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ポストコロナの“9月入学”が引き起こすパラダイムシフト、「熊本市モデル」が示す日本社会再生への道

「熊本市モデル」が示したポストコロナの方法論

 4月7日に発令された緊急事態宣言以降、多くの会社員が在宅勤務にシフトしたことで、それまでの「働き方」が再考されており、ICT(情報通信技術)を用いた在宅勤務は、ポストコロナで求められる「新しい生活様式」の柱に位置付けられている。

 では、教育現場におけるICTの活用は、どうなっているのだろうか。その実態は、残念ながらICT化の波に乗り遅れた日本の公的制度の象徴ともみることができる。文部科学省の調査(4月16日)によれば、休業中の公立小中高校における双方向型のオンライン授業実施状況は、わずか5%でしかない。

 「私はコロナ休業中の学校でオンライン授業がほとんど行われていない理由のひとつに、自治体内での学校間の“平等性”があったと考えています。つまり、ICTへの対応が遅れている学校に足並みを揃えざるを得なかった状況があったということです。また、家庭でのICT環境の違いも問題点のひとつです。オンライン授業を行っている学校に対して、『オンライン授業に対応できていない学校もあるので足並みが揃わないから待ってほしい』と教育委員会から連絡が入ったこともありました。

 それに加えて、実際に教員のICTスキルの差が大きい事実も影響しています。今回の休業を受けて初めてICTに取り組んだという教員も少なくありません。ですが、私たちRTF教育ラボオンラインが開催する『ZOOM学習活用勉強会』は平日夜や休日に行っているにもかかわらず、毎回30名程度の教員が学びに来ているように、教育現場も変わろうと努力しています」(同)

 村上氏の指摘を待たずとも、教育の機会均等という教育行政の大前提がある限り、仮にWi-Fi環境がない子どもが1人でもいれば、一律的なオンライン授業導入に躊躇する教育現場の姿勢も理解することができる。

 しかし、このような前提を物ともせず、4月15日から市立小学校3年生以上の児童と市立中学校の生徒、約4万6500人にオンライン授業を開始した自治体がある。それは、2016年の地震で地域が分断される被害を受けた熊本市だ。

「震災後の熊本市では、大西一史市長と遠藤洋路教育長がタッグを組んで、当時、政令指定都市20市中19位という教育ICT導入レベルを引き上げるために、2018年に教育ICTプロジェクトを立ち上げました。プロジェクトの目標は、約6万人の小中学生3人に1台の割合と全ての教員にタブレットを貸与して、教育ICT環境を猛スピードで整備すること。そして、熊本市は今年4月、目標とするiPad 2万3460台の整備をなしとげたのです。

 ここで注目したいのが、Wi-Fiモデルではなく、公衆回線からインターネットにアクセスできる、より高価なセルラーモデルのiPadを整備したことです。セルラーモデルを導入することで、Wi-Fi環境が整っている家庭とそうでない家庭の間に生じるIT格差の問題をクリアしました。同時に、市は管理職を含む全ての教員にICT研修を行うなど、ハードとソフトの両面から環境整備を推し進めたのです」(同)

 熊本市が行政としては異例のスピード感を持って教育ICT環境を整備できた要因は、行政と議会、教育現場が、「再び災害などで学校が閉鎖したとしても次世代を担う子どもたちの教育は中断しない」という強い目的意識を共有できたことにある。できない理由を並べるのではなく、どうやったらできるのかを考えることが習慣化された熊本市は、コロナ禍にも柔軟に対応した。

「熊本市は3月30日、各家庭がオンライン授業に対応できるか否かを調査する全家庭向けのアンケートをマイクロソフトFormsとメールを使って行いました。その結果を受けて、PCやタブレットがない児童・生徒には市保有分を貸し出すことで実施可能と判断し、全国に先んじて4月15日からオンライン授業をスタートしたのです。

 コロナでの休業期間は、学校の役割とは何かを改めて考える機会になったと思います。多くの子どもたちは、学校で友達と一緒に学ぶことに飢えているように見受けられます。今年改訂された新学習指導要領にある『主体的・対話的で深い学び』を実現するためには、オンライン授業だけでは限界がありますが、今後の学校のあり方はオンライン授業を併用したものになっていくでしょう。

 教育現場にはさまざまな戸惑いや不安がありますが、恐れずにやれるところからやっていくという、ある種割り切りの姿勢が求められていくと思います」(同)

 「熊本市モデル」ともいえる自治体と教育現場の取り組みは、ポストコロナの日本社会が進むべき道を示しているといえるだろう。リーダーが明確なビジョンを示し、リスクを予測しながらICTを積極的に活用して社会を変革していく。私たちも、熊本市が地震の被害を「災い転じて福となす」としてきたように、緊急事態宣言解除後の社会、そして、9月入学導入で生じるかもしれないパラダイムシフトを生き抜いていくことが望まれているといえる。

村上敬一(むらかみ・けいいち)

1972年生まれ、熊本市出身。RTF教育ラボ代表。各自治体の研修をはじめ全国の公立・私立学校の校内研修・研究授業講師を担当。年間の授業観察数は300を超え、約4000の授業を観察。現在、9月に発行する書籍『授業づくりの診断書(仮)』の出版に向けてクラウドファンディングに挑戦中(https://camp-fire.jp/projects/224411/activities/135276#main)。

金沢健太(ジャーナリスト)

明治大学卒業。"日本一厳しい学校"で日本の昭和体質に長年の疑問を感じており、令和に入り一念発起。ライターとして独立し、古い日本体質、権力に対して疑問を投げ掛けた記事を手掛ける。

かなざわけんた

最終更新:2020/05/26 12:12
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