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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.591

海外で上映禁止となった実録サイコパスムービー、動機なき連続殺人鬼の記録『アングスト/不安』

初めての恋人から教わったのはSMプレイ

刑務所を仮釈放したK.(アーウィン・レダー)は、老女、障害者、女子大生に次々と襲い掛かる。すべては自分の快楽のため。

 一貫して暗く、陰鬱な映画だが、より注目したいのは映画の序盤で紹介される主人公K.=殺人鬼ヴェルナー・クニーセクの生い立ちだ。戦後間もないオーストリアのザルツブルクに生まれるも、シングルマザーからはネグレクトされ、私生児を嫌う祖母によって修道院に預けられる。だが、修道院で飼っていた動物たちを虐待したことを咎められ、実家へと送り返されてしまう。実家で待っていたのは、養父による体罰という名の暴力だった。

 14歳になったK.は、その後の彼の人生に大きな影響を与えることになる女性と出会う。母親と同じくらい、46歳のアネマリーとK.は交際を始めるが、アネマリーは極度のマゾヒストだった。年上の恋人からサディスティックなプレイを仕込まれ、K.は暴力を振るうことに快感を感じるようになる。倒錯的な性嗜好が、K.の精神をますます歪めた。

 やがてK.の母親は、自分の息子に殺されるのではないかと恐れるようになり、その不吉な予感は的中する。K.は母親をナイフで刺し、国外へと逃亡。K.の母親は一命を取り留めたために殺人事件にはならなかったが、この事件以降のK.は刑務所から出所される度に事件を起こし、また刑務所に戻るという生涯を繰り返すことになる。

 そして、ここからが本編だ。快楽殺人鬼の動向をリアルに追った映像となるため、精神状態が安定していない人は観るのを避けたほうがいいだろう。刑務所を出たK.は「俺にはすでに綿密な計画ができていた。あとは獲物を見つけるだけ」と心の中で呟きながら、街をさまよい歩く。ある一軒家が目に入ったK.は、獄中で繰り返していた妄想を実行に移す。一軒家の窓ガラスを手で叩き割り、侵入するK.。家の中には車椅子に乗る息子(筋ジストロフィーらしい)がおり、運悪くその母親である老女、そして女子大生の娘が帰ってくる。まったく罪のない障害者、老女、女子大生が、K.の快楽殺人のための犠牲者となってしまう。

 老女を突き飛ばすK.。老女の口からは入れ歯が飛び出す。さらに老女が見ている前で、車椅子から転げ落ちた息子を拷問する。母親の前で障害を持つ子どもをなぶりものにするという、非道極まりない手口だ。それだけでは物足りず、拘束していた女子大生をいたぶり続ける。一家惨殺の一部始終を、カメラはドキュメンタリー映像のように生々しく映し出していく。

 一家惨殺の後、K.は食事を摂るためにレストランへ入る。手袋をしたまま食事をするという異様な行動を怪しまれ、警察に通報されることに。3度目の刑務所行きとなり、ようやく無期懲役を言い渡されるK.=ヴェルナーは現在も存命だという。愛のない幼少期を過ごし、歪んだ愛を覚えたヴェルナーには、刑務所の中しか居場所はなかった。犯罪者を更生させるための施設である刑務所が、その機能を果たすことなく悲劇が繰り返された。本作を撮ったジェラルド・カーグル監督は、このデビュー作があまりにも衝撃的すぎたため、一本限りで映画業界から去ってしまった。

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