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「モラハラのトリセツ」第3回

モラハラ加害者も、実は被害者だった……「世代間連鎖」を手放すには?

モラハラはすぐには治らない

 初めての参加で最初は緊張していたIさんも、安心できる場であることに気づき、表情もほぐれていきます。当事者同士の会話で自分以外にも世代間連鎖の影響を受けていた人が多くいることを知り、同じ目線で参加者とコミュニケーションを取り始めました。

 カウンセリングでの対話やグループワークでの交流、学びで、Iさんは、連鎖は家族の世代間連鎖だけではなかったことに気づきます。Iさん自身を取り巻くさまざまな環境……生まれ育った家庭の次に長く過ごしてきた学校や、社会人になってからは会社での体験も、Iさんに負の連鎖を与えていたのです。

 カウンセリングやグループワークでは、外の家族の価値観と積極的に触れ合うことにより、これまで持っていなかった価値観を無意識に吸収し、また、多様な価値観を尊重し合うコミュニケーション能力を獲得することもできるのです。

 Iさんの事例は比較的スムーズな回復例ですが、ケースによってはカウンセリングを受けたから、グループワークに参加したからといって、あっという間にモラハラがきれいさっぱりなくなるわけではありません。世代間連鎖によって無意識に刻まれた行動様式は、長い時間をかけて変わっていくものです。そして、この回復までの時間は人によって違います。早ければ数カ月で問題が起きなくなる人もいれば、数年かけて徐々に変わっていく人もいます。

 また、問題が大きくこじれる前に相談があったことも大きかったでしょう。大きな問題(奥さんが家を出て行った)が発生する前に相談につながれば、さらに回復はスムーズだったかもしれません。

 その後、Iさんの奥さんもグループワークに興味を持ち、今では子どもも一緒にグループワークに参加し 、参加者女性との会話で共感的なコミュニケーションを楽しみ、男性との会話で、モラハラをしてしまった側が持つ傷について知っていく……という好循環が生まれています。

 しかし、モラハラを受けた傷もすぐに癒えるわけではなく、低下してしまった自己肯定感の回復にも時間がかかります。Iさん夫妻は現在、別居を継続しながらも週末は家族で顔を合わせ、少しずつ対等で尊重し合えるコミュニケーションを楽しめるようになったと聞いています。お互いがお互いの状況を尊重した結果の、ちょうどいい距離感が今の状況なのだろうと感じます。

 回復への希望を捨てないこと、当事者が安心できる場での対話による気づきが肝要です。あっという間にモラハラが直る魔法はありませんが、一歩ずつでも着実に回復していく方法はあるのです。このような支援によって「心地よい連鎖」がつながっていけば……と願わずにはいられません。

 

中村カズノリ(なかむら・かずのり)

1980年生まれ。WEB系開発エンジニアの傍ら、メンズカウンセリングを学び、モラハラ加害者としての経験をもとに、支援を行っている。

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Twitter:@nkmr_kznr

なかむらかずのり

最終更新:2020/01/17 14:00
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