スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会【10】

人種差別横行していたハリウッドに変化 アジア人モノマネに大きな批判の声も…アジア系大御所コメディアンのもがき

文=Saku Yanagawa(サク・ヤナガワ)

人種差別横行していたハリウッドに変化 アジア人モノマネに大きな批判の声も…アジア系大御所コメディアンのもがきの画像1
写真/Ari Perilstein「GettyImages」より

 ロブ・シュナイダーのスタンダップコメディ・ライブが先日ネットフリックスから配信された。コメディ映画ファンなら、一度はその名前を耳にしたことがあるに違いない。1988年にNBCの人気テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』のライターに抜擢されるとその後は同番組の出演者としても人気を博し、多くのハリウッド映画にも主演してきたベテランだ。『サタデー・ナイト・ライブ』の盟友アダム・サンドラーの映画にもたびたび出演し、エキセントリックな役柄で強烈な印象を残すことでも知られている。
 
 そんな彼も多くのコメディ俳優と同じく、もともとはスタンダップコメディアン出身。地元サンフランシスコのクラブで10代の頃から舞台に立ち始め24歳の時にHBOの新人賞を受賞しテレビの世界に進出していった。本作はロブがスタンダップコメディアンとしてほぼ、30年ぶりに帰ってきたステージとあって大きな話題を集めた。
 
 ライブが行われたのはアメリカ中がロックダウンする直前の2月。往年のファンから若い世代まで実に幅広い世代が詰めかけたソルトレークシティの劇場は超満員の熱気であふれていた。

 舞台に登場した彼はいきなり代名詞の下ネタから始めてみせる。しかし30年前のそれと比べると幾分か円熟味を増し、丸くなった印象を受ける。下ネタを通しながらも56歳になった自身の3度目となる結婚生活を語り、中年の危機や、子育てにも言及する。男女の恋愛観の違いを説き、自身を含めた男性が潜在的に持っている「醜さ」についても触れたパートは、近年ハリウッドでも大きな問題となった#metoo運動を想起させた。
 
 中盤に差し掛かると彼はおもむろに自身の出自について語った。

「僕はアジア系だ。僕の母はフィリピン系だから。だけど僕はアジア人として十分じゃないんだ。みんな僕のことを見て『あいつはいったいなに人なんだ?』って首をかしげる」

 フィリピン系の母、ドイツ系ユダヤ人の両親の間に生まれたロブはこれまで「アジア人」とみなされてきた。実際『サタデー・ナイト・ライブ』に出演した際にも「初のアジア人キャスト」という枕詞がついてまわった。それだけに番組内や映画においてアジア人としての役割を全うしてきたのだが、それだけに近年行きすぎたステレオタイプを演じる彼の過去の作品への批判が散見された。確かに「アジア人」と言っても、彼自身の見た目だけでそれを判別することは容易ではないし、苗字も父の“シュナイダー”というドイツ系であるがためにファンですら彼を「アジア系」だと認識していなかった者も多いという。
 
 自身の出自を改めて示した彼はほかの「アジア系」コメディアンが鉄板ネタとして用いる「お母さんネタ(移民である親とアメリカ生まれの自身の文化的差異をジョークにする)」で会場の笑いを取った。このアジア系であることの表明は、これまでの自身の映画における誇張されたステレオタイプ像に対する批判へのディフェンスのように感じられた。と同時にまさに今大きく「ダイバーシティ」に向かって舵を切り出したハリウッドの状況を示唆的に表しているようにも聞こえた。

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