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フランスの極右政治家に共感する日本の大学生が急増! 朝日新聞・玉川透氏に聞く強権的な指導者を好む若者増加のワケ

写真/Getty Images

 アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターによれば、世界の多くの国で軍事政権に対して肯定的な若者の割合が増えているという。これは、日本も例外ではない。

 また、日本固有の問題としては、「批判はよくない」「過激な言い方が受け入れられない」などと考える「野党嫌い」の若者の増加もある。

 独裁的な指導者を望む若年層は、なぜ増えたのか? 東京都知事選を終え、アメリカ大統領選挙を控えるタイミングで、この問題を追った『強権に「いいね!」を押す若者たち』(青灯社)の編著者である「朝日新聞GLOBE」記者の玉川透氏に話を訊いた。

玉川透編著、ヤシャ・モンク/ロベルト・ステファン・フォア著『強権に「いいね!」を押す若者たち』(青灯社)

軍事政権に肯定的な日本の学生

――『強権に「いいね!」を押す若者たち』には「最近の若者は『野党嫌い』である」ということが、大学生や大学の講師に対する取材を通じて書かれています。ただ、そもそも多数派でないから野党なわけで、与党支持が多いこと自体は不思議ではありません。でも、そういう話ではない、ということですよね?

玉川 取材をしてみて、「こういう主張をしているから嫌い」「あの政党だから嫌い」というより「多数派じゃないほうを応援したいと思わない」という感覚がある――つまり、中身以前に「少数派に入ることが不安」という雰囲気が蔓延している印象を受けました。

――それから、「決断して実行できるリーダー、強い指導者が望まれている」ということも書かれています。しかし、何をしたいのかわかりにくいリーダー、決められない指導者が好まれた時代はないと思うんですね。そうすると、かつてとはどこが違うんでしょうか?

玉川 強権発動の度合いが問題です。民主主義の理想としては、議論を通じて少数派の意見も汲んでくれる人がよい、とされてきたはずです。ところが今、世界を見渡すと「俺は支持者が多いんだから、有無を言わせず決める」というリーダーが目立ちます。そして、「それでもいいんじゃない? 決められない政治家よりは」と考える若者が増えていることがシンクタンクの調査などでも顕著になってきています。

――玉川さんの本では日本の話と海外の話が行き来します。国際的な潮流と日本固有の現象は分けて考えたほうがいいのではと思いましたが、どうしてこのような構成に?

玉川 少し経緯を説明しますと、私は「朝日新聞のGLOBE」編集部に所属しているのですが、2017年に200号を記念して「民主主義」という大きなテーマに取り組みました。その一環で、まだブラジル大統領になる以前の、台頭著しいポピュリストとして注目されていたボルソナロさんに取材に行ったんです。なぜ若い人たちが彼を支持するのか? ニュースを見ていればご存じの通り、ボルソナロさんは極端なことを言う人で、例えばブラジルの軍政時代(1964~85年)を評価していて、その時代を教科書でしか知らない若者も共感している。既存の政治に対する不信・不満もあって、「人々の生活の自由を制限してでも、グイグイ決める政治のほうがうまくいくんじゃない?」と信じている。

 一方、日本は戦後、平和な時代を築いてきましたし、さすがに戦前の大日本帝国みたいな政治体制を望む若い人はいないだろうと思って帰国したんです。ところが、大学で政治学を教えている先生方に話を聞くと、「そんなことないです。日本でも軍政に肯定的な学生は増えています」と言われて驚かされた。また、ヤシャ・モンクさんというアメリカの政治学者が「世界的に強権的な政治家を支持する割合が増えている」と書いていました。そうやって外国と日本を往復しながら作ったのが今回の本です。

――駒澤大学の山崎望教授が、大学の講義でフランスの極右政党を率いるマリーヌ・ルペンの演説を学生に見せると「意外といいこと言ってる」という反応で、ギョッとした、とのエピソードが本の中にあり、読んでいるこちらも仰天しました。

玉川 日本の若者も「外国人がたくさん日本に来ると怖いよね」とか「事件も増えたんじゃない?」といった感覚的な話は雑談レベルではしていると思うんですね。私なんかは仕事柄、「排外主義自体は危険だ」ということが大前提になってしまっているんですが、そうやって枠にはめて見てしまうと、「なぜ惹かれる若者がいるのか?」を見誤ってしまう。若者はルペンの発言はまっさらに読んで共感を示した。その事実を見ないといけない。ルペンは発言内容はきわめて排他的ですが、話し方はいかにも人に好かれるような柔らかさを狙って演出しています。そうすると、日本の若者も「いいおばさんじゃん」と思ってしまう。

民主主義で決まった政治家に文句は言えない

――日本の若者は「口汚く批判する人を嫌悪しがちである」「ゼミをやると『意見のパス回し』のような、発言者に対して表だって批判せずに意見の尊重をし合う」といったことも本にはありました。しかし、ポピュリストには口汚い政治家も少なくないですよね? 日本の政治家ではないですが、トランプもブラジルのボルソナロもフィリピンのドゥテルテも、物腰柔らかには見えません。

