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“鯨食文化”を守るため国際機関を脱退…商業捕鯨の再開に踏み出した日本政府の意義

国際世論を背景に、調査捕鯨に舵を切らざるを得なかった日本

 そして、1982年のIWC総会で1986年以降の商業目的の捕鯨頭数をゼロとする「商業捕鯨モラトリアム」が可決される。これを受け、日本は1988年に商業捕鯨を中止し、調査捕鯨へと転換した。

 国際世論を背景に、調査捕鯨に舵を切らざるを得なかった日本だが、調査捕鯨に対しても反捕鯨団体の「グリーンピース」や「シー・シェパード(SS)」など様々な抵抗に遭う。特に、SSによる妨害行為は熾烈なものだった。

 ニュース映像で見たこともある人もいるだろうが、SSは調査捕鯨船への体当たりを行うなど危険な妨害活動を展開し、調査捕鯨が中止に追い込まれる事態も発生した。日本は、2011年11月にSSに対する訴訟を提起、2017年8月にSSは妨害を行わないとの声明を出した。

 調査捕鯨の結果、水産白書などによるとクロミンククジラ、ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラなどでの資源状況が健全と確認され、日本は商業捕鯨の再開に向けで動き始める。しかし、その後も反捕鯨国との歩み寄りは見られず、2018年12月26日、政府はICRWからの脱退と日本の領海および排他的経済水域での商業捕鯨の再開を決定する官房長談話を発表した。

 さて、こうして商業捕鯨の再開に踏み出した日本だが、“茨の道”が待っている。商業捕鯨の中核を担う共同船舶は、大手水産会社の捕鯨部門を統合した日本共同捕鯨を母体に設立されている。つまり、日本の大手水産会社は捕鯨から撤退しており、鯨食の復活に向け、大手の水産会社が再び参入する可能性は低い。

 また、政府は商業捕鯨を支援するため予算措置を行っているが、この支援がいつまで行われるかは不透明だ。共同船舶では、捕鯨母船日新丸は老朽化が進んでおり、新母船の建造が進んでいるが、政府の補助金に頼らずに商業としての捕鯨を成り立たせることは果たしてできるのであろうか。

 だが、最大の課題は日本人が再び鯨肉を好んで食べるようになるか、だろう。筆者が小学生の時、学校給食には「クジラの竜田揚げ」や「クジラベーコン」など鯨肉が頻繁に出された。農林水産省の「食料需給表」によると鯨肉の国民1人あたりの1日の供給数量は、ピークの1962年度は6.7gだったが、2018年度には0.1gまで減少している。大手水産会社が捕鯨に前向きではないのと同様に、大手スーパーは鯨肉の販売に対して“後ろ向き”だと言われている。今や鯨肉を食べている日本人はほとんどいない。

 米国の属国と揶揄される日本が、鯨食文化という自らの文化を守るため、国際機関を脱退してまで自らの意思を貫いた意義は大きい。2020年はみんなでクジラを食べよう!

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2019/12/17 12:12
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