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満洲の邦人を置き去りにした日本軍と安倍政権は酷似! “鉄道”から迫った「シベリア抑留」の真実

戦争責任を隠蔽すべく公式史料を破棄した日本軍

――『鉄路の果て』には、敗戦間際に、満州にソ連が侵攻してくるのを関東軍は察知していたのに市民には知らせず、一部の軍関係者などだけが脱出し、満州の邦人27万人を切り捨てた、という出来事が紹介されています。清水さんが取材してきた桶川ストーカー事件や北関東連続幼女誘拐殺人事件における警察の振る舞いにも通ずる、「日本の権力者は国民の利益や心情よりも、自らの保身を優先する」という性質を感じてしまいました。

清水 僕の本は「怒りが多い」といわれてきましたが、この本はもともとは息が抜けるような本でいいと思っていたんです。でも、満州に置き去りになって機関銃の掃射を浴びて死んだり、略奪されたり、陵辱されたりした人たちのことを改めて考えると、これはひどすぎると思った。「満州国は素晴らしい」「関東軍が守る」と言って人々を信じさせていた関東軍は、ソ連軍に対して戦力が劣ると見るや真っ先に逃げ出し、動員されたばかりの素人同然の兵士しかいない、カカシのような軍隊になっていました。戦争を始める人たちは、いざとなると逃げ足は速く、責任も取らない。そこは、怒りを込めて書かせてもらった部分です。

――近年、公文書の破棄や改ざん、議事録を作成しないといったことが問題になっていますよね。『鉄路の果て』には、日本が敗戦目前になると、国際軍事裁判での戦犯探しを封じるべく軍に関係する大量の公式記録が焼き捨てられたがために、後の世で事実がわからず、検証不可能になっていることも書かれています。これも、歴史と今の政治・社会の状況がつながる話です。

清水 自分たちの戦争責任を隠蔽できると思って、公式史料を破棄させたのでしょう。一方で、中国政府が展開する「日本軍は南京で30万人殺した」という主張に対しても、日本側の記録が残っていないから史料に基づく反論ができないんですよ。「公式記録がない」ということは、国際感覚からすると「なんて国だ。燃やさないといけないようなことをやっていたのか」と思われるだけで、アウトです。そういう点で、現政権は旧軍とすごく似ていますよね。

――清水さんが目下、取り組んでいることは?

清水 先ほども言ったように、なぜ戦争が始まったのか、誰が始めて最後にはどうなったのかという近代史、近代戦争の流れを伝えていきたいというのが、この数年のテーマです。南京事件、シベリア抑留、それから重慶爆撃の取材もしました。いろいろな形でそういったピンポイントにフォーカスしながらも、全体像を伝えていきたいんですね。

 歴史を一コマだけ切り出して、「アメリカの原爆投下はひどい」「シベリア抑留したソ連はひどい」という話をするのではなく、では日本は一体何を、なぜやったのか? その結果、何が起こったのか? この両面を伝える仕事をしたい。

 「日本はアジアを解放するために戦った」と言っているのはほとんど日本人だけで、海外の人からそう言われたことは私はないんですね。日本人が抱いている近代戦争観は国際感覚からズレていて、勉強すればいくらでもわかる基本的な事実認識が共有されていません。

 これまでも繰り返し語ってきましたが、知らないことは恥であり、知ろうとしないことは罪に近い。かくいう私だって、世の中のことはほとんど知りません。でも、勉強はいくつになってもできますから。

清水潔(しみず・きよし)

1958年、東京都生れ。ジャーナリスト。日本テレビ報道局記者/特別解説委員、早稲田大学ジャーナリズム大学院非常勤講師など。新聞社、出版社にカメラマンとして勤務の後、新潮社「FOCUS」編集部記者を経て日本テレビ社会部へ。雑誌記者時代から事件・事故を中心に調査報道を展開。著書に『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(新潮文庫)、新潮ドキュメント賞と日本推理作家協会賞を受賞した『殺人犯はそこにいるー隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(同)などがある。また、著書『「南京事件」を調査せよ』(文春文庫)の元となるNNNドキュメント’15『南京事件―兵士たちの遺言』はギャラクシー賞優秀賞、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞などを受賞。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2020/06/20 12:12
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