玉川 そこは日本固有の「寄らば大樹」的な傾向も絡んでいると思います。ヤシャ・モンクさんは、「日本にはなぜ、世界各地で起きている権威主義的なポピュリストの台頭が見られないのか」という疑問を投げかけています。我々からすると、かつて橋下徹さんなどはポピュリストと評されたこともありますが、欧米の研究者たちから見れば、そうは映らないようです。私が海外での取材を通して感じたのは、外国ではポピュリストは野党から出てくるのが普通です。でも、日本では外国とは逆に体制側を押し上げる力のほうが強く、野党発のポピュリストを支持したがらないのではないか、そんなふうに感じています。

 さらに、日本の若者には「民主主義で決まった政治家なんだから、私が文句を言って侵してはいけない」というような、システムに対する奇妙な崇拝があります。自分の心の中では反対していても、「まあ、大多数が言っているし、ルールに則って決まった人なんだから、理不尽でも従わなきゃいけないよね」と考える。

――先日の東京都知事選で再選した小池百合子氏は、もともとは自民党批判をして政治家として注目を浴びてきた人でしたが。

玉川 うーん……難しいですね。私はドイツでポピュリストと呼ばれている極右の人たちを取材したことがあります。実際に会うまでは「扇動者」というイメージを勝手に持っていたのですが、彼らの多くは驚くほど主張がブレないんですね。ずっと主張し続けてきたことが時代の潮流に合って、いきなり祭り上げられていく、そんな感じでした。ところが、例えば対照的に、メルケル首相は本当に素晴らしい女性政治家ですが、「今、民衆が何を望んでいるか」に敏感に反応します。ドイツが長年続けてきた原発推進政策も、福島の原発事故を受けて「やめましょう」と言った。小池さんも信念を持って思想や政策を貫くというより、民衆の声に敏感に反応するタイプなのではと思います。

――ただ、トランプも場当たり的に見えますし、そこは「ポピュリスト」の定義をどうするかによって話が変わってきそうですね。もう少し先ほど振った話を続けますが、日本の若者の間では汚い言葉での批判が嫌われるって本当かなぁと思うんです。SNSを開けば、若者らしき人たちが罵りの言葉を投げつけている姿を目にします。そういった誹謗中傷によって自殺に追い込まれる人もいますし、いわゆるキャンセルカルチャー――問題のある発言や行動をした著名人を降板させる運動もさかんです。

玉川 SNSで攻撃的なことを書いている人たちが今の若者を代表しているかどうかはわかりませんが、話を直接聞いた感じでは若い人はみんなものすごくまじめで、勉強しています。ちゃらんぽらんだった私たちの学生時代に比べて、将来のことも真剣に考えている。そういう子たちが「国会の議論を見ていると、野党は悪いところばかり突っついていて受け付けられない」と言うんです。

政治の世界を会社のようにとらえる

――若者は政治に対しても受験勉強のように「唯一の正解」を探しがちである、多数派であろうとする、とのことでしたが、しかし例えば20代と飲み会に行くと、もはや「とりあえず生」的な同調圧力はまったくなくて、1杯目からみんなバラバラに頼みます。そもそも飲み会に行く/行かないの選択も、かつてよりフレキシブルです。とすると、彼らが画一的になっているといえるのか、あるいはかつての若者が画一的でなかったといえるのかが、ちょっとわかりません。

玉川 「飲み会に参加する」というレベルの話と「政治や経済の話」では、誰に合わせるかの許容範囲が違う気はします。大半の学生は政治をタブー視していて、学生同士でも政治の話はしません。話題にすると「変なヤツだと思われる気がする」と言っていました。『みんなの「わがまま」入門』(左右社)という本を書いた立命館大学の富永京子准教授もおっしゃっていましたが、趣味や遊びの話とは違う次元のものになっている。

――政治だけ別カテゴリーになっている?

玉川 ええ。でも、それでいて、政治の世界を会社組織のようにとらえているところもある。企業の中では理不尽で本人はやりたくないと思っていても、「これが君の仕事だから」と言われればやりますよね。もちろん、本当にイヤなら辞めるでしょうが。

 会社は民主主義でできていないし、集団でするスポーツにしたってそうです。社長や監督、リーダーが意思決定をして、メンバーはそれに従います。つまり、人間は人生の大半は民主主義ではないところで暮らしている。だから、政治に関して「民主主義なんだから少数派の意見を汲み上げないといけない」ということにピンとこないようです。

 数の上では優位な与党が、野党の批判を受けて方向性を修正して進めていくという民主主義は、効率が悪いわけです。もし、完全に民主主義で運営している企業があったら、競争には勝てないですよね。そのため、政治についても論戦自体が非効率的に見えるし、「決める人に従わないってどういうこと?」と感じるのではないでしょうか。

――市場原理だけに任せるとこぼれる部分があるから政府が存在する、例えば税金を徴収して再配分することによってバランスを取る、というのが「政府(政治)の役割」の常識的な理解だと思うのですが……。

 取材した若者や、大学講師から聞いた若者の中に、パッパと決めるリーダータイプはいましたか? ゼミやサークルを仕切る人レベルでもいいのですが。つまり、学生たちは「強権的にでも物事を決めていくリーダー」を自分たちから遠いものとして認識しているのか、近くにもいるものとして認識しているのか、どちらでしょうか?

