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本で学ぶヒップホップ史

ブラックミュージックが世界を席巻する理由 差別、文化、神への信仰…識者が推す「ラップ現代史選書」

文=小林雅明

2016年に発表したミックステープ『Coloring Book』がグラミー賞で「最優秀ラップアルバム賞」を獲得したチャンス・ザ・ラッパー。今やメジャーレーベルと契約して作品を発表することが、成功への近道ではなくなっているのだ。

――全米の音楽チャートのトップ10すべてがラップという状況も、今やめずらしくなくなった昨今。日本でも今なおフリースタイル・バトル熱が継続する中、「なぜヒップホップがここまで巨大産業になったのか?」を、近年刊行された書籍を中心に徹底分析。音楽はもちろん、映画や宗教といった角度からも攻めてみよう。

 ここ数年でポップ・カルチャーにおいて――とりわけポップ・ミュージックにおいて――すっかり巨大な市場を形成するまでになったヒップホップ/ラップ・ミュージック。その間、いわゆる関連書も当然のことながら何冊も出版されている。本稿では、この1年あまりのあいだに出版された書籍を軸に、ヒップホップ/ラップにアプローチする上で欠かせない著書を発表されている杏レラト、長谷川町蔵、そして山下壮起の三氏が太鼓判を押す書籍を紹介しながら、ヒップホップ/ラップの現在に新たな光を当てていきたい。

 とはいえ、いきなり本題に入るのは不親切だろう。気にはなるけど、急にヒップホップ/ラップと言われても……と思われる読者諸氏もいるに違いない。

 そこで入門書として紹介したいのが『文化系のためのヒップホップ入門1』【1】だ。基本的にヒップホップを聴きながら育ってきたわけではないという、アメリカ・ポピュラー音楽の研究者であり慶応大学の教授も務める大和田俊之氏と、文筆家として活躍する前述の長谷川氏の小気味良いリズムをキープした対話で語られる入門書となっている。一言で言うなら、これはヒップホップ/ラップをほとんど聴いたことのない者にこそ機能する1冊だ。昨年にはその続編となる『文化系のためのヒップホップ入門2』が刊行された。こちらは12~14年までのヒップホップ・カルチャーの動向をしっかりフォローしており、この2冊を読むことで、1970年代から2010年代までのヒップホップ史の要所、ヒップホップ/ラップの勘所をしっかりと押さえることができる。

 さらに、具体的なヒット曲を例に挙げ、79年から15年までの歴史やトレンドをつかみとることができるのが、シェイ・セラーノ著『ラップ・イヤー・ブック』【2】だ。タイトルの通り、著者が重要とする曲を年ごとに1曲ずつ選び、それら楽曲の分析だけにとどまらず、適宜文体を変えながら、時にエッセイ風にまとめあげたりもしている、全体的に楽しい雰囲気に包まれた書籍となっている。

 ここまで紹介した3冊で扱われているのが、基本的なヒップホップの“正史”だとしたら、その正史に大きな影響を与える“日陰の存在”だったカルチャーに「ミックステープ」【編註:実質、有料で販売されるアルバムのような音源を、アーティスト自身がフリーで配布したり、ストリーミングサイトにアップする作品】がある。のちに正史に堂々と登場することになるが、このヒップホップの裏面史ともいえるミックステープが持つ18年上半期までの歴史を掘り起こしたのが、拙著『ミックステープ文化論』【3】だ。

 もう少しわかりやすく説明しよう。今現在のラップ興隆の背景には、スポティファイに代表されるストリーミングサービスの普及や定着も大きく関わっている。ただし、今現在あるストリーミングサービスが誕生したことで、ラップ人気が急激に高まったわけではない。ヒップホップ/ラップに関しては、実は生誕期から楽曲制作に楽器やミュージシャン、設備の整った音楽スタジオなどを特に必要としないこともあり、作品の制作から完成品の発表、そして宣伝・拡散および流通方法までに至るすべての“段取り”を自分たちだけでこなすことが可能だった。こうした段取りのすべてが凝縮された作品が“ミックステープ”なのだ。拙著を読むことでストリーミングという発想そのものは、ミックステープという機構の中に、40年以上も前の遥か昔から組み込まれていたことに、お気づきになるかもしれない。

■映画と共に成長したヒップホップ文化

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