日刊サイゾー トップ > 連載・コラム > パンドラ映画館  > ウディ・アレンの不倫ドラマ
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.486

人間は何かに依存せずには生きていけないのか? ウディ・アレンの不倫ドラマ『女と男の観覧車』

 若い頃は女優を目指していたジニーだが、今では生活に疲れた中年女になってしまったことを自覚している。ビーチで監視員のバイトをしている作家志望の年下の男ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と知り合い、彼との情事にたちまち溺れていく。ライフセーバーは人妻に手を伸ばすのも得意だった。元女優であるジニーは、今はしがないウェイトレスという役を演じているのであって、ミッキーとの恋愛を成就させれば、本当の自分を取り戻せると思い込むようになっていく。『日陰のふたり』(96)や『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』『愛を読むひと』(ともに08)と同様、母性的な強さとその中に狂気を宿らせたヒロイン像を演じるのが、ケイト・ウィンスレットはとてもうまい。

 ジニーは、夫ハンプティがアルコール依存症であることを責めるが、それはジニーも同じだった。酒を遠ざけるようになったジニーだが、代わりにミッキーとの不倫愛に依存していくようになる。一方、多感な時期に両親の愛情を感じることができずにいるリッチーは、火遊びがますます激しくなっていく。このままだと放火魔になりかねない。ひと夏だけコニーアイランドで過ごすミッキーは、いつか小説家になるという夢に支えられている。ジニーとの交際は小説を書くための肥やしだった。みんな、何かに依存しながら生きている。それぞれ目の前にある幸せを手に入れようとするが、回転木馬のように永遠に追いつくことはできない。ウディ・アレンの作品を観ていると、その人が何に依存しているかが、その人自身ではないのかと思えてくる。彼らから依存対象を奪ったら、何が残るのだろうか。ウディ・アレンから映画づくりとクラリネットを奪ったら、後には何が残るのだろうか。

 

ジニーの息子リッチー(ジャック・ゴア)。情緒不安定で精神科に通院するなど、ウディ・アレン自身の姿が投影されている。

 再び“#MeToo”運動について。ウディ・アレンを訴えているのは、前妻ミア・ファローの連れ子だったディアン・ファロー。幼い頃にウディ・アレンに性的虐待を受けたと、これまで何度も主張してきた。今回、ウディ・アレンが窮地に追い詰められたのは、ウディ・アレンとミア・ファローの息子であるロナン・ファローの存在が大きい。新進ジャーナリストであるロナン・ファローは17年に「ニューヨーカー」でハリウッドにおけるセクハラ問題を大々的に取り上げ、“#MeToo”運動を後押しした。ウディ・アレンとは絶縁状態にあるロナン・ファローが、姉ディアンを援護射撃した格好だった。言ってみれば、ウディ・アレン一家にずっと燻り続けてきた火種が、“#MeToo”運動へと広がっていったことになる。ウディ・アレンも、子どもたちによって自身の監督生命を絶たれるとは思いもしなかっただろう。

 行楽客で賑わうコニーアイランド全体を見渡す大観覧車がオープニング、そしてエンディングで大きく映し出される。「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」と語ったのは喜劇王チャールズ・チャップリンだった。チャップリンもまた、女性問題と赤狩りによってハリウッド追放という辛酸を舐めている。観覧車に乗っていれば、ごみごみとした近景がやがて美しい絶景へと変わっていく。男女のどろどろとした修羅場も、やがて掛け替えのない思い出へと変わることを願うばかりだ。ウディ・アレンの新作を劇場で観るのは、これが最後になるのだろうか。
(文=長野辰次)

『女と男の観覧車』
監督・脚本/ウディ・アレン 撮影/ヴィットリオ・ストラーロ 
出演/ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル、ジャスティン・ティンバーレイク、ケイト・ウィンスレット、マックス・カセラ、ジャック・ゴア、デヴィッツド・クラムホルツ
配給/ロングライド 6月23日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開中
Photo by Jessica MiglioC)2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.
http://longride.jp/kanransya-movie

 

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

 

最終更新:2018/06/30 16:00
12
こんな記事も読まれています

人間は何かに依存せずには生きていけないのか? ウディ・アレンの不倫ドラマ『女と男の観覧車』のページです。日刊サイゾー芸能最新情報のほか、ジャニーズ/AKB48/アイドル/タレント/お笑い芸人のゴシップや芸能界の裏話・噂をお届けします。その他スポーツニュース、サブカルチャーネタ、連載コラムドラマレビューインタビュー中韓など社会系の話題も充実。芸能人のニュースまとめなら日刊サイゾーへ!

ページ上部へ戻る

絶対的満足度の至宝店

すべて見る

人気連載すべて見る

元木昌彦の『週刊誌スクープ大賞』

「週刊現代」「FRIDAY」の編集長を歴任した"伝説の編集者"元木昌彦による週刊誌レビュー

“元アウトローのカリスマ”瓜田純士、かく語りき

“元アウトローのカリスマ”瓜田純士の最新情報をお届け! 嫁・麗子も時々登場。

トンデモ海外ニュース

世界中のびっくり珍事件をお届け。世界はやっぱり広かった!

深読みCINEMAコラム『パンドラ映画館』

最新作・話題作から珠玉の掘り出しモノまで、毎週1本必観の映画作品を徹底レビュー

じゃまおくんのWEB漫クエスト

マンガレビューブログ管理人じゃまおくんが、インターネットに埋もれる一押しマンガを発掘!

イチオシ企画

【日刊サイゾー/月刊サイゾー】編集・ライター募集のお知らせ

現在「日刊サイゾー/月刊サイゾー」 編集部のスタッフを募集しております。
写真
特集

沢尻エリカ、薬物逮捕の余波

大河ドラマ、CM降板で損害賠償は芸能界史上最大に!?
写真
人気連載

岡村がビビる松本をイジる若手

テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(...…
写真
インタビュー

漫画家・新井英樹が独自世界観を語る

 人気コミックの実写化はファンから深く愛されている作品ほど、そのハードルは高くなるが...
写真