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エッジ・オブ・小市民【2】

入管収容ナイジェリア人の”ハンスト餓死”事件と茹でガエル

“サニーさん”と呼ばれて慕われていたナイジェリア人男性

 餓死したナイジェリア人男性が施設で具体的にどのような処遇を受けていたかは明らかではないが、入管の収容者に対する待遇のひどさはこれまでにも幾度となく問題視されてきた。収容者の自殺や自殺未遂、自傷行為が相次ぎ、今回の事件の他にもハンストが起きている。そうした入管行政のあり方を見直し、餓死という結果に終わる前に処遇改善をはかるという道もあったのでないか。

 結局、「何もしない」という決断をくだした入管庁の言い分としては、本人が職員の警告に応じずに治療を拒否したから問題がなかったということだが、目の前で人が餓えて衰弱のままに死んでいくのを見過ごして「問題がなかった」というのは、法的な手続きに問題がないということだろうか。では、「問題がない」と決定を下した人は、それを人としても問題はなかったと心から言えるのだろうか?

 こうした入管庁の態度と同じように衝撃的だったのが、事件に対する“世間”の態度だった。

 先に挙げた朝日新聞の記事はYahoo!ニュースに転載されて、数多くのユーザーが事件についてコメントを投稿している。コメント欄のトップには“オーサー”としてフリージャーナリストの志葉玲氏のコメントが掲載され、法令に基づいた収容者の健康や命に対する入管庁の責任や長期収容による二重刑罰といった法的な問題点を指摘している。しかし、ユーザーのコメントの多くは「対応に問題はない」と入管庁に同調を示したもので、「すぐに強制送還すればよかった」「餓死も自業自得」などという意見が目立った。こうしたコメントを寄せている人たちにとって、不法滞在という罪を犯した外国人犯罪者は、餓死という悲惨な最期を遂げたところで同情に値しない存在なのだろう。

 餓死したナイジェリア人男性は施設内で“サニーさん”と呼ばれて慕われていたという。西日本新聞の記事によると、サニーさんは皆が親切、穏やかと口をそろえる人物で、同部屋で過ごしたことのあるフィリピン人男性は「兄のような存在。食事が足りない時には分けてくれた」とコメントをしている。

 サニーさんには日本人女性との間にできた子供がいる。帰国を拒んでいたのは「出国すると子供に会えなくなる」からだという。ちなみに日本で生まれたこの子供は、もちろん日本人だ。

 自分の子供との再会を望んでいたサニーさんはなぜハンストという抗議をせざるを得なかったのか。その背景にどんなことがあったのか。徐々に衰弱して死に向かうなかで、サニーさんはどんなことを思ったのだろう。

 すべては想像でしかないが、きっと、その人生にはひとりの人間として、悲しみや苦しみ、怒り、そして喜びがあっただろう。サニーさんは窃盗などの罪で実刑判決を受けて服役もしている。恥辱、悪意、葛藤、後悔——そんなネガティブな感情に溺れるような思いをしたことがあるかもしれない。その一方で、自分の子供の誕生を寿ぎ、その小さな体を抱いて、そのか弱さと温かさに目を細めて笑ったこともきっとあっただろう。

 Yahoo!ニュースにコメントを寄せた多くに人にとっては、“自業自得のハンストで餓死した外国人犯罪者”に過ぎないかもしれないが、その人生には暗闇もあれば、輝きもあり、それは私たちひとりひとりとまったく変わらないかけがえのないものであったはずだ。

 サニーさんの収容期間は3年7ヶ月に及んだ。

 1977年に起きたダッカ日航機ハイジャック事件で、当時の福田赳夫首相は「人命は地球より重い」と述べて、テロリストの要求に従った。その是非はさておき、現在の日本では人命よりも“自己責任”のほうが重そうだ。

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