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愛国ビジネスの歴史を追う

[特別対談]石戸諭×辻田真佐憲──つくる会から百田尚樹へ…愛国・保守本市場の変遷

文=月刊サイゾー編集部

――毎年のように「日本すごい本」や「嫌韓・嫌中本」がベストセラーとなり、右傾化が懸念される日本社会だが、この流れはいつから始まったのだろうか? また、これらの本の作者は今と昔では大きく変貌しているが、果たしてここにつながりや分断はあるのだろうか? 新進気鋭の若手論客の2人に語り合ってもらった。
(「月刊サイゾー」9月号より一部転載。完全版は「サイゾーpremium」でお読みいただけます)

[特別対談]石戸諭×辻田真佐憲──つくる会から百田尚樹へ…愛国・保守本市場の変遷の画像1
(写真/渡部幸和)

 2018年末に百田尚樹氏の『日本国紀』がベストセラーになったように、「愛国・保守」を打ち出した書籍の出版が目立っている。「愛国ビジネス」とも称されている、この手の書籍が出版業界において大きなマーケットとなっているのは、書店の店頭に棚積みされているのを見れば容易にわかることだが、他方でこの市場が拡大したのは90年代後半になってから。この頃、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、つくる会)の参加者である西尾幹二氏、藤岡信勝氏、小林よしのり氏らが相次いで著作を世に送り出し、それぞれベストセラーとなったが、それ以前には右派的な書籍でめぼしいヒット作は存在していなかった。

 それでは、「愛国・保守本」はどのようにしてひとつのジャンルとして定着したのか? 昨年話題となった「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)の特集「百田尚樹現象」を、大幅に加筆した『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)を刊行したノンフィクションライター・石戸諭氏と、『教養としての歴史問題』(東洋経済新報社)の著者のひとりでもある近現代史研究家・辻田真佐憲氏の2人に語り合ってもらった。

――今回は戦後75年ということで、「愛国・保守本マーケットの変遷」について話し合っていただきたいのですが、その前に7月5日に行われた都知事選に関して。今回の選挙では小池百合子氏が大差で再選した一方、元在特会会長の桜井誠氏が18万票を獲得しました。結果改めて日本の右傾化が取り沙汰されていますが、この現状をお2人はどう思われますか?

辻田真佐憲(以下、辻田) もはや彼は単なる泡沫候補ではなく、今後も活動していくだけの基盤を持ってしまったということでしょう。しかも、彼は国際的な右派ネットワークの中にもいて、確固たる地位を築きつつあります。最近、アメリカ研究者・渡辺靖氏の『白人ナショナリズム――アメリカを揺るがす「文化的反動」』(中央公論新社)を読んだのですが、この本では自国のことしか考えていないように見えるナショナリストたちが、実は国際的な連携をしていることが指摘されています。そして、「ロシアのアレクサンドル・ドゥーギンが、アメリカの白人至上主義に影響を与えたりしている」などの事例が紹介される一方、桜井氏の名前も出てくるんです。白人ナショナリストは「単一民族国家」日本が好きなのですが(もちろん実際は違います)、そこで桜井氏を集会に招いたりしているそうで……。つまり、桜井氏は日本における民族主義者の代表的な存在になりつつあるわけです。

石戸諭(以下、石戸) ナショナリストたちは「国境を閉ざせ」と主張する反面、グローバルな思考を持っていて、他国の事例とお互いの方法をよく勉強しています。結果として、彼らは「どのように話せば、人々の心に響くのか」という手法を丁寧に理解している。その最たるものがマスコミ批判でしょう。

辻田 被害者意識を利用するのもその手法のひとつですよね。マジョリティであるにもかかわらず、「自分たちは迫害されている」と考える白人男性の言説は、そのわかりやすい例と言えます。

石戸 現代の日本の右派言説、右派本マーケットについて考える際に大事なのは、「その源流はどこにあるのか?」ということだと思います。そして、僕はその源流を「つくる会」にあると考えています。というのも、それ以前にも教科書運動はあったものの、すべて失敗してきたからです。例えば、今の日本会議系が行ってきた80年代の教科書運動では、時の首相でナショナリストである中曽根康弘ですら振り向かせられなかった。

辻田 中曽根は「日本を守る国民会議」(現・日本会議)の歴史教科書『新編日本史』に冷淡でしたね。

石戸 そうなんです。その意味でいうと、最初に右派が力を持った源流は、やはりつくる会であり、ひとつの転換期だったのは間違いない。彼らがずっとやってきたのは、出版で金を儲け、インパクトを与えるということです。100万部売ることができれば財産になり、社会に対するインパクトも、例えば機関紙で発行するのとでは、まったく違うことに気づいた。そして、文化人をリクルートしてくる戦略も初めて行いました。マンガ家の小林よしのりさんがそうですし、当時、東京大学教授だった藤岡信勝さんの『教科書が教えない歴史』もすごく売れました。ただ、あくまでヒットは偶然の産物。誰も当たるとは思っていなかったし、そもそも右派言説に金脈があるとは、誰も思っていませんでした。

辻田 ところで、石戸さんが来る前に、編集者と本棚に並んでいる書籍を見て、「まともな保守と、そうでない保守の切れ目はどこなんだろう?」って話していたんです(笑)。古い人でいうと哲学者・田中美知太郎の書籍がありますが……。

石戸 そのあたりの人はまだ、いわゆる「保守論壇」じゃないですか?

