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「モラハラのトリセツ」第2回

モラハラ加害者も、実は被害者だった……「世代間連鎖」はなぜ起こる?

Iさんの実父も、モラハラ男だった

 大声で威圧することで自分の価値観を相手に押し付けるという状況は、前回お話しした「モラハラの定義」に当てはまります。

 Iさんは「自分の意見は正しいと思うのに、それに文句をつけられることが許せなかった。しかし、それが妻を傷つけていたのなら申し訳なく思うし、そんな自分をなんとかしたい」と神妙な面持ちで語ります。

 ここまでの話を聞いて僕が気になったのは「お金に関する価値観」はともかく、「否定されたときに激高してしまう」性質は一体どこから来たのかということでした。そこでまず、まずIさん自身が育った家庭について尋ねてみることにしました。

 Iさんの原家族(生まれ育った家族)では、父親による暴力があったそうです。実際に手を上げるまでのものはあまりなかったそうですが、言葉や態度による威圧等のモラハラは日常的でした。

 Iさんの父親はとても弁が立つ人物で、家族に対するむちゃな要求も言葉で言いくるめてしまうことがほとんど。Iさんや母親が父親に反対意見を言おうものなら「俺をバカにしてるのか!!」と激高して、物に当たり散らしていたそうです。ここまで話して、Iさんはハッとした表情で「自分も同じことをしてしまっていた……」と気づきます。

 DVやモラハラにおいて、親のしていたことをそのまま自分もしてしまうというのはよくある話で、これを「世代間連鎖」といいます。原家族においてのさまざまな体験やその影響が、親子間で連鎖していくという仕組みです。世代間連鎖には、悪い連鎖だけでなくいい連鎖もあるのですが、このケースは父親の「否定されたときに激高してしまう」という行動が悪い連鎖を起こしてしまったと思われます。

 Iさんは父の言動を嫌い、「自分は将来あんなことは絶対にしない」と子ども心に誓っていたそうです。にもかかわらず、世代間連鎖の影響は強力で、Iさんは日常的に父の激高する姿を繰り返し見ていたためか、その影響はIさんの無意識に食い込んでいったのでしょう。

「人は自分に否定的な意見を言われたら怒るものだ」という単純な行動のコピーが起きたという話ではなく、実際はもうちょっと複雑な仕組みとなっています。正確には「自分に否定的なことを言われたときに、それに耐えうる自己肯定感が育たなかった」ということだと思われます。

 暴力的な父親の元で育つことで常に子どもである自分は否定されてしまう、そして自分の意見というものに自信を持てなくなってしまった。自分に自信がないので他人からの否定的な意見に耐えきれず、自分の心を守るために攻撃的な行動に出てしまう――ということが起きていたと考えられます。自分の心を守るための攻撃というのも変な話だと思われるかもしれませんが、攻撃こそ最大の防御なのです。

 表面的な行動ではなく、このような深い心の動きが連鎖してしまった可能性が高いでしょう。父親の父親も、もしかしたら同じような人だったのかもしれません。次回は、このような状況から、Iさんがモラハラを手放し、妻との信頼を再構築していく過程についてお話ししたいと思います。

中村カズノリ(なかむら・かずのり)

1980年生まれ。WEB系開発エンジニアの傍ら、メンズカウンセリングを学び、モラハラ加害者としての経験をもとに、支援を行っている。

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Twitter:@nkmr_kznr

なかむらかずのり

最終更新:2020/01/17 09:30
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