日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 七尾旅人が歌う「1人目の戦死者」

改憲不安高まる中、音楽はどこまで響くのか――七尾旅人が歌う「数十年ぶり1人目の戦死者『兵士A』」

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 中盤「Aくんが殺したひとびと」では、村を焼き払われ、誘拐され、まだ8歳なのに子ども兵にされた少年、戦争に翻弄されるカップル、月明かりを頼りにゴムボートで海を渡る難民など、さまざまな人々の物語を歌う。七尾は何度も何度も宙を仰ぎ、音を、リズムを、言葉をひとつひとつたぐり寄せるように曲を紡いでいく。そして一転、戦闘用ドローンになりきり、一心不乱に鉄パイプでドラム缶を殴打する。

 終盤「再会」では、2020年に開催される東京オリンピックを未来から回想したかと思えば、今度は1938年にタイムスリップ。戦死した野球選手・沢村栄治が手榴弾を投げる様子を歌う。シンセサイザーが銃声のようにやかましく鳴り響き、それまでステージ袖でサックスを演奏していた梅津和時が、旧日本軍の軍服姿で登場。七尾の即興演奏ライブシリーズ「百人組手」よろしく、2人は激しく音をぶつけ合う。

 七尾といえば、911同時多発テロに端を発するアフガン・イラク侵攻を境に衰弱してゆくアメリカと、否応なく戦場へ回帰していく日本を描いた3枚組の超大作『911FANTASIA』、ヘリパッド移設問題で苦しむ小さな美しい村を歌った「沖縄県東村高江の唄」、東日本大震災の原発事故で放射能が降り注ぐ環境下、それでも笑顔で生きる女性が主人公の「圏内の歌」を発表するなど、こと時勢に敏感なアーティストだ。

「兵士Aくんの歌」、そして今回の特殊ワンマンも、集団的自衛権の行使に連動した憲法改正論議に触発されたことは想像に難くない。だが、これはありきたりのプロテストソングではない。『911FANTASIA』で七尾が予見した通り、取り返しのつかない場所へ行こうとしている日本と、そして世界を、さまざまな立場の人々の小さな声を手がかりにしながら、総合的に描き出そうとする試みだ。

 以前、東日本大震災後に発表したアルバム『リトルメロディ』のインタビュー(参照記事)で、七尾はこう語っている。

「もしあとに残るものがニュースだけだったら、100年後には、まるで太平洋戦争中の新聞と同様に、共感しづらいものになる。政治や科学やジャーナリズムの言葉だけでは、よくわからない。でも、そこに音楽、あるいは映画とか、文化がついてきて初めて、そのときどんな人がどんな複雑な気持ちを抱えて、どんなことを恐れていたり、どんなことに喜んでいたかが、やっと見えてくると思うんですよね」

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