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ノンフィクション作家 清泉亮インタビュー

「ノースキンは亡国病」女帝が見続けた吉原の変遷を読む『吉原まんだら』

yoshiwaramandara05.jpg爬虫類との愛の交歓を客たちに見せつけた「ヘビ女」の艶技は話題を呼んだ。

──今、政治家がソープランドを経営していたら大問題に発展しそうですが、かつては粋な遊びとして許容されていたんですね。

清泉 今の吉原の経営者たちには「風俗業」という認識しかないかもしれませんが、おきちや鈴木さんはソープランドに対して、江戸時代からの遊郭文化を今に引き継いでいるという誇りがあります。そんな誇りを持つ最後の世代が彼らなんでしょうね。そんな歴史を保存するため、吉原の資料を展示する博物館が作れないかと、彼らは資料を収集しているんです。

──では、現在の吉原に対して、おきちさんはどのように感じているのでしょうか?

清泉 一時期はデリヘルに客を取られて閑古鳥が鳴いていたんですが、現在、吉原に客が戻ってきています。その理由がノースキン(NS)の店が流行しているから。そんな風潮を、おきちさんは「ダメだ」と激怒しています。

──「ダメ」というのは、いったいどうして?

清泉 吉原は江戸の頃から衛生管理をきちっとやってきた街だったのに、NSが流行すれば衛生的に問題となる可能性がある。エイズが蔓延したら大変なことになりますよね。おきちさんは「エイズは亡国病だ」と語っています。

──「亡国病」……ですか?

清泉 それも、江戸時代からの遊郭文化の上にいるという気概の現れでしょう。また、おきちさんはNSは商売をする女たちがかわいそうだと嘆いている。女の子を使い捨てにしたら、この商売は決して長くは持たない、女の子を犠牲にする店は生き残らないというのがおきちさんの考え方なんです。NSで吉原がにぎわうことは、女の子を犠牲にして金儲けをしているに等しい行為なんだと、そう憤るわけです。

──いくら儲かったとしても、国を滅ぼし、女の子を犠牲にするNSはまずい、と。

清泉 そう。ソープランドのような商売にはさまざまな意見があるとは思いますが、おきちはおきちなりに女の子たちのことを考え、愛情を持って接していました。おきちと吉原にいるときに、道で「ママー!」と呼ばれて振り向くと、昔おきちの店で働いていた女性がいたんです。「あんたー、どうしたの? 寂しかったよ」と、2人は再会を喜んでいた。その光景は、経営者と風俗嬢という関係を超えて、本当の親子なんじゃないかと錯覚するような姿でした。

──おきちさんを通じて吉原を見ていくと、文化や人情など、とてもソープランドとは縁遠いと思われていた世界が広がって見えてきますね。

清泉 だから、おきちや鈴木さんの人生はとても興味深いし、我々が学ぶところはたくさんあります。人生、経営、人付き合い、そして男と女……生々しい現実に揉まれてきた末の言葉だからこそ、あるいは、一歩間違えれば逮捕か廃業かという決死のブレードランナーとして、今まで生き残り続けて来た彼らの言葉だからこそ、その含蓄は何より説得力があるのだと思います。業種が業種だけに、彼らはこれまでも決して表立って登場することはありませんでしたが、彼らの背中は、風俗論にとどまらず、経営論、渡世論としても、これまでにない実践術として、大いに学ぶべきところがあるのではないかな、と思っています。

 そして、彼らは何よりも、哀しみを抱えて生きています。「女郎屋」と世間からは蔑まれる商売に身を投じることになった哀しみをしっかりと意識して今を生きています。それがあるからこそ、彼らの言葉は戒めにはなりえても、傲慢には響かないんです。そこがまた、無二の魅力でもあります。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン]/撮影=名鹿祥史)

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●清泉亮(せいせん・とおる)
1974年生まれ。近現代史の現場を訪ね、「訊くのではなく聞こえる瞬間を待つ」姿勢で、消えゆく記憶を書きとめ、発表している。本書は、清泉亮としての単行本デビュー作となる。

最終更新:2015/12/11 15:41
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