辻田 ですよね。そうやって考えてみると、本来保守派とされていた人たちが、さまざまな要因でまともじゃない右側の人たちに追いやられていったのが、ここ20年だと思うんです。文芸評論家の江藤淳が99年、評論家の西部邁が18年に亡くなっていますし、かつて「反動」とさえいわれた歴史家の半藤一利氏が、今では左翼扱い。つまり、そこまで右傾化が進んでしまっている。

石戸 半藤さんや作家の保阪正康氏さんは、文藝春秋を拠点にしてポピュラーマーケットで踏ん張ってきた存在だと思っています。彼らは著作の中で「どこで何を間違ったのか、戦前の歴史をまっとうに学んでいこう」と訴え続けていました。

辻田 私が常に主張している「物語を安全装置に使う」というのは、まさにそのことなんです。それにもかかわらず、今は一部の歴史学者や歴史マニアが半藤氏や保阪氏の粗探しをしてしまう。確かに、彼らの作品には、細かく見れば間違いもあるかもしれないですが、ざっくりとした話じゃないと一般の読者に届かないのも事実です。「歴史を知るためにまず100冊読む」というようなマッチョイズムが、すべての読者にできるわけがないですから。そういうマッチョイズムの暴走は、逆に健全な物語を破壊して、詐欺師のようなまともではない人たちに総合知の部分が乗っ取られる原因を作るだけですよ。実際にそうなっているんじゃないですか。それゆえ、この問題はアカデミズムや、今もそこで根強い左翼の問題でもあると思うんです。

石戸 まったく同意です。僕の本はリベラルメディア、アカデミズムの敗北を描いたものです。書籍としては『教科書が教えない歴史』が転機でしょう。今振り返ってみればヒットの要因を紐解くことはできます。例えば、この本は小学生でもわかるような文章で書かれていたこと。当時、藤岡さんは研究会で、多くの小学校の教諭とともに活動しており、書籍の制作にも多く参加していました。小学生でもわかることを意識すると、必然的に内容は物語調になっていくわけですが、わかりやすい歴史観は大人にもウケが良く、右派メディアも想定していなかったニーズがあった。

辻田 この本のヒット後、出版される書籍の「記号化」も顕著になりました。論理や内容ではなく、教育勅語や御真影、君が代など、例を挙げるとキリがありませんが、そういう記号的なものが「敵・味方」を分ける旗幟として利用され、読者もそれに引きずられていった。いわば、ツイッターのbotのようになったんです。森友学園の愛国教育が典型的ですが、先日も、東京都の教育委員会が、卒業式で校歌の斉唱はやめても、「君が代」の斉唱は行うように指示していたとのニュースがありました。飛沫感染の懸念があるにもかかわらずです。これこそ記号的にしか物事を考えられていないことの象徴でしょう。国を愛するということを真剣に考えれば、必ずしもどんな状況下でも国歌を歌うことにつながるわけじゃないというのはわかるはずなのに……。

石戸 そういえば、この本は当時、保守派からも批判されていたんですよね。特に福田和也さんなど、文芸系の人たちはつくる会の活動そのものを小馬鹿にしていた。

辻田 文芸系の人たちは斜に構えているところがありますからね。つくる会が行ってきた記号的な行為はバカにする対象だったのでしょう。しかし、現実的に力を獲得していったのは記号のほうだった。

石戸 とはいえ、今回自分の本の取材で感じたのは、右派マーケットでも西尾幹二さんのいくつかの著作は別格であるということです。彼の代表作である『国民の歴史』は、実は国民の歴史を書いてなくて、軸にあるのは西尾さん自身の歴史論です。

辻田 つくる会は、あくまで運動のパンフレットにするつもりで「簡単でいいから書いて」と頼んだのですが、西尾氏は真剣に自分の歴史観を書いたんですよね。

石戸 西尾さんの歴史観がテーマですが、中には面白い話もあるし、何より西尾さんが本気で書いていることが伝わってきます。彼のほかの著作を読んでいても、決して小馬鹿にはできない人だということがわかります。もちろん、70万部のベストセラーといっても、それだけ読まれたというわけではない。これを言うと西尾さんは怒るかもしれないですが、中には教科書運動の一貫として、購入しても読まずに普及活動に利用した人もいた。

辻田 彼は世界史の中で日本を捉えることを重視した人です。日本史は専門分野が細かく分かれていて、テーマもどんどん狭くなっていきがちですけれども、西尾氏はもともとドイツの文学や哲学が専門だし、哲学者でありながら歴史を書いたヘーゲルの存在も頭の中にあったのでしょう。まあ、そのヘーゲルも最終的にはゲルマン文明の賛美に行き着くといえばそうなのですが……。

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