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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.581

小さなエゴと大きな欺瞞が融合し、惨劇は起きた原発事故の真相を究明した『チェルノブイリ』

『Fukushima50』とは異なる演出スタイル

原発火災の消火にあたったワシリー消防士(アダム・ナガイティス)たちは、口の中に金属のような味を感じたという。

 ソ連閣僚会議の副議長ボリス・シチェルビナ(ステラン・スカルスガルド)はお目付役として、レガソフ博士と事故の実態を調査するよう、ゴルバチョフ書記長から命令が下される。だが、レガソフ博士いわく「1時間ごとに広島に投下された原爆の2倍の放射能を出している」事故現場に向かうことで、彼らもまた無事では済まなくなる。

 ノンフィクション『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)を原作にした映画『Fukushima50』は3月に公開され、その後ネットでも配信された。『Fukushima50』も『チェルノブイリ』も実際に起きた原発事故を題材にしたディザスタームービーだが、演出スタイルはまるで違う。『Fukushima50』は事故が起きた原発内にとどまる渡辺謙、佐藤浩一らの怒声、罵声を飛び交わせることで事故現場の緊迫感を伝えようとした。一方、『チェルノブイリ』は声を荒らげるキャストはほとんどいない。レガソフ博士の指示に従った3人の作業員たちは、4号炉近くの貯水槽のバルブを手動で締めに向かう。4号炉の扉を開けた彼らは黙ったままだが、放射能の高さを示すガイガーカウンターだけが猛烈なノイズ音を発する。静寂さが恐怖を倍増させる。

 レガソフ博士は科学者としての知識を、ボリス副議長は政治家としての交渉力を生かして奮闘するも、事故現場の作業はままならない。メルトダウン化した放射性物質が地下水脈を汚染すれば、欧州全体を危険に陥れてしまう。400人の炭鉱夫が動員され、地下トンネルを掘って放射性物質を食い止めようとする。掘削作業中のトンネルは50度以上の高温になるため、送風機を用意してほしいと炭鉱夫たちは要請するが、「放射性物質を吸い込む危険性がある」という理由で却下される。その結果、炭鉱夫たちはマスクも上着も脱ぎ、半裸姿でトンネルを掘り続ける。メルトダウンと競うかのように、その作業は1カ月間にわたって続いた。

 現場のトラブルは尽きない。高濃度の放射能を放つ黒鉛を除去するため、西ドイツから最新型ロボット「ジョーカー」が投入される。だが、切り札である「ジョーカー」は現場に入った途端に動かなくなる。ソ連は西ドイツに事故現場から漏れている放射線量を過小して伝えていたため、想定外の放射線量によって「ジョーカー」の配線はショートしてしまったのだ。体面を重んじるソ連上層部の対応のまずさが、次々と被害を広げ、犠牲者を増やしてしまう。

 当初はゴルバチョフ書記長の機嫌をとることしか頭になかったボリス副議長だが、長時間にわたって事故現場で過ごしたため、自分の余命もあまり長くないことを自覚する。死を覚悟した彼には、もう怖いものはなかった。政治家としての最期を、祖国のためではなく、地球の未来のために費やそうと尽力する。ボリス副議長とは水と油の関係だったレガソフ博士も同じだった。1人では不可能なことをやってみせる爽快感が、バディムービーにはある。だが、実在した2人を主人公にした『チェルノブイリ』は、あまりにもせつなすぎるバディムービーではないだろうか。

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