玉川 それは遠いものでしょうね。国政はもちろん、地方自治レベルでも自分の身に直接振りかかってくるものとは思っていないと思いますよ。これは本の中でも紹介していますが、ある女子学生さんが16年の参院選で初めて投票したときの気持ちをこう語っていました。「選挙は定期的にあるけれど、何かが変わったという実感を得られずに育ってきた。正直そこまで選挙への関心もない。だって、しょせん1票だし……」と。それは正直な気持ちだと思います。合理的に考えれば、自分の1票で結果が変わる確率はほぼゼロです。ましてや、自分にとって現状がよほど切羽詰まっていなければ、誰か適当なリーダーに物事を決めておいてもらえばいい。政治って、そういうものかもしれません。逆に切羽詰まっていたら、今度は選挙に行っている余裕もないかもしれませんが。

 ルペンの話をしてくれた先生は、学生から「先生は独裁に批判的ですけど、このゼミでは先生が独裁者ですよね。自分が思うように話を進めていって、私たちを評価するわけですから」と言われてギクッとした、と言ってはいましたが。

――日本の若者は経済的に余裕がなく、それが失敗回避志向につながり、無駄を嫌い、したがって時間のかかる議論の応酬を嫌う、という話もありました。これも日本固有の問題ですか?

玉川 いえ、「経済的に困窮している人たちほど強権的な政治家を支持する」という国際的な調査があります。

リーダーを変えないほうが混乱が少なくて済む

――なるほど。ここまでをまとめますが、日本が貧しくなったという経済的・社会的要因が、自分たちを救ってくれるかもしれない強いリーダーを求め、「寄らば大樹」的な与党支持につながっている。さらに、正解志向や「みんな仲良く」的な教育に適応し、バイト先では言われたことに従う「まじめな学生」こそが、「選挙というシステムで決まった人なんだから受け入れる」という思考停止状態になり、議論を「避けたほうがよいもの」と認識するようになる。かつ、政治に対して当事者意識はなく、自分たちから遠い話だと思っている。結果、民主主義的に「少数意見も尊重しながら多数派が進めていく」という振る舞いをしない政治家のほうが望ましいと感じている、と。

玉川 私はある意味では、民主主義に対してそこまで期待しなくていいと思うんですね。民主主義はすぐに決められないがゆえに考える時間、余裕ができる仕組みです。そういう意識・認識こそが今、求められていると思います。

 学生たちと話していると、「民主主義とはこういうものだ」という考え方自体が実は多様なんだと気づかされます。例えば先日、私の本に興味を持ってくれた学生とオンラインで討論イベントをした際、「コロナ対策と民主主義」という話題になりました。日本では諸外国のように罰則付きのロックダウンは法律上できませんが、学生たちには「期間を定めて、リーダーが決めたことは取り締まりもできるようにしたらいい」という意見が多かった。また、ある学生は選挙のときには投票の前にどんな候補が最有力なのかを調べて、その人に入れる、と。なぜなら、今みたいなときにはリーダーを変えないほうが混乱が少なくて済むはずだ、現状維持を目指したい、とも言っていました。

 私は民主主義は前提として人権が保障されるべきで、簡単に個々人の主権の自由が制限されてはいけないと思っていますし、危機のときには現状維持がいいという考えにも必ずしも与しません。ともあれ、学生たちを見ていると、どうも「民主主義」というシステムのとらえ方、使い方が我々世代、ないし私とは大きく違うな、と感じます。逆に言えば、民主主義はそれぞれの人が自分にとって都合良く考えたくなる曖昧な制度なんでしょうね。

――玉川さんはこれからどんなことに取り組んでいきたいですか?

玉川 私はもともとやわらかい話を面白おかしく書くほうが得意で、政治の話を偉そうに語れるような経歴はなく、そういう取材もしてこなかったほうです。でも、自戒も込めて、少しは民主主義のことを考える機会があったほうがいい、と思って本を書きました。政治を考える足がかりにしてもらい、本当にマズいときに「そういえばこういう話、読んだことがあったぞ」というシグナルに気づくものになってもらえたらな、と思います。

 10月4日発行の「GLOBE」で「民主主義」をテーマとしてもう一度取り上げる予定です。そこでは本で書き切れなかったこと、深掘りしたかったところに取り組みたいと思っていますので、よろしければそちらもご覧ください。

玉川透(たまかわ・とおる)

1971年生まれ、宮城県仙台市出身。東北大学法学部を卒業後、1996年に朝日新聞入社。国際報道部デスク、ベルリン支局長などを経て、現在は「GLOBE」編集長代理。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

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最終更新:2020/07/30 19:46
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