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映画業界深掘りインタビュー

「小さな映画館だって、社会にバズを起こせる」アップリンク社長が目指す新しいミニシアター像

eat1119グローバル企業の恐ろしさを暴いたドキュメンタリー『モンサントの不自然な食べもの』を配信中。TPP問題を知る上でぜひ観ておきたい。

──配給会社ながら、デレク・ジャーマンなど海外の監督との共同製作にもこれまで力を入れてきました。

浅井 アレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作『エンドレス・ポエトリー』も共同製作し、来年公開の予定です。国際共同製作はデレク・ジャーマンの『ザ・ガーデン』(90)から始まったわけだけど、どれも監督たちとの個人的な付き合いから生まれたもの。たまたま付き合いのあったデレク・ジャーマンは英国人で、ホドロフスキーはパリに住むチリ人、ロウ・イエは中国人だったということなんです。黒沢清監督の『アカルイミライ』(03)や矢崎仁司監督の『ストロベリーショートケイクス』(06)も共同製作しています。アートや映画って、個人の力の表現であって、国境にとらわれないのがいい。

──1990年代には税関を相手に浅井社長が裁判を起こし、週刊誌を賑わしたことも。

浅井 よく覚えているね(笑)。表現の自由を守るためには闘わなくちゃいけないこともある。あの裁判は米国の写真家ロバート・メイプルソープのすでに日本国内でアップリンクが発行販売済みだった写真集を、僕があえて国外に一度持ち出したものを国内に持ち帰る際に成田空港の税関で押収されたもの。僕が原告となり、行政訴訟で東京税関と日本国を被告として訴えたんです。一審で勝ち、二審で負け、最高裁で勝利しました。いわゆる「芸術か猥褻か」をめぐる裁判だったんだけど、猥褻問題をめぐって最高裁で個人が勝ったケースは初めてのことらしいよ。裁判で最終的に勝つまでに10年近くかかったけど、僕が亡くなったときにはきっと僕の生涯の最大の業績になるだろうね(笑)。裁判に勝つことで、それまで猥褻とされていたものが芸術になる。おかしいと思ったら、行政訴訟を起こすのは有効な手段。市民運動を続けても世の中はなかなか変わらないけど、裁判に勝てば判例を残すことで社会を変えることができるってことだよね。

──中国で度々上映禁止処分に遭っているロウ・イエ監督の『二重生活』(12)などを、アップリンクが積極的に上映している理由がわかった気がします。

浅井 ロウ・イエは中国の体制側と闘ったり、ギリギリのところで撮ったりしている。彼のそういった姿勢やセンチメンタルな作風は僕の心にタッチするものがある。既成概念に縛られずに、自由な表現を守ることは大事なことだと思うよ。2017年1月にはロウ・イエ監督の新作『ブラインド・マッサージ』という盲人マッサージ院を舞台にした、これまた挑発的な作品を公開します。

──浅井社長は寺山修司が率いた劇団「天井桟敷」出身。寺山修司亡き後、多くの劇団員たちは「万有引力」に参加しましたが、浅井社長は単独でアップリンクを立ち上げた。寺山修司、もしくは天井桟敷から受け継いだものがあるとすれば何でしょうか?

浅井 18歳のときに大阪のサンケイホールで初めて観た天井桟敷の舞台が『邪宗門』で最後はセットが崩れ、役者たちは自分たちの言葉をそれぞれ語り始めるというものでした。寺山修司の評論集に『書を捨てよ町へ出よう』があるけど、まさに「劇場から外へ出よう」という舞台だった。その後、僕が天井桟敷の劇団員になってやったのが阿佐ヶ谷での市街劇『ノック』。街の公園やアパートの一室で、多発的に芝居が繰り広げられるというもの。今回の「アップリンク・クラウド」に通じるものがあるんじゃないかな。劇場という縛りから離れて、街そのものを自分の映画館にしてしまおうということだからね。多くの人に自由な形で、新しい映画の楽しみ方を見つけてほしいなと思っているんです。寺山修司や天井桟敷から受け継いだものがあるとすれば、そういった自由な考え方だろうね。実はアップリンクで以前VHSでしか出していなかった『天井桟敷ビデオ・アンソロジー』を、「アップリンク・クラウド」で鑑賞できるようにしようと企画しているところなんです。これからの「アップリンク・クラウド」、楽しみにしていてください。

(取材・文=長野辰次)

●浅井隆(あさい・たかし)
1955年生まれ。劇団「天井桟敷」の舞台監督を務めた後、87年に有限会社アップリンクを設立。99年から映画上映およびイベントスペース「UPLINK FACTORY」をオープンし、2005年に渋谷区宇田川町に移転。様々な映画の制作・配給・プロデュースを行なっている。

■アップリンク・クラウド
2016年11月2日から始まったオンラインサービス。パソコンやスマートフォン、アマゾンのファイヤーTV、クロームキャスト、アップルTV、X-BOX360を使って、アップリンクがセレクトした映画を自由なスタイルで視聴できる。『モンサントの不自然な食べもの』や『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』(16)、『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』(14)などのドキュメンタリー映画、ロウ・イエ監督の『二重生活』やグザヴィエ・ドラン主演作『エレファント・ソング』(14)などの劇映画を現在配信中。
http://www.uplink.co.jp/cloud

最終更新:2016/11/19 18:00
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