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エッジ・オブ・小市民【2】

入管収容ナイジェリア人の”ハンスト餓死”事件と茹でガエル

自己責任論と他者への不寛容、権威主義が社会全体に蔓延

 社会学者の故・山岸俊男はいくつかの著作のなかで、心理学の“臨界質量”という概念を使って人々の社会的行動を説明している。信号無視、自転車の違法駐輪、学校のいじめ……どのような現象であっても、実は集団の大半は“周りのみんな”の行動に合わせて行動をしている。例えば、誰かひとりが信号無視をしても、ほとんどの人はそのまま信号を守る。しかし、信号無視をする人が少しずつ増えていき、ある“一線”を超えると、「みんながやっているんだから自分も……」と一斉に信号無視をしてしまう。この集団の行動を分ける分水嶺となる比率が“臨界質量”だ。

 サニーさんの餓死を報道した記事に投稿された入管庁に同調する多くのコメントには、自己責任論と他者への不寛容、権威主義がひそんでいることが読み取れる。そこに自由や平等といった理念、そして人権を尊重し、弱者への共感はほとんど見られない。そうした傾向はこの件に限らず、社会全体にも蔓延しつつあるだろう。“臨界質量”を超える日も近いかもしれない。私たちが水に入れられたカエルだとすれば、その水の温度はもはや火傷する寸前くらいにまで高くなっているのではないか。

 実際のところ、常温から少しずつ茹でられたカエルは水が熱くなったらさっさと逃げ出すそうだ。そりゃそうだろう。カエルと比べるのはどちらにとって失礼なのか、という話だが、より問題なのはカエルと違って、こちらはさっさと逃げ出すことができないことだ。

 ちなみに臨界質量の“潮目”は、社会集団のトップやリーダー的な存在の態度に影響されて変わることがあるという。例えば、熱血教師が「いじめは絶対に許さない」と常日頃から公言し、いじめが起きたら断固たる処分を下す。そうして生徒から得ることができれば、「いじめは絶対にしない」という“良い子”を増やすことはできなくとも、周りに合わせて行動する大多数の生徒の気持ちにわずかながら“良い影響”を与え、結果的にいじめの臨界質量が下がっていくのだ。

 もちろん、その逆もまた起こりうる。アメリカでトランプ大統領当選後にヘイトクライムが増加している事実をみれば、さもありなんという感じである。さて、我が日本では……思い半ばに過ぎるといったところだろうか。

最終更新:2019/10/12 14:12
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