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『ねほりんぱほりん』レビュー

『ねほりんぱほりん』東日本大震災から9年……「家族が行方不明の人」のリアルな言葉

『ねほりんぱほりん』(Eテレ)

 3月11日放送『ねほりんぱほりん』(Eテレ)のテーマは「震災で家族が行方不明の人」。放送日は、東日本大震災が起きてちょうど9年後に当たる日だった。

 東日本大震災で行方不明になった人の数は、2529人(2020年3月10日現在 警察庁)。これは放送日前日の行方不明者数である。放送ギリギリまで、スタッフは編集作業を続けていたということだ。

「じゃあ、父親はダメだ」と感情のメーターがゼロになった娘

 1人目のゲストは、父親が行方不明のアキコさん(20代)。当時彼女は中学生で、学校からの帰宅途中に被災した。慌てて学校の体育館へ避難して2晩過ごした後、母親がアキコさんを迎えに来た。母はストッキングがビリビリに破れ、全身泥まみれだったという。この時点で「ただ事じゃない」と察したアキコさんは、母から父の職場が跡形もなくなったと聞かされた。

「平然と、“じゃあ、もう、父親はダメだ”みたいな。事実だけ認識しました」

「“悲しい”とか“不安”とかがストップして、感情のメーターがゼロになったような感じです」(アキコさん)

 経験者にしか言えない言葉である。極限までいくと人間は感情にブレーキがかかり、そして無になる。どうにもできない絶望が目の前に現れ、自分の心を守ろうとしたのではないか。

 アキコさんの父親は、子どもに人気のゲームを率先して買いに行くような、愉快な人だった。子どもみたいに怒るし、すぐすねたりもする。そんな欠点も込みで、アキコさんにとっては父親だった。

「震災後に周りの人が父親の話をするとき、すごくいい面ばかり誇張するというか、聖人君子みたいな話をされて。“家族思いで、職務熱心で、津波にはほかの人を助けようとして巻き込まれたに違いない”みたいな。あれ? って思うことが多くて。どんどん美化されていくのがちょっと私は嫌だった(苦笑)。本人がいないのをいいことに、パソコンのデータみたいにいろんな人に勝手に父親が上書き保存されていく感じで……」(アキコさん) 

 アキコさんの言葉にグサッときた。「死んだ人のことを悪く言わない」という倫理観を人は持っている。子どもの前だと多少盛ってでも「立派な人だった」と言ってあげたくなる。でも、美化されることで本人の人間性は消されていき、いつの間にか娘の知らない人に変わってしまう。アキコさんには、そう感じられた。遺族の受け取り方を、我々はそこまで深く考えていなかった。

「父親の原形がなくなるのが、すごく嫌で。なんの脚色も入れないために、できるだけ父親のことは考えないようにしました」(アキコさん)

 貴重な意見だ。被災者のリアルな言葉。

 アキコさんの母親はアキコさんと違い、常に父を思っていたい人だった。家じゅうに父親の写真を飾るし、受け止め方はアキコさんと正反対。時には父の写真に語りかけたりもする。アキコさんは、母の姿をいつも静観していた。しかしある日、母から「あなたは悲しくないの?」と聞かれ、アキコさんは「あんまり悲しくない」と返答してしまった。アキコさんは母から「出て行って、1人にして」と言われた。

「言われた瞬間、“やってしまった!”っていう。今まですごくうまく回ってたのを、自分が思い切り踏み外したみたいな……。頭が真っ白になった感じです」(アキコさん)

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