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ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

令和の桜井幸子? 秋田汐梨『惡の華』『ホームルーム』で見せた存在感

翳のある少女を演じさせたらNo.1

『ホームルーム』の秋田に感じたのは、当時の桜井が持っていた、今にも消えてしまいそうなはかなさと芯の部分にある力強さだ。それは『ホームルーム』の前に出演した映画『惡の華』を観ると、よりはっきりとわかる。

 押見修造の暗黒青春漫画を井口昇が映画化した本作は、主人公の春日高男(伊藤健太郎)を翻弄する悪魔のような女子生徒・仲村佐和を演じた玉城ティナの怪演が話題となったが、個人的には佐伯菜々子を演じた秋田の存在感にすごみを感じた。

 田舎の中学校で、思春期の鬱屈を暴走させていく春日と仲村に対して、真面目な優等生の佐伯が担うのは、変わらない日常そのものだ。春日にとって憧れの美少女だった佐伯が、春日と仲村の変態的なアプローチに翻弄されるうちに歪んだ母性のようなものを発露し、性の力で春日を呑み込もうとする姿は、狂気をまき散らす仲村以上に不気味で生々しく、グロテスクな聖母とでもいうような存在感だった。

 撮影当時、秋田は15歳で、よくもまぁ、こんなヒドい目に遭うエグい役を演じ切ったものだと感心した。

『ホームルーム』もそうだが、こういう変態男子の妄想を刺激する真面目で翳のある少女を演じさせると、秋田は若手女優の中でダントツだと思う。だが、それを素直に喜んでいいのか? かつての桜井もそうだが、暗い役を頻繁に演じているとイメージが固定してしまうので、少し心配である。

 ファッション雑誌の専属モデルとして活躍していることから、SNS等で観る秋田は、洗練されたビジュアルの明るい女性だ。どうやら役によって大きく化けるタイプらしいので、次は『3年A組』の時のような、明るい女の子も演じてほしい。

成馬零一(ライター/ドラマ評論家)

1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。ライター、ドラマ評論家。主な著作に『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)などがある。

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Twitter:@nariyamada

なりまれいいち

最終更新:2020/04/22 13:50
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