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中国のラップはマイルド?

全米でブレイクしたラッパーも…共産党の禁止令が出ても大人気! 中国ヒップホップの潜在能力

中国にヒップホップを根づかせたネット番組『The Rap of China』は現在、シーズン3が配信中。

――中国政府はヒップホップ禁止令を出した――。2018年、そんなニュースが日本でもややセンセーショナルに報じられた。しかしながら近年、同国では『The Rap of China』なる超人気番組が存在し、さらにはアメリカで成功を収めるラッパーも登場。そんな中国ヒップホップの実情を冷静に探っていきたい。

2017年『TROC』スタートで中国ヒップホップ元年に

 中国にヒップホップを根づかせたネット番組『The Rap of China』は現在、シーズン3が配信中。

 2018年1月、中国政府は「ヒップホップ文化は低俗」だとして、ラッパーや刺青のある芸能人をテレビやラジオに出演させないという方針を示した。これは、日本では「ヒップホップ禁止令」と報じられ、中国におけるヒップホップ・カルチャーの停滞を危惧する声も聞かれた。しかし、日本で中国のヒップホップ情報を発信しているのは一部の音楽/カルチャー系メディアに限られ、多くの人にとって中国のヒップホップ・シーンは謎に包まれている。

 まず、中国では17年が“ヒップホップ元年”といわれている。その背景にあるのが、同年6月に配信がスタートしたネット番組『The Rap of China』(以下、『TROC』)である。

「中国人の、特に若者の間でヒップホップが広まったきっかけは間違いなく『TROC』。一説によれば、中国にヒップホップ文化が芽吹いたのは90年代末だといわれますが、同番組が始まるまでラッパーはアンダーグラウンドな存在でした。しかし『TROC』以降、ヒップホップはロックやR&Bと同様にひとつの音楽ジャンルとして定着しています」

 そう語るのは上海在住で、日本企業の中国向けプロモーション事業などを行う会社「イマチュウ」を経営する村林勇紀氏。事実、『TROC』のシーズン1は30億人もの視聴者数を記録した。

「『TROC』は大手動画サイトのiQiyi(爱奇艺/アイチーイー)が立ち上げた企画で、予算も規模もほかのネット番組と比べて桁違いに大きい。また、プロデューサー(審査員)として、K-POPグループEXOの元メンバーである中国系カナダ人ミュージシャン/俳優クリス・ウーや、台湾系アメリカ人の人気歌手ウィルバー・パンを起用し、若者から注目を集めることに成功しました」(村林氏)

 ヒップホップ番組といえば、日本でも『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)がヒットしたが、同番組がフリースタイル・バトルにフォーカスしているのに対して、『TROC』はショーケースに重きが置かれている。

「『TROC』はラッパーたちがトーナメント形式で勝ち上がっていきますが、メインは先述したプロデューサーたちと共同で行う楽曲制作や、観客を前にしたライブ・パフォーマンス。その意味ではリアリティ番組に近い」(同)

 ちなみに、この番組構成は、12年に韓国で放送が開始されて国民的人気を得たラップ・サバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』に酷似。おそらく同番組をモデルにしたのだろうが、村林氏の言うように『TROC』に巨額の制作費が投じられていることは一目瞭然であり、番組としてのクオリティも高い。しかし皮肉にも、この番組によってヒップホップが市民権を得たことが、冒頭で述べた「禁止令」につながってしまった。

「17年6月から9月まで放送された『TROC』シーズン1ではPG One【1】とGAI【2】というラッパーが同時優勝したのですが、同年末にPG Oneと中国の人気女優との不倫が発覚。このスキャンダルにより、彼は中国全土のネット・ユーザーから大きな批判を浴びました」(同)

 その結果、PG Oneが15年にリリースした曲のリリックに薬物使用や女性蔑視と受け取れる表現があることが“発見”され、さらなる炎上を招いたのだ。

「中国のあらゆる放送業務は共産党の指導下にあり、PG Oneの炎上騒動でヒップホップは青少年に悪影響を与えると政府が判断し、禁止令へと至ったわけです。その矛先は主に『TROC』の出演ラッパーに向けられ、スキャンダルとは関係ないGAIなども番組出演がキャンセルされ、一時期はPG Oneと共に中国の芸能・音楽業界から締め出されました」(同)

 しかし、『TROC』自体は現在も継続している。ただ、同番組の中国語タイトルは当初は『中国有嘻哈』(「中国にヒップホップあり」という意)だったが、禁止令後の18年7月にスタートしたシーズン2では『中国新说唱』(「中国ニュー・ラップ」という意)に改名。“ヒップホップ”を“ラップ”に差し替えたのだ。

「番組の内容は変わりませんが、出演ラッパーの表現が若干マイルドになり、タトゥーを映すのはNG。とはいえ、番組が継続しているのは政府の方針と折り合いがついているということであり、規制はあるにせよ中国独自のヒップホップが育つ余地はあります。また、『TROC』によってラッパーの裾野が一気に広がったので、規制の及ばないアンダーグラウンドなシーンも活性化するでしょう」(同)

 ところで、『TROC』初代優勝者のGAIをはじめ若手ラッパーたちの楽曲は、アメリカを中心に世界的トレンドとなっているヒップホップのスタイル/ビート=トラップをベースにしていることが多い。中国ではグーグルやYouTube、インスタグラム、フェイスブックなどへのアクセスがブロックされているが、国内のラッパーやヒップホップ・リスナーはどのようにして海外の情報を得ているのか?

「10代~30代の中国人はみんな、VPN(バーチャルプライベートネットワーク)を使って自由にYouTubeやインスタなど閲覧しているのが実情です」(同)

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