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『灘校物語』出版記念特別コラム

金もうけのためにマスコミに身内を殺され、自己責任扱いされる日本人

マスコミに殺された人たちは、自己責任の扱いに

 さて、東池袋の自動車暴走死傷事故で加害者が書類送検されたということでマスコミが騒いでいる。

 確かに若い母親と幼い子供が死に、10人が負傷した痛ましい事故だ。

 加害者はマスコミでぼろくそに叩かれ、被害者は厳罰を求める署名活動を始め、マスコミは全面的に味方している。

 結果を見たら仕方のないことだ。

 ただ、いっぽうで、確実に言えることは、この加害者のほかに交通事故の加害者は年間3,000人以上いるし、被害者は3,500人以上いるということだ。

 スマホをいじりながらとか、あおり運転まがいの危ない運転をして、人を撥ね殺したのに、飲酒をしていなかったり、高齢でなければ、マスコミは取り上げない。

 被害者だって、残りの3,500人の中には、「なぜ、うちの子も死んだのにマスコミは取り上げてくれないのだ」と、その映像をみて不快に思っている人もいるだろう。

「高齢者や飲酒運転の車に撥ね殺されたほうが、マスコミを通じて世間が同情してくれるだけはるかにまし」と思う被害者だっていないとは限らない。

 毎日、10件も交通事故の死亡者が出ているのに、マスコミがいろいろなことを煽りやすいものだけを重点的に取り上げる。

 それによって飲酒運転バッシングが起こったわけだが、そのきっかけになった東名の姉妹を撥ね殺した飲酒死亡事故の場合、ウィスキー1瓶とチューハイ1缶を飲んでいた。

 3人の子どもが犠牲になった福岡の飲酒死亡事故でも、運転者を含む3人で生ビールのジョッキを4杯、焼酎のボトル1本を空けたあと、スナックでブランデーの水割りを飲んだ後の事故であることがあきらかになっている。

 両者とも、あきらかに泥酔運転であり、酒気帯びレベルの運転ではない。

 しかし、警察は、日本人の程度を考えず、二分割思考(酒を一滴でも飲んだか、飲まないか)の特性を考えて、ビール一杯飲んだくらいで免許を取り上げる厳罰化を始めた。

 それによって、地方の飲食店はバタバタとつぶれ、跡地には警察の天下り先のパチンコ屋ができているという話を何人もの地方出身者から聞いた。

 アメリカでもフランスでも、食事のときに飲む酒では事実上つかまえない(ニューヨークは厳しいらしいが)。

 しかし、マスコミはスマホのながら運転の事故はまず報道しない。

 自分たちはタクシーチケットがあるから飲酒運転の心配はないが、スマホ運転が厳罰化されたら、わが身にふりかかるからと思えてならない。(※編注:このメルマガが出た時点では、スマホ運転の厳罰化は施行されていなかった)

 さて、交通事故の犠牲者でもマスコミにまったく取り上げられない気の毒な人がいるが、それでも近所の人は同情してくれるだろう。

 しかし、それ以上に、マスコミの人に殺された人たちは、自己責任の扱いを受ける。

 たとえば、「セブンティーン」(集英社)という雑誌は、まだ判断力が未成熟な10代半ばの少女を読者対象にしているのに、BMIが15を切るようなモデルをトップモデルに起用したりしている。

 それに憧れて、拒食症になった人はおそらく数多くいるだろう。

 毎年、約100人が拒食症で死んでいる。

 そういう雑誌が痩せすぎモデルと追放すれば、せめてティーンが読む雑誌だけでも追放すれば、半分くらいに減るはずだ。

 実際、世界的に見ても、拒食症が出現したのはツィギー以降であり、それゆえ、とくにヨーロッパでは痩せすぎモデルは追放され、それを使った雑誌やテレビは罰金を支払わないといけない。

 しかし、自分の子が、判断力のない中学生でも、痩せすぎモデルに憧れて、拒食症になって死んでも、自己責任の扱いを受ける。

 死ななかったとしても、思春期に過度のダイエットを行うと、子宮や脳の発育に大きな悪影響を及ぼすとされている。一生赤ちゃんを産めない体にされる女性が年間1万人は出ているだろう。軽度の知的障害になって、ろくな働き口がなくても自己責任の扱いだ。

 欧米だと、雑誌やテレビが断罪されるのに。

 毎年、100人もの命をうばっておいて、この老人を叩く資格があるのだろうか?

 WHOが再三にわたって、アルコール依存者を増やし、アルコール関連死を増やすからと、飲酒シーンを含む広告をやらないように勧奨しているのに、日本のテレビは自分たちの年収1,500万円を守るために、アルコールの飲酒シーンの広告はやめない。

 日本のアルコール関連死は5万人というのに。

 パチンコにしても200万人が依存症になり、それがらみの自殺は年に1,000人は出ているとされる。高齢者が起こす死亡事故より多いし、飲酒死亡事故の4倍もの数だ。

 それでも金もうけのための広告はテレビ局はやめない。

 自分たちこそ正義なのだ。

 チャップリンは『殺人狂時代』の中で、「一人殺せば悪党で、百万人だと英雄だ」と叫んだ。日本という国も、一人か二人殺せば悪党だが、万単位で殺せば正義の国のようだ。

 人殺しを断罪する前に、自分が何をやっているのか、胸に手を当てて考えられる人はいないのだろうか?

 テレビに出たい人間(私にはクソにしか思えない)が、この手の本質的なテレビの批判をしない時代が続く限り、誰にも同情されない自己責任の扱いを受ける被害者は、毎年、万単位で出続けることだろう。

 一定の確率で避けられない(飲酒運転をどんなに厳罰化しても、老人全員から免許を取り上げても毎年3000人は死ぬ)交通事故で亡くなる人より、そういう人が可哀相になってしまうのは、私が異常者だからだろうか?

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。国際医療福祉大学心理学科教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。「I&Cキッズスクール」理事長。一橋大学経済学部非常勤講師。製作・監督した『受験のシンデレラ』はモナコ国際映画祭で最優秀作品賞(グランプリ)を受賞し、『「わたし」の人生 我が命のタンゴ』もモナコで4部門受賞、『私は絶対許さない』でインドとニースの映画祭で受賞するなど、映画監督としても活躍している。

●『灘校物語』(和田秀樹・著/サイゾー・刊/定価1600円+税)
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最終更新:2019/12/20 16:06
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