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中国のラップはマイルド?

全米でブレイクしたラッパーも…共産党の禁止令が出ても大人気! 中国ヒップホップの潜在能力

中国のラッパーを起用するマーベル・スタジオの思惑

本誌2019年3月号に登場したHigher Brothersのメンバーたち。(写真/西村満)

 他方で、『TROC』がスタートする以前から中国人ラッパーの動画を世界に発信しているYouTubeチャンネルがある。それが、台湾系カナダ人のスタンリー・ヤン氏が10年に設立した〈ZHONG.TV〉(下段コラム参照)だ。

「俺は台湾で生まれた後、カナダのバンクーバーで育ち、そこで映像系の学校に通っていたんだけど、卒業後の05年から上海でCMとか映画とか映像関係の仕事に携わっていたんだ。そういう経験を生かしながら中国のアンダーグラウンドなヒップホップ・シーンを盛り上げようと思って、インディペンデントなラッパーのMVとかを作り始めたのが〈ZHONG.TV〉の始まり。中国には才能豊かなラッパーが多くて、『TROC』で知名度を上げたJony J【3】やTizzy T【4】、〈88rising〉(アジア圏/アジア系のラッパーやシンガーを次々とバズらせているYouTubeチャンネル兼レーベル)所属のHigher Brothers【5】も、ブレイク前から〈ZHONG.TV〉がサポートしていたよ」(ヤン氏)

 ヤン氏によれば、中国のヒップホップは約4年前から世界的にもプレゼンスを上げており、それに伴い〈ZHONG.TV〉はコンテンツ配信のみならず欧米の企業との共同キャンペーンや、中国人ラッパーの北米ツアーの手配なども行っている。

「例えば、マーベル・スタジオから『製作する映画で中国のヒップホップの曲を使いたいので、誰かラッパーを紹介してほしい』と言われたり。当然、それは中国向けのプロモーションが目的でもある。アメリカのオーディオ・メーカー、Beats by Dr. Dreが主催するイベントに中国からDJやラッパーを呼びたいというオファーもあったね。ちなみに、〈ZHONG.TV〉の本部はバンクーバーにあるけど、上海にも支部があるんだ。上海支部は中国本土のラッパーとのコネクションを保ちつつ、海外からのオファーの窓口になっている。そのオファーをクリエイティブな形に練り上げていくのがバンクーバーのオフィス。俺は3年前にまたバンクーバーに引っ越したから、今は本部で仕事をしているよ」(同)

 こうした中国人ラッパーの国外需要は今後も増していくとヤン氏は見ている。

「特に『TROC』以降、〈ZHONG.TV〉以外にも中国のラップを発信するプラットフォームが中国国内でも増え始めている。中国はヒップホップ新興国だけど、世界中のキッズから関心が集まっているのも事実。会社としては今後、北米だけでなくヨーロッパやオーストラリアでのマーケティングも視野に入れているね」(同)

 さて、『TROC』とは別枠で、アメリカを中心に圧倒的な知名度を誇る中国人ラップ・グループがいる。それが、ヤン氏も言及したHigher Brothersである。彼らをたびたび取り上げてきた音楽/カルチャー系ニュースサイト「FNMNL(フェノメナル)」を運営する和田哲郎氏は、その魅力についてこう語る。

「もともと四川省の成都で地道に活動していましたが、〈88rising〉に見いだされ、17年3月にYouTubeにアップしたMV『Made In China』が世界的にバズりました。同曲で彼らは、自分たちが身に着けているものが中国製であることを誇らしげにラップ。中国製=低品質というレッテルを剥がしつつ、現在の中国の影響力を見せつけました」

 この非常にシニカルかつユーモラスなリリックを、重低音の利いたトラップ・ビートに乗せるのが彼らのスタイルだ。

「なおかつメンバー4人のキャラクターが立っていて、マンガのキャラのようなコミカルさがある。それはいわゆるステレオタイプな中国人像でもあり、そのイメージを逆手に取って世界に大きなインパクトを与えたといえます」(和田氏)

 では、中国のヒップホップ・シーンが盛り上がることで、例えばアメリカのラッパーが中国市場に目を向け、中国ツアーを組むような動きはあるのだろうか?

「いや、それはないです。アメリカのラッパーには就労ビザが下りないですからね。ちなみに、韓流禁止令(16年に韓国がTHAADミサイルシステムの配備を決定したことに対する、中国の報復措置のひとつ)が出されて以降、韓国のラッパーも中国でライブはできません」(同)

 ともあれ、このHigher Brothersを筆頭に、ヤン氏も言う通り中国のヒップホップのプレゼンスが上がっているように見えるが、和田氏は楽観視はしていない。

「中国はアジア屈指のヒップホップ大国であることは間違いないですが、K-POPほどの独自性や強度がある楽曲はそう多くありません。トラップにしてもアメリカのトレンドをコピーしているものが多く、Higher Brothersはそこにキャラクター性というプラスαがあったから面白かった。ただ、スケールの大きなアーティストは登場しており、18年に〈88rising〉とサインしたR&Bシンガー/ラッパーのLexie Liu【6】(レクシー・リウ)などはグローバルに活躍できそうなポテンシャルを秘めています」(同)

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