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食べ物は愛──人間の食行動の不思議に迫った『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか』

『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか』(原書房)

“フードポルノ”という言葉が巷間に広がり、4、5年がたった。「ポルノのように欲望を刺激する魅力的な食べ物の写真」という意味だが、日本でいうところの“飯テロ”に近いだろうか。インターネットで最も検索されるのは「ポルノ」で、二番目が食べ物に関する語句だという。実際、食欲と性欲にはつながりがあり、裸身の画像と食べ物の画像は脳の同じ場所を刺激する。食欲も性欲も、我々が生きていくのになくてはならないものだ。

 そんな食欲の不思議に迫ったのが『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか』(原書房)だ。カナダの心理学者で、嗅覚心理学の第一人者であるレイチェル・ハーツ氏が、味覚や嗅覚、食欲に関する研究をまとめた行動科学の本だ。食に関するさまざまな症例や実験結果から、味覚や嗅覚などの医学的見地、広告やラベルの色が消費者に与える効果など、多岐にわたって紹介されており、情報量の多い読み応えのある一冊となっている。味覚・嗅覚以外の感覚も味覚に影響を及ぼし、「飛行機の騒音の中で飲んだほうがトマトジュースのうまみをより多く感じられる」など、にわかに信じられないような研究結果も出ている。

 我々はなぜベーコンの焼けるにおいに魅かれるのだろうか。我々が「味(taste)」というとき、それは「風味(flavor)」のことを指し、その風味を決めるのはにおいだ。ベーコンを食べたとき、口の中で感じるのは塩味だけで、ベーコンの香りは鼻の中にある。我々は生まれつき特定のにおいを好むのではなく、後天的に学ぶことで好みが決まる。豚の脂肪と塩味が美味しいという食体験があるため、それを美味しいにおいだと感じるのだ。特に欧米人のベーコン愛は深く、ベーコンのにおいのするキャンドルや目覚まし時計、下着まで商品化されている。米国の食肉加工製造会社オスカー・マイヤーは、ベーコンをこよなく愛する人のための出会い系アプリ「Sizzl」を2015年にリリース。これを使えばベーコンの好みがぴったり合う恋人が見つかるという。ベーコンパンツに、ベーコンの好みがぴったり合う恋人って、アジア人からすると全く意味がわかりませんが……。

 だが、本書では食と愛の相関関係も指摘されている。チョコレートやチーズ、ワインなどには、恋をするときに脳内に分泌される神経伝達物質フェニルエチルアミンが含まれており、快楽や気分の高揚を促す効果があるという。また、甘味は痛みをやわらげ、甘味を感じると、愛情を感じるときと同じ脳の前帯状皮質が活発化することが報告されている。そういえば、英語圏では恋人のことを「ハニー」「シュガー」「スウィートハート」なんて呼んでいるのをよく聞きますね。

 バレンタインを間近に控え、男も女もそわそわしだす季節。チョコレートを送れば恋が生まれるというのも、あながち間違っているとはいえないのかもしれない。この他にも、本書には食にまつわる面白い研究例がたくさんある。体重増加が気になるこの季節に、不思議な食の科学を探求しよう。
(文=平野遼)

・レイチェル・ハーツ
心理学者、認知神経科学者、嗅覚心理学における第一人者。カナダ・トロント大学で心理学の博士号を取得、ブリティッシュコロンビア大学、米国・モネル化学感覚研究所を経て、現在はブラウン大学およびボストン・カレッジで教鞭を執っている。また複数のグローバル企業でコンサルタントも務めている。著書に『あなたはなぜあの人の「におい」に魅かれるのか』、『あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか』(いずれも原書房)がある。

最終更新:2019/01/22 23:00
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