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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.583

「仮設の映画館」で上映が始まった『精神0』山本医師の言葉「ゼロに身を置く」が心に刺さる

文=長野辰次(ながの・たつじ)

「人薬(ひとぐすり)」「病気ではなく、人を看る」をモットーとする山本昌知医師。現代の赤ひげ先生だ。

 週に一度、ゼロに身を置く日をつくってはどうか。精神科医・山本昌知医師の言葉がひときわ印象に残る。想田和弘監督の新作ドキュメンタリー映画『精神0』の冒頭シーンでの台詞だ。岡山市にある古民家風の精神科診療施設に勤める山本医師は、長年にわたって通院するクライアント一人ひとりを温かい言葉でいたわる。競争を強いる現代社会では、生きていくだけで大変なこと。週に一度くらい、何もせずに、ただ生きていることに感謝する日があってもいいと山本医師は説く。5月2日より劇場公開が予定されていた『精神0』だが、現在は「仮設の映画館」としてネット配信を期間限定で行っている。

 ナレーションもテロップもいっさい付けない「観察映画」で知られる想田監督。彼が2008年に撮った『精神』は衝撃的なドキュメンタリーだった。山本医師のいる診療施設に通うクライアントの姿を、想田監督はモザイク処理などすることなく映し出した。もちろん本人の了解を得た上での撮影だが、うつを患い、何度も自殺を考えたとカメラに向かって打ち明けるクライアントたちの声と表情がリアルに伝わってきた。DVDの特典映像では、撮影に応じた女性クライアントは自分のしゃべっている様子がそのまま映画に使われていることに驚いたものの、心の病のつらさに共感を寄せる声に救われたと語っている。

 前作『精神』ではクライアントたちが主人公だったが、『精神0』では山本医師にフォーカスを絞っている。想田監督自身、最初は「眠そうにしている先生」くらいの認識だったが、編集作業を進めていくうちにクライアントたちから慕われているベテラン医師のすごさに気づいたそうだ。かつて山本医師は閉鎖病棟の扉を開放する運動を行う先駆者だったことも知る。82歳になる山本医師が引退することになり、想田監督は再び岡山でカメラを回すことを決めた。

 今回も「観察映画」らしく、ナレーションによる説明やモザイク処理はなく、10年の歳月が流れた診療施設のありのままの様子が映し出される。山本医師のもとに通うクライアントは真面目そうな人たちが多い。一見しただけでは、心の病を抱えているかどうかは分からない。そんな彼らの悩みに、山本医師はじっくりと耳を傾け、「誰よりもあんたががんばっていることは私がよく知っている」とねぎらう。決して、否定的な言葉は使わない。彼らを褒めるだけでなく、「私が励まされている」と頭を下げる。「病気ではなく、人を看る」をモットーとする山本医師が、クライアントやその家族たちから愛されていることが実感できる。

 その山本医師が突然引退することになり、クライアントたちは動揺する。頼りにしていた主治医がいなくなれば、それは当然だろう。心配顔のクライアントひとりずつに今後の対応について丁寧に説明し、いつでも携帯電話に連絡してくれればよいと話す。そして山本医師が診察室に最後に迎え入れるのが、『精神0』のもうひとりの主人公だった。

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