過ぎた女性たちも、ママなんて言って、おきちのところを訪れてくるんです。風俗業で働く女性とオーナーとが、人生の晩年でも、信頼関係でつながり続けているというのは、それもまた一面の真実として新鮮に受け止めました。

──本書には、おきちと並んで角海老グループを取り仕切る鈴木正雄会長の姿も描かれていますね。

清泉 彼は、輪タク屋を経営し、吉原界隈で働く女性たちから、ときに煙草を分けてもらいながらお金を貯めて、日本最大のソープランドチェーンを持つまでに至った人物です。はじめにつくったお店はベニヤ板で部屋を区切っただけの「あけぼの2号店」というお店。そこから店を増やし、一代で「ソープの帝王」へと駆けあがりました。

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