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サイゾー恒例ハイロー放談(1)

EXILE×高橋ヒロシのキメラ映画が爆誕!『HiGH&LOW THE WORST』に見るヤンキーマンガの到達点(前編)

THE RAMPAGEが演じる高橋ヒロシマンガのキメラ

加藤 そう、僕がすごくびっくりしたのは「成功している」ってところです。『THE WORST』には、『ハイロー』にしかないものもあるし『クローズ』にしかないものもあって、それぞれがうまいこと混ざって補い合っている。たとえば、轟や小田島みたいなキャラクターは高橋先生のマンガには絶対出てこない。これはハイロー側の持ち味です。対して、物語中で描かれる絆であったり主人公の楓士雄のキャラだったりは高橋ヒロシ先生の要素。特に、最後のタイマンで楓士雄が佐智雄に負けちゃうところはすごく高橋ヒロシ感があるな、と思います。「主人公が負ける」って、ハイローからはあんまり出てこない発想だと思うんですよ。ハイローの世界で高橋ヒロシ先生的な主人公が高橋ヒロシ先生的に負けて、そこにハイロー的なキャラである轟が手を差し伸べて2人で立ち上がる。コラボとして象徴的で完璧なシーンだと思いました。

編集部 『ザム』のときに行なった最初のこの対談でも、「決着がつかない」問題は話しましたね。

藤谷 「LDH同士だと決着がつかないバトルが多い」という話ですね(キリンジは負けていますが……)。今回も相手は志尊淳君ですが、LDHの次世代を担うTHE RAMPAGEのボーカルが負けるところを描くっていう意味でも面白さがある。

加藤 あそこで負けて、楓士雄のキャラが立ったと思いました。

藤谷 あれがないと、単に「ひとたらしでケンカが強い人」に留まりますからね。楓士雄のキャラクターは、『クローズ』の主人公の坊屋春道、『WORST』の主人公・月島花がベースにあるんだろうなと思います。特に月島花の影響は大きそう。楓士雄は轟を「ドロッキー」って呼んだり、上田佐智雄を「サッチー」と呼んだりと、変なあだ名をつけたりするじゃないですか。そういうところも月島花を思い起こさせます。それと、みんながピリピリしている場所でも口をムニッとさせて「ん?」みたいな表情でほわーんとしているところは、月島花っぽい。川村壱馬くんが完全に月島花をインストールしている。

加藤 立ち姿やビジュアルは映画『クローズZERO』の滝谷源治で、中身が月島花なんですよね。

藤谷 高橋ヒロシ作品のキメラだからこそ、人間味がなさすぎるというのはあるかなと思いました。「誰からも好かれる」というキャラクターとして描かれるものの、好かれる理由はドラマでも映画でもそこまで書き込まれていない。単に「めちゃめちゃいいやつ」ということしか触れられていない。村山ちゃんが轟に「あいつはお前にないものを持ってるかもしれないぜ」って言っていたけど、その“持っているもの”の背景はそんなに見えてこないんですよ。

加藤 そこは僕も問題に感じました。鬼邪高校の面々が楓士雄を祭り上げてリーダーに据えて納得している理由は「昔からの知り合いだから」に集約されてしまう。つまり「顔が広いから」になっちゃうんですよ。「顔が広いからリーダーです、轟はそれに及びません」っていう扱いをされると、顔が広けりゃ最高の男なのか? って話になるじゃないですか。じゃあカラテカ入江が最高の男なのか? って話になっちゃうじゃないですか。でも、さっきも言った通り、最後の最後で負けることで、彼の魅力が出たと思います。あそこで負けたことで「この子はこうやって負けたことを素直に受け止められる子なんだ。だからこれから先、鬼邪高校の人と殴り合って本当の意味での頭になっていくのかな……続編に期待!」みたいになる。ただ、この1本だけだと、まだ鬼邪高校の頭と言っていいのかどうなのかとは思いますね。

藤谷 それって原作の『WORST』の問題でもあるんですよね。月島花の主人公補正はすごいですから。周囲の人たちが「あいつは鈴蘭を背負う男だ」って言うから、すごい人なんだな、って読者が思う。それは当時の高橋先生のモチベーションの問題でもあると思うんですけど……。『クローズ』である程度、男の子の青春を描ききったわけじゃないですか。そのあとに『QP』で「青春が終わった後はどうする?」というのを描いた。ちゃんと手に職をつけて大人になろうとする石田小鳥と、ずっと子どもでいたいからヤクザの世界に入っていく我妻涼、という対比があった。『WORST』も一応、鈴蘭にいてもロクな未来がないから鈴蘭という場所を変えなきゃいけない、変えてくれるのが花かもしれない……みたいなテーマがあったんですけど、そこをちゃんと描ききらないまま33巻までいってしまった。とにかくキャラクターが多くて、良くも悪くもそれを見て楽しむものになっちゃったんですよね。

加藤 どんどんいろんな組織が出てきて登場人物が増えて、「なんかすげぇな」って人は出てくるけど、じゃあ話が進んでるかというと実はそうでもない……という問題はありました。

藤谷 連載中に映画『クローズZERO』がヒットして、さらに人気が出たからシリーズは続けないといけなくて、そして異様にスピンオフが増える……という。

加藤 本当に異様に増えましたね。ちょっと話が逸れるんですが、今「週刊少年チャンピオン」で連載中の『WORST外伝 グリコ』は若干ハイローの影響を受けてるんじゃないかっていうくらい話がぶっとんでいて面白いです。福岡を舞台に花木九里虎の中学時代を描いてるんですけど、本当にすごくて、要塞みたいな学校が出てくるんですよ。

藤谷 完全にハイローだ。

加藤 口が裂けてるヤツなんかも出てきます。しかもヤンデレで、自分の憧れの先輩が九里虎に夢中だから「あの九里虎っていうヤツを消してやろう」って考える。それまで普通に博多弁でしゃべってたのが、そこだけ「九里虎くん、君を消さないとね」みたいになる。そういう過剰さは、ハイローと接近したことによる良い作用なのかなと思いました。

藤谷 『WORST』の中でも『クローズZERO』の芹沢多摩雄や滝谷源治の存在に言及したりしてますからね。コラボやスピンオフに対する高橋先生のそういう寛大さが『THE WORST』を生んだのかもしれません。

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