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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.536

香取慎吾が“ギャンブル依存症”へと墜ちていく!? 石巻を舞台にしたドン底からの再生劇『凪待ち』

助演陣の好演で際立つ、香取慎吾の光と影

白石監督は“疑似家族”をモチーフにすることが多い。血のつながりに頼らない、新しい家族が育まれていく。

 悲しい事件の後、郁男、美波、勝美が“疑似家族”となっていく過程は、白石監督の真骨頂。白石監督のブレイク作『凶悪』(13)や『日本で一番悪い奴ら』(16)では自分に甘いダメ人間同士が集まって、犯罪ファミリーが結成された。だが、『凪待ち』では心に傷を負った者たちが打算抜きで支え合い、マイナスとマイナスが合わさってプラスへと転じることになる。助演陣の好演があって、香取の光と影がいっそう際立つ。

 香取演じる主人公の心の闇をクローズアップしてみせる『凪待ち』だが、ロケが行われた石巻という町もまた闇を抱えている。この町の闇とは、2011年3月に起きた東日本大震災の傷跡だ。表向きはすっかり整地化され、復興を遂げたように見える。だが、他所者の郁男だけでなく、町の人たちも闇営業のノミ屋に通わずにはいられない。郁男よりも、もっと深い闇を隠し持っている人間もいる。そしてエンディングでは、石巻湾の水面下を水中カメラが映し出す。湾の底には廃車や廃品が手つかずのまま残され、8年前に町を襲った津波の荒々しさを今に伝えている。

 この映画は、喪失感を抱えた人々と町とが懸命に再生しようとする物語だ。いつかまた、郁男とこの町に大きな嵐が訪れるかもしれない。しばらくは、静かな凪が続くことを願うばかりだ。この映画、劇場の闇の中でじっくりと味わいたい。

(文=長野辰次)

『凪待ち』

監督/白石和彌 脚本/加藤正人

出演/香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、麿赤兒、不破万作、宮崎吐夢、リリー・フランキー

配給/キノフィルムズ PG12 6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

©2018「凪待ち」フィルムパートナーズ

http://nagimachi.com

 

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最終更新:2019/06/24 16:12
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