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萱野稔人と巡る超・人間学【第6回】

萱野稔人と巡る【超・人間学】「宇宙生物学と脳の機能から見る人間」(後編)

文=構成/橋富政彦

脳の境界が消えていく社会

萱野 悩んでいる人に対して「考え方を変えよう」とアドバイスする人がいます。「もっとポジティブに考えようよ」といったように、ですね。でも自分の考え方はそう簡単に変えられません。自分の考えを変えるためには、まずは行動を変えなくてはならない。行動を変えれば感情や意識も変わってきます。もちろんその行動には、よく笑うといった些細なことから、日常の習慣や他者とのコミュニケーションも含まれます。そういった点からも、脳が機能的に身体や環境とつながってフィードバックを重ねているということがよくわかりますね。ただその場合、脳の境界はどこにあると考えればいいでしょうか?

吉田 解剖学的には中枢神経が脳で、末梢神経は脳ではないと区別されます。これは単純に物理的な位置による定義ですが、機能としての脳の境界は、厳密に言えばどこにも存在しないと私は考えています。表情筋のような身体の動きも情動を生み出している以上、機能的には脳と一体化しているとしていいのではないでしょうか。そして、自分の周囲にいる他者も互いの脳に影響を与え合う意味では、ネットワークでつながった脳の一部になっています。突き詰めて考えれば、現代はインターネットで世界全体がつながったひとつの脳ともいえるでしょう。

萱野 その点で言うと、望遠鏡でもテレビでも、パソコンでもインターネットでも、テクノロジーとは脳がみずからの機能を拡張するために生み出したものだと考えることもできそうですね。それを通じてさらに脳はフィードバックの範囲を広げている、と。

吉田 そうです。相互作用によるフィードバックこそが脳の本質です。脳そのものも統一されたひとつの器官ではなく、大きく分けると自我を作っている前頭前野や原始的な感情を司る大脳辺縁系、さらにその中には扁桃体、海馬など、いくつもの部位が相互作用することで情報処理をして、全体としての意識を創り上げています。そういう意味で考えると、今の私と萱野先生は明らかに強い情報の伝達をし合っているわけで、今この瞬間は萱野先生の脳は私の脳の一部であり、私の脳は萱野先生の脳の一部になっているといえるんです。これは人間の脳にとりわけ顕著な特徴なんですね。

萱野 他者も含めた環境とのコミュニケーションが、人間の脳の本質だということですね。

吉田 他者とのコミュニケーションがインターネットとSNSの普及によって急激に広がり、質量とも大きく変化してきたことに私は一抹の不安を感じています。実際、SNSによって人間のエゴや妬みが増幅していることを検証している論文も数多く出ていますが、それも必然ではないかと。現代社会のネットを介したコミュニケーションは、人間の本来の姿から逸脱していくように感じるし、その延長線で進んでいって人間は大丈夫なのか危惧しています。

萱野 確かに現代は、他者とのコミュニケーションにこれまでにない負荷がかかっている時代だといえるかもしれません。上の世代と比べても、今の若い世代は他者とのコミュニケーションに多大な配慮を注いでいます。今後、そのストレスに人間の脳はどこまで耐えられるのか。大学で学生と接していても、メンタルで悩んでいる人はとても多い。

吉田 “メンタル面での不調”まで広げたら、現代人の9割はなんらかの形で精神的な悩みを抱えているのではないでしょうか。それは文明のあり方として正しいのか疑問を感じますし、近い未来に人類を揺るがすような大きな問題が起こるのではないかと強い危機感を持っています。

萱野 それだけ脳は他者とのコミュニケーションから大きな影響を受けるということですね。

吉田 人間のコミュニケーションは、本来、言語だけによるものではありません。表情や声のトーン、身振り手振りや匂いまで、さまざまな要素が複雑に絡んでいるものです。そのすべてが大なり小なり脳の相互作用を生み出してバランスをとっています。今の社会に不安を感じる最大の要因は、ネットによる限られた情報伝達が支配的になっているために、脳が本来持っている多様な機能がとても偏った状態に歪められていることです。私はそこに、底知れない危うさを感じます。

(月刊サイゾー11月号より)

吉田たかよし
1964年生まれ。医学博士。受験生専門の心療内科「本郷赤門前クリニック」院長。受験医学研究所代表。東京大学大学院工学系研究科卒業後、NHKに入局。その後、東京大学大学院医学研究科・医学博士課程修了。加藤紘一元自民党幹事長の公設第一秘書、東京理科大学客員教授も歴任。主な著書に『受験うつ』(光文社新書)、『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 』(講談社現代新書) など。

萱野稔人
1970年生まれ。哲学者。津田塾大学教授。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。主な著書に『国家とは何か』(以文社)、『死刑 その哲学的考察』(ちくま新書)、『社会のしくみが手に取るようにわかる哲学入門』(小社刊行)など。

(写真/永峰拓也)

最終更新:2019/11/19 12:12
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