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萱野稔人と巡る超・人間学【第6回】

萱野稔人と巡る【超・人間学】「宇宙生物学と脳の機能から見る人間」(後編)

発達した脳と癌

萱野 吉田先生の著書で知ったのですが、生物の中で人間だけが「癌にかかりやすい」という特徴を持っているんですね。これは「人間とは何か」を考える上で、とても興味深いポイントだと感じました。

吉田 確かに癌にかかりやすいというのは、人間ならではの特徴のひとつです。地球上に酸素が増えたことで生物は、酸素のエネルギーを使って細胞を爆発的なスピードで増殖させる能力を手にしました。しかし、人間の体内に入った酸素の一部は活性酸素と呼ばれる不安定で反応性の高い物質となり、細胞膜や遺伝子を傷つけて、細胞が無限に増殖する癌を抑制する機能を壊してしまうのです。人間は大きく発達した脳が大量に酸素を消費するため、それだけ体内の活性酸素の量も増えてしまって癌の発症を助長しているわけです。

萱野 一般には、人間の長寿化が、癌の高い発症率の原因とされています。ただ、遺伝子がかなりの部分で人間と共通するチンパンジーの場合、人間が健康管理を行って高齢になるまで生きたとしても、癌の発症率は人間と比べて低いそうですね。

吉田 はい。チンパンジーが癌で死亡する確率はわずか2パーセントで、人間の場合、例えば日本人だと癌で死亡する割合は約30パーセントにのぼっています。この差は活性酸素の量だけでは説明できません。考えられる原因は、また脳に関わるものなのですが、“脂肪”なのです。人間の脳は膨大な情報を効率よく処理するために神経を脂肪(脂質)で覆うことで絶縁体にしており、実際、人間の脳は約6割が脂肪でできているんです。この脳の絶縁体としての脂肪を作るために、人間は進化の過程で脂肪酸を合成する高性能な酵素を獲得しました。癌細胞はその仕組みを利用することで、通常の細胞なら増殖できない低酸素状態でも、脂肪さえあれば増殖することができます。つまり、人間は脳を発達させるために獲得した酵素の働きによって、癌細胞を増殖させる能力も高めてしまったのです。

萱野 人間は、高性能な脳を手に入れることと引き換えに、癌にかかりやすくなってしまったと。

吉田 人間中心主義的に考えると、脳が大きくなって高度に発達したことは全面的に長所だと思ってしまいますが、生命全体で考えると脳が大きいことは、それだけ大量のエネルギーを消費して餓死のリスクが高まるため、大きな短所ともいえるんです。むしろ、生命進化の王道としては小さくできるものなら極力小さくしたほうがいい。ただ、約700万年前にチンパンジーとの共通祖先から分岐して以降、人類にとって癌のリスクよりも知恵を使って食べ物を得るメリットのほうが圧倒的に大きかった。人間であっても高齢になるまで癌になる可能性は低く、寿命の短かったかつての人類には大きな問題にはならなかったのです。高度な脳の機能で長寿を手にした現代人が癌に苦しめられるというのは、なんとも皮肉なことだと思います。

萱野 人間が長生きできるようになったことは人類社会の“進化”ではありますが、それによって人間は高性能な脳のリスクも大きくしてしまったんですね。

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