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実在した“毒家族”映画『エル・クラン』公開記念インタビュー

精神科医が話題の実録犯罪映画をカウンセリング!「家族への幻想は捨てたほうが楽に生きられる」

el-clan02長男のアレハンドロはラグビー選手として活躍し、地元の人気者だった。でも、家族の秘密は誰にも話せない。

──母親という存在が凶悪犯罪を補完させてしまうわけですか。威厳たっぷりに息子たちに犯罪計画を指示する父親アルキメデスは罪悪感なさそうですね。

斎藤 あの父親は最後まで罪の意識は感じていないでしょう。軍事政権時代は秘密警察に勤めており、日常的に政治犯を拉致したり拷問していたのが、民主政権に変わり、食べていくために誘拐犯になった。それまで政治犯を拉致していたのが、裕福なご近所さんが標的に変わっただけ。威張っているけれど父親の思考回路は頑迷で、社会が変わったことを認識できずにいるんです。これは私の推測に過ぎないのですが、ご近所さんが集まっての宴会などの場で政治談話など交わしているのを父親のアルキメデスは耳にしており、彼なりの基準で左寄りの人間を選んで犯行に及んでいたんではないかと思うんです。トラペロ監督はあえて細かい描写は省略していますが、アルキメデスは秘密警察時代からの自分の任務をまっとうしていた、くらいの認識だったのではないかと思います。男は社会の中に取り込まれてしまい、その中での自分の立場でしか物事を考えられないので、おかしなことをしでかしても気づかないことが多いんです。逆に妻であり母親であるエピファニアは客観的に状況を把握しています。夫たちの犯罪を知りながら、一家の経済状態を維持するために必要なことだと冷静に受け止めていたのかもしれない。

──次男マギラは家族とは距離をおいて海外で暮らしていたのに、警察の手が一家に及びそうな段階になって、のこのこ帰国する。自分からわざわざ逮捕されるために家族と合流してしまう次男のこの行動は、理解しがたいものがありますが……。

斎藤 そこが家族の恐ろしさです。毒親の毒に子どもたちもすっかり毒されていたということなのか。私から見ても、この家族はおかしな行動がとても多いですよ。父親はなんで足がつきやすいご近所さんをターゲットにして誘拐を続けたのか。身代金を要求する電話を掛ける際は、地声でしゃべっていますよね。あんなことをしてたら、すぐにバレるでしょうに(笑)。この映画は底が抜けたようなおかしさがありますが、実際の事件の解明には大変な労力と時間が掛かります。裁判所や弁護士から依頼され、当人の精神状態についての「精神鑑定」や「意見書」を私たちが作成するのに最低でも3カ月は要しますが、裁判員制度が導入されてからは迅速化が求められ、1カ月しか与えられていません。こういった事件の真相を知ることが、ますます難しい状況に今の日本はなっていますね。

──家族とは困ったときに助け合うものだと一般的に言われていますが、プッチオ家の場合は家族の団結が間違った方向に暴走してしまう。家族って一体、何なんでしょうか?

斎藤 家族は温かいもの、というイメージは人間が抱く願望でしょう。家族とは太古からある社会保障制度でしかないんです。国家が成立する以前から家族は存在したわけで、女性や子どもが食べ物に困らないための福祉制度として機能していたシステムだったものです。もちろん家族の存在が癒しをもたらすなどの側面はあるわけですが、システムであり社会制度である家族というものを、あまり美化して幻想を抱くと辛い思いをします。「毒親のせいで、酷いめにあった」と訴えてくる人は私の診療所にもいっぱいいますよ。

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