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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.598

小泉今日子初プロデュース映画『ソワレ』 息苦しさを増す現実世界からの逃避行

恋愛感情とは異なるマウンティングの関係

小泉今日子が初めての映画プロデュースに挑戦!息苦しさを増す現実世界からの逃避行『ソワレ』の画像2
100人をこえるオーディションで選ばれた芋生悠。『37セカンズ』(19)でも好演し、ブレイクは間近。

 本作のユニークな点は、翔太は行きがかり上、タカラを救って逃げ出したのであり、2人の間には当初は明確な恋愛感情が成立していなかったということだ。そこが『地獄の逃避行』のマーティン・シーンとシシー・スペイセク、『青春の殺人者』の水谷豊と原田美枝子とは異なる点だ。一緒に逃げ出すことに躊躇するタカラに向かって、翔太は叫ぶ。

「なんで、必死なやつばかり、こんな目に遭うんや。なんで、弱いやつらばかり、損せなあかんねん」

 どん底人生をずっと歩んできたタカラには、翔太が白馬の王子さまのように感じられたに違いない。だが、この言葉は決してタカラに向けたものではなかった。役者として食べていくことができず、自分の才能に不安を感じていた翔太が自分自身に向かって叫んだ言葉だった。誰よりも、翔太がいちばん今の状況から逃げ出したかったのだ。

 ひどく緊張を伴うシチュエーションにおいて、自分よりも緊張している人を見つけ、不思議なほど落ち着けた経験はないだろうか。このときの翔太は、同じような心境だったはずだ。多くの人を楽しませる役者になりたいという夢に向かっていた翔太だが、その夢が叶う保証はどこにもない。不安に駆られていた翔太は自分よりも悲惨そうなタカラを見つけ、ようやくほっと息をつくことができた。翔太がタカラに寄せているのは恋愛感情でも、若者らしい義侠心でもない。一種のマウンティングである。自分より不幸なタカラといることで、自分の存在意義、優位性を感じている。だが、そんなマウンティングの上下関係は、逃避行を続けていくうちにあっけなく逆転することになる。

 どん底生活から翔太が引っ張り出してくれたことから、タカラは少しずつ生きる気力を取り戻し始める。お金のない翔太とタカラは、警察に追われつつ、逃げ込んだ街で生活費をそれぞれ稼ぐことにする。ギャンブルで手っ取り早く稼ごうとする翔太に対し、タカラは求人募集していたスナックで臨時のコンパニオンを務めることに。接客なれしていない若いタカラは、夜の街では重宝された。ひと晩で得た日給は、施設で働いて得ていた給料とは比べものにならなかった。自由さを身にまとうようになったタカラは、キラキラと輝き始める。翔太はそのことに逆に苛つくようになる。

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