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本で学ぶヒップホップ史

ブラックミュージックが世界を席巻する理由 差別、文化、神への信仰…識者が推す「ラップ現代史選書」

 さて、ここまではヒップホップ/ラップの歴史に則した内容を持つ書籍を紹介してきたが、米在住の映画ライター・杏レラト氏による『ブラックムービー ガイド』【4】を紹介したい。ブラックムービーの始祖でもあるスパイク・リーの登場から、『ブラック・パンサー』までの歴史的変遷をまとめた著書で、同書で取り上げられている80年代半ば以降は、ヒップホップが映画とリンクし始め、ラッパーが演者として映画の世界に足を踏み入れた時期とも重なる。その頃からラッパーと映画との距離の取り方は、ウィル・スミスやアイス・キューブ、そして2パックの例に見られるように三者三様で、映画の世界には音楽とはまた違う面白さを味わうことができる。そんな杏氏が映画的観点で選んだ本が、アンジー・トーマスが書いた小説『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』【5】。そして偶然の一致か、それほどまでに重要な作品であるためか、長谷川氏も同書をチョイス。

「ティーン向けに書かれたいわゆるYA(ヤングアダルト)小説なのですが、内容は滅茶苦茶ヘビー。なにしろ主人公の黒人女子校生・スターは、幼馴染みの黒人少年・カリルが白人警官に射殺される瞬間を目の当たりにしてしまうのだから。その後の彼女の抗議活動や暴動の描写は、完全にトレイボン・マーティン射殺事件やファーガソン騒動を下敷きにしている。黒人のティーンがいかに死の危険に晒されていると感じているかが、平易な言葉で記された重要作。著者はラッパーを志していた人なので、ドレイクやJ・コールといったラッパーの名も頻発します。タイトル自体も2パックの言葉『The Hate U Give Little Infants Fuck Everybody(憎しみを植え付けられた子どもが社会に牙を剥く)』からの引用となっています」(長谷川氏)

 杏氏が続ける。

「『ザ・ヘイト~』はフィクションなのですが、今のアメリカ、とりわけアフリカ系アメリカ人の現状を克明にわかりやすく描いています。長谷川さんが述べられているように、ティーン向けの小説なので難しい言い回しや表現を用いず、若者たちが牽引するポップ・カルチャーを色濃く反映した物語になっている。ポップ・カルチャーが好きな方であれば、日本人でもわかりやすく読めるという利点もあると思いますね。

 また、本書で描写されている事件は、実際に昔からたくさん起きているのも事実です。55年にリンチで殺された黒人の少年、エメット・ティルの名前が出てくることからも、黒人がアメリカで抱え込んでいる問題はなんら変わっていないという現状も叩きつけられます。2パックをはじめ、ジェイ・Zやケンドリック・ラマーといったラッパーたちがラップを通じて伝えたいことが、ページをめくるたびに目に、そして心に飛び込んでくる本です」(杏氏)

 この『ザ・ヘイト~』の物語、および作者であるアンジー・トーマスの言葉から改めて気づかされるのは、現在のヒットチャートのほとんどがラップであること同様、日常生活に当たり前のようにヒップホップ/ラップが溶け込んでいるということなのだ。

■避けては通れないキリスト教とラップ

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